2.炎鬼
「よっし、午前の仕事はこんくらいか。お前ら、休憩だ!」
「うーっす!」
「よっしゃあ、メシだー!」
「姉御、あざーっす!」
蒸気と熱で満たされたボイラー室の中。あたしはポーションの撹拌作業を終えて、周囲に指示を出しつつ持ち場を離れた。
長い櫂を振るった全身は汗まみれで、疲れもある。けど、息も絶え絶えっつー程じゃない。
他の奴隷なら潰れそうな仕事量を与えられているが、鬼の体力と火妖精の熱耐性を兼ね備えたあたしならこなせる。
あたしの主人は、そうした事情を踏まえた仕事の割り振りが抜群に上手い男だ。
加えて、十分以上に働いた際の“ ご褒美 ”も期待できる。
「さぁて、昼メシ昼メシ。しかし、ハープルーは上手くやってっかな?」
作業着を緩めて、顔や首筋を濡れタオルで拭く。額の角や首輪を邪魔に感じていたが、今じゃもう慣れた。
蒸し蒸しするボイラー室から出た瞬間、秋口のやや涼しい空気がそよいでくるのが心地いい。
「あれ以来、あたしの管轄からは外れちまったし」
深呼吸をしつつ頭を冷やす。二ヵ月くらい前に新しくやってきた、あの後輩のことを思い出してあたしは呟いた。
最初に見た時は淀んだ沼のような紺碧の瞳をしていた、青く揺らめく半水妖精の少女。
あたしが教育してやって少し生気を取り戻した後、一部の奴隷の反乱に巻き込まれた際にとんでもない力を発揮した。
噂ではそろそろ農場に復帰したらしいが、いまいち場所や時間が噛み合わずに、あたし自身の目で確かめられずにいる。
一度は教育係を引き受けた相手だ。あたしとしては、どうにも安否が気になる。
「旦那なら心配ねぇとは思うが……」
「ハープルーなら、ケント殿には良くしてもらっているようだ」
食堂にたどり着いた所で、横から声をかけられた。
そっちを見ると、まず灰色の毛皮が目に入る。首輪と簡素な衣服はどちらも緑色。
シュッとした輪郭に、三角形の獣耳から4本の指趾まで一本筋が通った凛とした立ち姿。琥珀色の瞳は鋭く、どこまでも真っ直ぐに前を見据えている。
狼の特徴を色濃く残す女獣人……って呼ぶと怒るんだったな。その月狼は、長い鼻面を上向きにしてあたしから目を逸らさない。
「おうウルヴァーン、久しぶりだな。最近あんま見なかったからよ、心配してたんだぜ?」
「貴様と近づきたくない故、意図的に距離を置いていた。いい加減に理解しろ、某は貴様が嫌いなのだ」
女月狼のウルヴァーンは、敵意を隠さずに正面から告げてきた。ここまで来ると、いっそバカ正直ですらある。
他の奴ならこの時点で殴り合いが始まってもおかしくないが、あたしとしてはただ困った顔をすることしかできない。
「つってもな。あたしはあんたのことが嫌いじゃないんだが」
「貴様の意見でなく、某が嫌いだと言っている。今回も、ケント殿の言いつけでなければ話しかけたりしない」
「ん、旦那? そういや、ハープルーがどうのって」
「良くしてもらっている、という言葉通りだ。水妖精として破格の能力を発揮し、最低限の読み書きも覚え……ケント殿の寵愛も受けている!」
それまでは、あたしに嫌悪感を向けつつも、どこか淡々とした口調を保っていたウルヴァーン。
ただ、その発言の最後にはハープルーに対する隠しきれない怒気が滲んでいた。
「んだよ、落ち着けよ、これからメシなんだ。それに、旦那の節操のなさは今に始まったこっちゃないだろ?」
「どうであれ、某がケント殿に構っていただける時間が減ることに変わりはない。だいたい――」
「メンドくせぇからその辺で勘弁してくれ。用件はそれだけか?」
「いや、届け物だ。規則が厳しくなったのと怪我人が出た関係で、人員配置が変わるらしい。それと、主殿とハープルーからの個人的な手紙だ」
そう言って、ウルヴァーンは何枚かの紙と封筒を取り出した。
あたしはそれを受け取り、ざっと目を通す。……うん、これなら対応できるかな?
「了解。細かい部分はこっちで調整する」
「伝えよう。ではな」
「あっ、おい。これから一緒にメシでも――」
「何度も言わせるな。某は貴様が嫌いなのだ」
あたしからの昼食の誘いはお気に召さなかったらしい。
ウルヴァーンは逆関節みたいな二脚で素早く去って行った。あたしは紙束を作業着のポケットに突っ込みつつ、目を閉じて首を振るしかない。
このやり取りは周りの注目を集めていたようで、あたしと一緒にボイラー室で働いている人間の奴隷がおずおずと話しかけてきた。
「姉御。なんですかい、あの灰色の獣人は」
「その呼び方は止めとけ、殺されるぞ? ウルヴァーンは、半年くらい前に正式に奴隷になった奴だったかな。ケンカが超強いのと、旦那のお気に入りだってんで、もう“ 緑 ”の首輪をもらってる」
「へぇっ、半年でそれですか!?」
このチェインズ農場で、緑の首輪は7つある序列で上から3番目を示す。
10年近く働いて現場を仕切っているあたしですら、ようやく上から2番目の“ 茶 ”であることを考えると、異例な速度の出世と言えるだろう。
「しっかし、それでも半分は新顔みてぇなもんでしょう? だってのに、姉御にあんな態度……」
「いいんだよ、なんだかんだで仕事はキッチリこなすかんな。だから、あたしはウルヴァーンが嫌いになれないんだ」
「へぇ、仕事熱心なことで。でしたら、オレも仕事をこなせば姉御に舐めた口を聞いてもよろしいんで?」
黄色い歯をむき出しにしてニヤニヤする部下を、あたしは鼻で笑ってやる。
「まずは、ボイラー室であたしより動けるようになってからだな。湯気でのぼせてポーションに落ちそうになるようじゃ、まだ甘ぇ」
「へへへ、それを言われるとどうも」
軽口はその程度にして、あたしらは食堂へと入っていった。
これから、午後もきつい作業が待っている。腹を満たさないことには満足に動くこともできはしない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その日の夜。あたしはでっかい寝室で男と一緒のベッドに入っていた。
お相手はもちろん、ここチェインズ農場の主である、白く濁った左目を持つケントの旦那だ。
「いや、旦那には本当に感謝してんだぜ? 住んでた集落も根こそぎ略奪されて、お袋も舎弟連中も殺されちまった。途方に暮れてた所を奴隷としてとっ捕まってどうなるかって時に、こうもマシな居場所を与えられるたぁね」
「随分と、前置き……ゼェ、するね。なにか……ハァ、悪い、報告でもあるの?」
予防線を張ってることは、あっさりバレちまった。
旦那は息を切らしているが、それでも頭は回るしあたしの雰囲気は感じ取れるらしい。
とりあえず、体力的なことには触れないのが吉かね。
「旦那、もうちょっと節度を持ってくんねぇか。周りの雰囲気が悪くなる」
「ヒュー……ヒュー……ひょっとして、ウルヴァーンのことかな?」
「それも含めて、かね。元から旦那が他の女に手ぇ出すと嫉妬してたけど、最近はちとカリカリしてんな。具体的な時期は、旦那がハープルーを囲った辺りからだ」
「ゼヒッ、あー……それは、そのー……」
旦那はどうにも歯切れが悪い。ダメ押しのために、ベッド脇に置いてある服のポケットから、便箋を取り出してやった。
昼間に灰色の月狼ウルヴァーンから経由されたそれには、つたないながらも一生懸命に書いたことが分かる字でハープルーの言葉が綴られている。
『ダブロッドさん、ごほうこくがおくれてごめんなさい。
わたしはいま、ケントさまのもとではたらいています。よみかきもおしえてもらいました。
ダブロッドさんのアドバイスもあって、じゅんちょうにはたらけてるとおもいます。ケントさまともなかよくなれました。
ほんとうにありがとうございました。』
一連の文章を音読すると、笑いがゲラゲラと止まらなくなった。
それはハープルーに対する微笑ましさでもあるし、そんな半水妖精の少女とよろしくやった旦那へのからかいでもある。
「『なかよくなれました』だってよ!」
「あー……」
「別に責めちゃいねぇさ。ハープルーが読み書きできるようになったのも、旦那のためにやる気を出したからだろ?」
「ああ、彼女は意欲的に学んでくれたみたいでね。教師役の黒首輪も教えがいがあるって言ってた」
懐かしい話だ。
昔は、旦那自らあたしにも読み書きを教えてくれたっけ。
「まあ、これだけ奴隷の扱いがいい農場ってのは他にないだろうさ。旦那に心酔する奴が増えるのも分かる」
「そ、そうかな? そう言ってもらえると――」
「だからこそ、旦那の取り合いでケンカも起きる」
「…………」
旦那はバツの悪そうな顔をしたまま、言葉が続けられそうにない。
「旦那が見境ないのは知ってるし、力関係を考えると農場主が奴隷を侍らせるのも仕方ねぇ。ただ、手ぇ出すんなら出すで管理はちゃんとしてくれよ。それが甲斐性ってもんだろ?」
「返す言葉もないね。僕もウルヴァーンがここまで嫉妬深いとは思わなかった」
旦那の人物鑑定にも見落としがあったらしい。珍しいこともあるもんだ。
あの月狼は、そこまで旦那の度肝を抜くような存在だったのか。
「ウルヴァーンはそんなに魅力的だったか? 確かに忠誠心は尋常じゃねぇし、ケンカもメチャクチャ強いけど」
「いや、その……耳とか尻尾とか毛皮とかさ……」
旦那は目を逸らしたまま、モゴモゴと答えた。
あたしは蒸気のようなため息をつかざるを得ない。
とりあえず、旦那をすっぽりと覆うように、裸のままの全身でギュッと抱きしめた。体温は意識してかなり高くしてある。
「熱い熱い熱い! ごめん! ウルヴァーンはこっちでなんとか対処するから!」
「ギャハハ、旦那はマジで雑食極まりねぇな! まあ、あたしみたいなデカ女に手ぇ出す時点で分かっちゃいたけどよ。仕方ねぇ、他の連中はあたしの方でも取りなしとく」
「ありがとう! 本っ当に助かる! ダブロッドがいてくれて良かった! 愛してる!」
「なら許す」
そう言って、あたしは身体をそっと離した。
旦那はちょっと驚いたような顔をしつつも、かけ布団をバサバサとはいで熱を逃がすのは忘れない。
随分と滑稽だが、同時に可愛らしくもある。そんな愛するご主人様へ、あたしは歯をむき出しにして笑った。
「ちょろいと思うかい? 旦那のことは好きさ。それこそ、こうやって抱かれてもいいくらいには」
「ああ、うん。それは男冥利につきる」
そう、そのくらい旦那は好かれてる。あたしに限った話じゃなくな。
「旦那に想いを寄せてる奴は沢山いるんだ。だから、他の女の気持ちも汲んでやれ」
「ん……ありがとう。でも、さっきから思ってたけど、こういう場で他の女の子の話題を出すかな。普通はそういうの嫌がるもんだけど」
「あたしは色々と普通から外れてっからいいんだよ。旦那は好きだけど、それ以上に優先すべきはこの居場所さ」
奴隷側からの堂々たる順位付け。
それに対しても、旦那は困ったように苦笑するだけだ。
「そんなにこの農場が好きかぁ。なんだか、僕の方が嫉妬しちゃいそうだよ」
「旦那は他の女たちを散々嫉妬させてんだ。こんくらい可愛いもんだろ」
「むぅ……」
それを言われると弱いらしい。
旦那は渋い顔をしつつも、反論はしなかった。
「だから、囲ってる女にもうちょっと気を使ってくれ。痴情のもつれでチェインズ農場が内戦とかマジ勘弁だ」
「ダブロッドは割り切ってるね。自分が修羅場に巻き込まれたりする可能性とか考えないの?」
「そりゃ考える。でも、旦那が頼りねぇからあたしが抑え役に回るしかない……ふあぁ、もう眠い。明日も作業があっから、あたしはもう寝るぞ」
「中途半端な所で終わってくれるよね!?」
こうして、あたしたちの夜はいつも通りにふけていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
明けて次の日の午後。
チェインズ農場では、重労働による疲労や注意力欠如からの怪我を防ぐため、日に2回ほど小休止の時間がある。
その貴重な休み時間で、あたしはぼんやりと農場の景色を見やっていた。
薬草の中でも廃棄される、茎の細切れで口寂しさを紛らわせると、どことなく気分が落ち着くのが分かる。
「たぶん、ここがあたしの終の棲家だ」
秋口も半ばになり、薬草が全て収穫された農場。それでも奴隷達はいつもと変わらず労働に勤しんでいる。
次の作付けに向けて土をいじる奴。薬草の加工のために風車が併設された圧搾場へ出入りする連中。あたしのように小休止しているグループもいる。
どこか牧歌的な雰囲気が漂うチェインズ農場を眺めるのが、あたしは大好きだった。
「行くアテがなかったあたしに、この場所を用意してくれた。そんな旦那には本当に感謝してるよ」
微妙に苦みのある茎をバキバキと噛み締めつつ、あたしは誰ともなしにつぶやく。
放浪の鬼らしい父と、出自がアヤフヤな火妖精の母の合いの子であるという血筋。そんな産まれから、蛮族大陸の集落では居場所がなかった。
別の集落から出てきたあぶれ者同士で組んでいた時もあったが、近隣で鼻つまみ者扱いなのは変わらない。
当時のあたしには、帰属意識というものがよく理解できていなかった。
とはいえ、そんな境遇でも故郷は故郷。
水妖精との戦争で、生まれた集落が更地になった時は愕然とした。
唯一の肉親である母もつるんでいた舎弟たちも死んじまって、自分が依って立つべきものはどこにもない。
一人残された後も、自国であるはずの火妖精側から略奪のおかわりが来て、身柄が捕らえられた。
結果論だが、そこから開拓大陸まで落ち延びたのはむしろ幸運だったとすら思える。
今のあたしにとっては、このチェインズ農場と旦那だけが縁で、それを守ることこそが至上命題だった。
「だから、ウルヴァーンの奴も嫌いになれねぇんだよなぁ」
ウルヴァーンは嫉妬深い。旦那が他の女を抱く度に不機嫌になるし、その感情を隠そうともしない。
それでも、あいつが旦那や農場のために貢献してくれているのは分かるし、致命的に和を乱すようなことはしない。
あたしに直接的な感情を向けて来るのも、月狼としての出自が絡むと同時に、あたしならそれを受け入れるという、ある種の信頼関係が成立しているからだ。
そんなウルヴァーンは、普段からの仕事も合わせて結果的にこの居場所を守っている。そうした彼女を嫌いになることは、どうしてもできなかった。
「姉御ー、そろそろ時間ですぜ?」
「ん? おう、じゃあ行くか」
ぼーっと物思いにふけっていたら、いつの間にか時間が経っていたらしい。呼びかける部下の声で我に帰った。
口内でひと塊になった茎を道端に吐き出し、大きく伸びをする。
これから夜に向けて、この日最後の作業だ。気合いを入れると同時に、体温が上がって輪郭が陽炎で揺らめくのが分かった。
「野郎ども、もうひと踏ん張りだ! 今日の夕飯は肉が出るぞ!」
「おっしぁあ!」
「いっちょやんぞぉ!」
「さっさと終わらせましょうぜ!」
部下たちの声を背に、あたしはボイラー室へと足を運ぶ。
その心は、日常と平穏への喜びで満ち溢れていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夜のチェインズ農場。屋敷の奥まった場所にある書斎で、俺はポツポツと呟いていた。
徹底した防音処理が施された部屋なので、その声を聞けるのは中にいる者だけだ。
「地縁や血縁ってのは厄介なもんでな。本人がどれだけ否定しようと、産まれってのは生涯ついて回っちまう」
白濁した左目は意識してギョロギョロと動かす。
その視界内に入るのは、結い上げた金髪と黒い首輪が特徴的な妙齢の女であるスレイドル。
俺の目の動きに特に動じた様子もなく、彼女は相槌を打ってくれた。
「確か、ダブロッドもそうでしたか」
「ああ、鬼との合いの子ってことで忌避されてたがな。< ステータス看破 >で見たら、< 火妖精王の系譜 >ってあるじゃねぇの。例え傍流だろうが、“ ヒモ付き ”ってのは奴隷を仕入れる上で面倒事しかない」
「だから滅ぼしたのですか? 火妖精の国を」
「人聞きが悪いな。敵対国に対火妖精用の装備を格安で大量に流しただけだ。それに、今でも火妖精の王国は続いてる」
「ケント様の意を通しやすい新王の元で、ですが。しかし、そうまでしてダブロッドが欲しかったのですか?」
「それもあるが、実験的な意味合いも大きかった。絶望の淵から救い上げられた奴隷が、果たして俺にどれだけの忠誠を誓うのか」
結果は上々だった。
俺が農場主になってからの古参奴隷であるダブロッドは、奴隷達のまとめ役として実に重宝している。
今回も、ウルヴァーンの異変を察知して俺へと報告をしてくれた。
「奴隷ってのはその境遇だけで悲劇だからな。ドン底から拾い上げた後で普通に人間扱いすれば、そりゃ感謝もされるわ。病気の治癒や美味い食事の用意、燻ってた悩みとかも解決すりゃ決定的でな」
鞭で叩いて言うことを聞かせるのも必要だが、向こうから打算抜きの真っ正直な好意を持ってくれるなら、それが一番いい。
まだ俺がずっと若かった頃、境遇を誘導されて実験台にされたダブロッドは、この農場における奴隷育成技術にも多大な貢献をした。
「俺個人への想いよりは、農場への帰属意識の方が強いのは少し予想外だったかな? 結果的にハーレムの調停までしてくれるのは、嬉しい誤算だったけど」
「色事は面倒が増えます。女奴隷に手を出さないという発想はないのですか?」
「ないね。食事は不味いし娯楽も退屈。こんな時代のこんな場所に産まれたら、女を侍らすくらいしか楽しめないだろ」
「その手段が非常に悪質なのが問題ですが。それに、囲う女を増やすごとに一人あたりにかける時間は減ります」
スレイドルが少し拗ねている。左目で見ると、< 好感度 >がほんの少し下がっていた。
仕方ない、機嫌を取るか。
「分かってるくせに、いちいち俺を試すなよ。愛しているぞ、スレイドル。俺の最愛の奴隷」
その言葉は覿面に効果を発揮した。
やや棘のある雰囲気をまとっていたスレイドルは、一気に態度を軟化。< 好感度 >もさっきよりずっと上がっている。
スレイドルは目を閉じてため息をつき、諦めたようにこう言った。
「ケント様、あなたの『愛してる』はまるで鎖のようです。奴隷の心を気分良く縛ってくださる」
そうして、スレイドルは俺を後ろから抱きしめながら頬を擦り付けてきた。
俺が最初に買った奴隷にして、右腕のような存在でもあるスレイドル。
彼女にかけた言葉は、なによりも重たいモノのようだった。