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青空旅行記  作者: 秋月
一章 埋骨の森
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三十二話 捜索

 三人の子供を見送った後、冒険者たちとディロックは避難誘導を再開した。エルトランドの捜索もあるが、ひとまず村中探してみるのが一番だろうと考えたのだ。


 避難が遅れたものはほとんどが高齢者で、咄嗟に足が動かなかったのだろう。


 中には筋肉でがっしりとした見た目の老人もいたが、彼らは取り残された者を守っていたようで、避難誘導をしに来た旨を伝えると安心したように息を吐いていた。


 ユノーグは避難を指揮し、老人達は三人ずつ避難所へ送ることに決めたようだった。あまり大人数で動いては、不測の事態に対応しづらい。的確な指示であった。


 人の波が動き始めると、あっという間に時間は進む。荷物や家財などをもてるだけ持った老人たちへ、ディロックはまったをかけた。


「すまない、少し良いか。子供を……エルトランドを見かけた者は居ないか? はぐれてしまったようなんだが」


 彼がそういうと、老人達はそれぞれに顔を見合わせた。そして少し話し合う声がして、老人達の中から一人の男が歩み出てくる。


 屈強な肉体を持った老人は、避難が遅れた者たちを守っていたうちの一人だろう。背中に使い古された弓を背負っているのを見るに、猟師なのだろう。


 目つきは年経たことを感じさせない強さを感じさせ、しかし立ち振る舞いはやわらかであり、声は年月のまるみを感じさせる穏やかなものであった。


「エルトランドなら、一度私達のところに来ました。ただ、私達の無事を確認すると、すぐ走り出してしまって。てっきり、避難所へ戻った物だと」


 老人はそういうと、何か他にお聞きしたい事は、と言ってきた。後はエルトランドの行き先ぐらいだと思ったディロックは、しかし口を開こうとした瞬間にはたと動きを止めた。


「……話は変わるが、一つ聞きたい。猟師ティックというのは、もしやあなたか」

「はぁ……? 猟師でティックといえば、確かに私ですが」


 猟師ティックであるという確かな返答に、やはりか、と彼は小さく頷いた。半ば、請け負ったディロックすらも半ば忘れかけていたが、そもそもエーファ村へは猟師ティックの届け物のために寄ったのだ。


 紆余曲折を経てようやく会えた目的の人物だったが、ひとまずはエルトランドの捜索を優先するべきだ。冷静な部分の声に耳を傾け、小さく頭を横に振ったディロックは、再び口を開いた。


「あなた宛の届け物がある、後で風来神の教会に来てくれ。それはそれとして、エルトランドが何処に走って行ったかは?」

「確か、北の展望台へ向かってだったと思いますが……あの辺は道が入り組んでいるので、何処に行ったかまでは……お役に立てず申し訳ない」


 ティックの謝罪に、いや、と呟く。彼としても、エルトランドが突如としてこの騒動の中で動き出した明確な理由が分かっていないのだ。まったく情報すらなかった以上、ティックの持っていた情報も大きな助けとなっていた。


 一度こっちへ来たのだ。という事は、何かしら来る理由があったという事。老人達が集まっていた場所は石造りの大きめな家の中で、火の手が上がりそうにはない。


 という事は、エルトランドが言っていた火とは関係ない理由で来たのだろう。少年はここに老人が集まっている事を知らなかったはずだ。


 だが、緊急時に人が集まるという事は知っていたのではないか。他の木造家屋よりは頑丈そうな建物だ。何かあったとき、此処を一時的な避難所とすることは少し考えれば分かる。


 来てすぐのディロックやユノーグらとは違い、それなりに長く住んでいるであろうエルトランドの事だ。それは把握していたはず。


 であれば、今少年が巡っているのは人が集まる場所か。考えをまとめきり、ディロックはひょいと顔を上げてティックに向かって問い掛けた。


「ここと避難所以外に、緊急時に人が集まるようなところはあるか?」

「人が集まるところ……いえ、ここと避難所以外では思いつくところは」


 そうか、とディロックが呟くと、他の可能性を模索した。人の集まっているところではなかった、あるいは既に巡り終えたとするなら、次は別の条件の場所を探しているという事になる。


 であれば、重要になるのは子供達が聞いたという火という言葉だ。ロミリアやモーリスと同じく、故郷が灰と成ったエルトランドが火と言う言葉を使って走り出したという事は、同じ規模の災害が起こりかねないという事か。


 なら、人が集まりやすいところを確認し終わったと仮定して、次の場所はどこか。被害が出やすいところという点で共通する条件に、ディロックは一つ思い当たった。


「では、この村で特に燃えやすいところが何処かわかるか? あるいは、広く燃え広がるであろう場所だ」


 燃えやすい場所、と聞いて、ティックは首をかしげたが、すぐに顎に手を当てて考え始めた。小さく唸っているところを見るに、どうも難航しているようである。


 すると不意に、冒険者のうちから魔法使いの二人組みが歩み出てきて、二人の近くまで寄ると口を開いた。


「なあ、火が付けやすい場所を探してるのか?」

「だったら、多分住宅地の密集地区だよ。本当にぎっちり詰まって、隙間もほぼ無いようなところ。火は広がるし、元がどこだか分からないから消し辛い」


 その言葉に、ティックも何か思い当たる節が出来たのか、あそこなら、と言った。


「此処から北東に少し行った場所なら、そんな場所があります」


 そこは開拓が進む前の村があった場所で、狭い土地を有効に使うために狭い土地に家が何件も立っているらしい。それに加えて、年月を経たがゆえに古く乾燥したものが多いそうだ。


 そこならきっと燃えやすいよ、と二人組みの片方が言った。話を聞くと、どうやら炎の魔法を専門に扱う魔法使いだそうだ。火を使うからには、火に習熟し、どう使えばどうなるのかを嫌と言うほど師に教えこまれたらしい。


 なんにせよ、この状況を打破するにはありがたい情報ではあった。ユノーグに話し、足に自信のある冒険者を何人か借りて、ディロックは北東の密集地区へと急ぐことにした。


 怪物が残っているかも知れない上、最初に怪物を作って操った何者かもまだ見つかっていない。


 そんな状況下である以上、エルトランド単独で動くのを放置しているわけには行かなかった。一刻も早く見つけ、連れ戻さなければならない。


 複雑で細い道を右へ、左へ、冒険者たちと足並みを合わせて走る。ディロック含めて五人ほどの即席パーティだが、エーファ村の地理を知っている者を先頭にして、その誘導を聞いて動く事で道に迷う事もない。

 人を軽く超えた速度を出せるディロックと比べれば多少遅いが、それでも充分すぎるほどの速さで進む事が出来ていた。


 ただそれでも、エルトランドの姿は一向に見つからない。結構な距離を走って、住宅が密集している区でも中心あたりに来たはずだが、少年の居た痕跡も見つからない。


「……らちが明かんな」


 誰とも無くそういうと、休み無く進めていた足を止めた。ディロックもまた足を止めると、冒険者達と顔をあわせて話し合い始める。


「どうする? このまましらみつぶしは時間がかかりすぎる」

「これだけ密集してると、屋根に上っても大して変わらんだろ?」

「散開するにしたって、何かしら連絡手段がないとな」

「ここいらには足跡もない。そもそも見つけられるのか? もっと人を集めて来たほうがいいんじゃないか」


 ディロックも話し合いに参加して、次々に案を出して行く。出来るか出来ないか、効果的かそうでないかも無視して無数に提案されていくが、中々効果的なものは無い。


 しばらくあれでもない、これでもないと続けていると、一人の魔法使いがふと口に出した。


「せめて何かしら特徴的なものがあれば、魔法で追跡できるんだがなぁ」


 その言葉に、ディロックが振り向く。その勢いに、魔法使いはどこかきょとんとした顔でどうした? と問い掛けた。

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