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6畳半のテラフォーミング  作者: 髙 仁一(こう じんいち)
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ハニートラップ ver.1.0

ハニートラップ


 時間がない。私は叫び声をあげていた。地中深く閉じ込められてから、7年。閉じ込められた、と言っても私にはそれ以前の記憶がない。気づいたら、地下深くに私はいた。そして地上に出るために力を蓄えてから、少しずつ穴を掘ることによってやっと地上に出ることができたのだ。これまでの苦労ゆえに、もう自分の体が2週間ももたないことを私はわかっていた。自分の体のことは自分が一番わかっている。せっかく地上に出てこれたのに、これではあんまりだ。私は悲しみにくれ、ただ叫ぶしかなかった。せめて、この命を次の世代へ引き継ぐことができれば…。


 彼はただただ、叫んでいた。彼が叫んでいる屋敷は今はもう住む人のいない、古い屋敷であった。地上に出てから、やっとの思いで見つけた屋根のある、雨風をしのげる場所だった。彼はそこで、もう何日もないていた。隣に家があるならば、そこの家族は彼の叫び声を不快に思っただろうが、そこは辺ぴな場所にあったため、彼の叫び声を聞くのは時々遊びに来る近所の悪ガキたちだけだった。そのせいかはわからないが、その屋敷は辺りの子供たちの間では「お化け屋敷」と呼ばれていた。自分はこの誰もいないところで、寂しく死んでいくのかと思い、さらに悲しくなって彼は叫んだ。ただ、叫んでいた。誰に聞いて欲しいわけでもなかった。彼はただ、叫んでいる時だけは、気持ちが少し安らいでいた。


 あくる日も、私はなき続けていた。どこからこのエネルギーはくるのか。7年も地下にいた鬱憤を全て吐き出すまでは、私は叫ぶことをやめないだろう。そして全て吐き出したあと、静かに死ぬのだ。そう思っていた。しかし、それは違った。私の叫び声を偶然聞きつけたのか、それとも幻覚か、一生で一度も見たことがないような、とてつもなく綺麗な女の子がすっと現れたのだ。そして私に声をかけた。


「ねぇ、わたしについてきて…」


 彼女からはいい匂いがして、私は幸せな気持ちになった。よく見ると、彼女には羽が生えている。ああ、そうか。私はやっと、天国に行けるのだ…。私は自分の羽を広げて、彼女と一緒に空を飛ぶことにした。彼女の後には、私以外にも、私と同じように魂を救われたものたちが一緒になって空を飛んでいた。みんなで天国に行こう。とてつもない高揚感を感じていたその時、彼女の背中がパックリ開いて、中から放射状に網が飛び出してきた。


「どうだ!俺のウルトラセミ捕りちゃん3号は!オスを惹きつける特別配合のフェロモン!本物と見間違うほどの精巧な羽ばたき!徹夜して研究し尽くし、完成させたかいがあったぜ!どうだ!30匹は捕まえたぜ!」

「うわー、負けたー。ターくんのロボット強すぎだろー。」

「へっへっへーっ!」


 近所のガキ大将が得意げに自分の作ったセミ型ロボットを自慢している傍らで、彼は網の中で、仲間の求愛の叫び声の中、息を引き取った。

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