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青空旅行記  作者: 秋月
三章 騎士の国ロザリア
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七十九話 取調

 地下アジトは、ディロックの想像していたよりもかなり大きかった。アリの巣のように張り巡らされたそこは、明らかにただの洞窟とは異なっているようであった。


 主要な通路の不規則な広がり方は天然の洞窟のそれと相違ないのだが、しかし細かな通路は魔法と人力の両方によって形成されているようであった。そして同時に、つい先日作られたと言う訳でもないらしく、床や壁は長年の放置により摩耗している部分が多く散見された。


 ディロックがアジトの中を不思議がって眺めていると、あまり緊張感のない表情のゴーンが、訳知り顔で説明し始めた。


「ここは昔、ロザリアの建国時に作られた秘密拠点だったんだってさ。それを今、流用して使ってんだ」

「ゴーン、余計なことを喋るな。この二人が密偵でないとは限らん」


 それを、細指の男が途中で遮る。


 ディロックは少し残念そうにしたが、結局何も言わなかった。


 確かにこの洞窟にまつわる話を聞きたい気持ちはあったが、折角の地下迷宮も地図を見つけられては意味がない以上、リスキーな行動を避けようと口を酸っぱくしてゴーンを止める男の考えもよくわかっていたのだ。


 マーガレットもそれは理解しており、古代文化を専門にしている彼女はひどく残念そうにしていた。我慢しなくても、口を塞がれている以上、何も言えなかっただろうが。


 だが、何も聞かない二人の代わりに、フランソワが退屈そうに口を開く。


「だからってこのまま、無言で案内を続けるつもりかしら? 良いじゃない、洞窟の概要くらい」


 その言葉に細指の男は強く顔をしかめた。フランソワと呼ばれた少女は男よりも高い立場にあるらしい。断りきれないのだろう、とディロックは少し、細指の男に同情した。


「……いえ、しかし」

「くどい。ゴーン、説明を続けて良いわよ」


 尚も食い下がる男をバッサリと切り捨てると、フランソワはゴーンの方を向いて言い放った。困惑しながらもうなずく少年を見て、ディロックが男に向ける同情はより強いものになった。


 別段、歴史に対して詳しいわけでもない少年は、細かい所は省くけどと前置きして話を再開した。


「ええと……ロザリアは昔、悪い(ドラゴン)に支配されてたんだ」


 フランソワは、その前提を既に知っていたのか聞き流していたが、ディロックとマーガレットは初耳だ。興味深そうに二人が頷くのを見て、ゴーンは言葉を続ける。


「建国王は竜に対する反乱軍(レジスタンス)の旗頭で、ここは反乱軍時代に使われた拠点のひとつなんだって」


 そう言って、少年は壁を指差した。するとそこには丁度、崩れかけの壁画があり、古い時代の名残が描かれていた。


 断片的な絵を見るに、おそらく火を吐く竜と、それに立ち向かう剣士――おそらくは建国王なのだろう。古い時代の英雄譚である。


 しかし、原始的な記録方法である壁画では、殆どの場合において言語が使用されることは無い。つまり、ディロックではこれらの壁画を、学術的観点から見る事はできず、興味を満たすだけに留まる。


 だが反対に、古代文化学を知るマーガレットにとっては垂涎ものなのか、彼女を連れていた若者をも引きずってでも壁画に近寄ろうとしていた。


 無論、いかに熟練の冒険者とはいえマーガレットは女の身。すぐに引き戻されることになった。壁画から引き離され引っ立てられた彼女は、酷く残念そうな顔をする。


 だが爛々と光る目と、鬼気迫る表情を目の当たりにした男は、彼女を縛っている縄を、おっかなびっくり引いて、少しでも彼女を壁画から遠ざけようとしていた。


 そんな、少し間の抜けた空気の中、細指の男が不意に立ち止まった。どうやら、ようやく目的地に到着したらしい。木製の古めかしい扉を開けると、中は簡易な取調室のようになっていた。


 反対側にもどうやら似た様な部屋があるようで、マーガレットはそちらへ連れられていった。ディロックもすぐに、取調室の中へと入る。


 部屋の内装は、机と、二つの椅子。それから、伝声管らしき金属の筒。


 部屋そのものは広いのだが、調度品と呼べるものもない、いわば必要最低限しかない内装が、ディロックに妙な圧迫感を感じさせていた。


 部屋に入ると、それまで護衛としてついていたうちの殆どが部屋の前で待機したのか、取調室に要るのはディロックと、細指の男、それから側近らしい若者だけであった。


 ディロックと細指の男が対面に座ると、まずは男の方から、悠然と話しが始まった。


「……では、尋問を始めるが。『看破(センス・ライ)』は既に発動している。嘘をつけるなどとは思うなよ」


 念を入れて、といった様子で、男はディロックを睨んだ。そもそも、男がどういう立場にいるのか、ディロックは知らない。知らないが、少年少女を本気で心配している所を見れば、決して悪人では無い事は分かった。


 だから彼は、別段質問の答えをはぐらかすつもりもなく、素直に答えるつもりでしっかりと頷いた。


「お前の名前は」

「ディロック。ディロック・ハトゥールだ」


 カリカリと、無骨なペンが羊皮紙を走る音が響く。どういう経緯だとか、どこから来たとか、そういった質問がしばらく続いた。


 取調は引っかかることもなく、十数分ほどで終わった。

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