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受難するユリは反撃す 1

今日は中・高生以上向けかな。

 双子に生まれると言うのは多くの人が経験できることではない。

そして双子を育てるというのも多くの人が経験できることではない。そんな経験談を三人娘の末っ子、双子の妹を題材にお伝えできたらと思う。


まず、生まれるまでが大変だった。妊娠八ヶ月の時だったか、看護婦さんが「あらー、腹囲が一メートル超えちゃったわー。」と笑った。臨月を超える大きさである。なので臨月近くになると立っても座っても横になってもしんどい。お腹の皮が限界まで伸びきっているので、双子が中で動くと手の指の形までよく見える。夜になって、二人がお腹の中で運動会を始めると、お腹がゆらゆら波打ち始めるのだ。とても眠れるものではない。自分の意思とはかかわりなく動く物体がこの中に二つ生存しているということを嫌でも認識させられる。


この大きなお腹。私がいつも想像していたのは、風船の中に入っている丸い羊羹のお菓子である。ゴムにぷちっと爪楊枝を刺すとくるっと皮が剥けるあれである。

だから先生に「これは帝王切開したほうがいいな。なんとか片方の(ユリ)はひっくり返って頭を下に向けたけど、もう一人(エリ)は返りそうにないね。こうなるとインターロッキングっていって、出産時に顔がぶつかって出てこられなくなって呼吸が出来なくなるから母子ともに危ないんだ。」と言われた時にはぞっとした。メスがぷちっと皮にあてられると、お腹がはじけ飛んでしまうのではないかと想像したのだ。


私の思いは杞憂に終わった。と言いたいところだけど、お腹の縫い目を見てみると結構苦心惨憺に縫ってある。少々は弾けちゃったんではないかと想像する。


さて、ユリはお腹の中でも3130グラムのエリのせいで大きく育つことが出来なくて、2670グラムと小ぶりな状態でこの世に生を受けた。最初の5日間は保育器のお世話になる。

そして、家に帰ってからも受難は続く。なにせ隣に寝ている者の声が大きいのだ。家中のふすまを震わせるぐらいの声で泣きわめくのである。その騒音の中でいかに睡眠をとるかを考察したユリは、相手の口の中に自分の指を突っ込むという技を身につけた。

エリはその指を母親の乳首と思い込み、なんとかお母さんが到着するまでの急場を宥めてもらったのだ。


生後2か月の終わりに、大飯ぐらいのエリのせいで足りなくなった母乳から、哺乳瓶の乳へと切り替わった。ユリはこれ幸いと両手で哺乳瓶を持って飲む技を開発した。生きていくためには自分でなんでもしないと食いっぱぐれてしまう。それがエリと共にお腹の中を含め1年近く暮らしてきたユリの悟りだった。


ハイハイをし始めたのは身体の軽いユリのほうが早かったのだが、エリが這い始めると酷かった。大人しく味わっていた哺乳瓶の乳を横から奪い去られてしまったのだ。見ると、エリは自分の分を勢いよく飲んでしまい、哺乳瓶を遠くに投げ捨ててからこちらに襲い掛かってきたらしい。・・・なんて奴だ。これは泣くしかない。弱々しくホニャーホニャーと泣いていると、やっとお母さんが気づいてくれた。「あらっ、ユリ、エリに獲られたの?」やっともらえた哺乳瓶のお代わり。ユリは取られては大変と乳首を咥えてぶら下げたまま得意のハイハイでエリの側から逃げ出した。これは、立たねばっ。立って歩かねばっ。とこの時強く思ったのだった。


そうして立って歩き出したユリは、一つの技術を身につける。障子を開けて閉める技術である。これでエリから逃げられる。そう思ったのだが・・・目算が甘かった。

エリは障子の前に立って大声で呼ぶのだ。「ユリー、ユリー!」うるさいので開けてあげる。

開けてもらったエリはこれで味をしめた。それからは自分で開ける努力をしようともせず扉の前に来ると大声でユリを呼ぶようになった。

「ユリー、ユリー!」そうすると遥か向こうで遊んでいたユリが走って来て扉を開けてやるのだ。人力自動ドアである。・・・ユリしもべ?



しかし頭が回り始めたユリの反撃が少しずつ始まって来る。




まだ続きます。

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