王族兵
ギールがアントレイヤ邸に訪れてから数日後の話…
アントレイヤは現在、療養中の為、中央軍の最高司令官の地位を剥奪されていた…
アントレイヤの代わりを現在務めているのは南防衛軍の最高司令官であったジキと言う男であった…
ジキは現在再編成された南討伐軍50万を指揮し、同じく再編成された南軍30万を相手に各拠点を巡って戦を仕掛けていた…
そんな最中…
アントレイヤとロウの2人とアントレイヤの護衛兵50人がこの国の王様が住む王宮に向かった…
ギールがアントレイヤ邸を去った日から何かを考え続けていたアントレイヤが突然、王様に会いに行くと言いだしたのでロウが無理やりアントレイヤについてきたのだった…
そしてアントレイヤは王宮の周りにある町でロウを馬車から降ろした…
念のためマーサをロウのお守役にして…
「マーサ、後を頼む、その辺でロウに社会見学でもさせといてくれ」
アントレイヤは馬車の窓を開けマーサにそう声をかけた…
「はい、はい、分かりましたよ」
護衛兵達のリーダーであるマーサは軽くふてくされたようにアントレイヤにそう言った。
「じゃあ、出してくれ」
アントレイヤが馬車の運転手にそう言うと数十台の馬車がマーサとロウの2人の前から王宮に向かって去って行った…
「じゃあ、どうしようかな… ロウ、とり合えず王宮の周りでも見学するか?」
マーサは少し考えた後、ロウにそう聞いた。
「はい」
ロウは頷きそう答えた。
王宮の周りには高さ2メートル程の柵がしてあり四方にある出入り口以外は全てその柵で囲まれていた…
そして柵の間からは王宮の様子を見学できる様に作ってあった…
この王宮は独立戦争が始まる以前には観光客が多く訪れる観光スポットにもなっていたのだった…
ロウとマーサの2人が王宮の周りを歩き始めてしばらくした時、軍服を着た兵士が1人早足で2人の元にやって来た…
その軍服の右肩には鷹が刺繍されていた…
「お前達、ここで何をしている?」
王族兵が毅然とした態度で2人に向かってそう聞いてきた…
「あっ、すいません、王宮の見学をしてました」
マーサは頭をかきながらそう答えた。
「こんな時期に王宮の見学に?」
王族兵が怪訝そうにそう言った。
王族兵が疑いの顔で2人を見てきたのでマーサはまずいと思い…
「実は… この子はアントレイヤ様の御子息でして… えぇと、それでですね、王様にアントレイヤ様が謁見に伺っている間に王宮の見学をと思いまして… 」
マーサは困った様に王族兵にそう説明した。
「あぁ、そうでしたか、アントレイヤ様の… 確かに今日、アントレイヤ様一行がお見えになると聞いてました… そう言う事なら… どうぞ見学して行って下さい、ただし、コレを付けて行って下さい」
王族兵は納得し、そう言った後、大きいハンカチの様な物を軍服から出し2人の右腕に巻いた…
「これは見学許可証の様な物です、他の兵士が一目で不審者かどうかコレで判別しますので付けて行って下さい、見学し終わったら門の所にいる兵士に返してくれればいいので」
王族兵は2人にそう言い去って行った…
「マーサさん、あの右肩に鷹の刺繍をつけた兵士って」
ロウが去って行く王族兵を見ながらそう言った。
「あぁ、王族兵だ… ロウ、あいつらには絶対に手を出すなよ… あいつらは物凄い訓練を受けて来て合格した一握りの逸材達だ… 手を出せばとんでもない目に合うぞ」
マーサはそう言いながら去って行く王族兵を見ていた…
「それに… 王族兵を殺したりした日には、殺した本人はもちろんの事、家族、両親、親戚、一族郎党、皆殺しの憂き目にあうからな… 」
マーサはロウの方に向きなおしそう教えた。
「えっ?一族郎党… 」
ロウはセナとあの教会での王族兵とのやり取りを思い出し身震いした…
( もし、あの時セナが王族兵を殺したりしてたら… )
「まっ、ロウが王族兵とどうにかなるなんて事はないか… じゃ、行くぞ」
マーサはロウの頭を撫で歩き出したのだった…




