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6畳半のテラフォーミング  作者: 髙 仁一(こう じんいち)
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機械の畑 ver.1.0

機械の畑


 「この星を全て、りんご畑にする」。それが、旧式の農業用ロボットであるアップルアルファ(AppleAlpha)にプログラムされた願いでした。しかし、実のところ「法律や秩序を守らなければならない」ともプログラムされていたため、それは到底叶うことのない願いでした。その結果、彼は決められた範囲で、毎日毎日、りんごの木の世話をするだけでした。

 農家の商売が順調なようで、畑を拡大させることになりました。夢にまた一歩近づけると思った彼は、喜んで畑仕事に精を出しました。しかし、実のところ彼の頭脳と体はとても古かったため、2つの大きなミスを犯してしまいました。一つ目のミスは最後の一本のりんごの苗を植える穴を掘っている時に、取れかかっていた自分の部品を落としてしまったことです。二つ目のミスは、それをりんごの苗と勘違いしてしまったことです。その結果、最後の一本は植えられることなく、畑の拡大の作業は終わってしまいました。

 それからもアップルアルファは、毎日毎日、りんごの木の世話をしました。

 ある日、彼は異変に気付きました。他のりんごの苗がすくすく育っていく中で、一本だけ、育たない苗があったのです。しかし、それを諦めて捨てるわけにはいきません。「りんごを一本も無駄にしてはならない」とプログラムされているのはもちろんですが、彼のりんご農家としての誇りがそれを許さなかったのです。彼は問題を解決するためにとても、とても深く考えました。思考回路はショート寸前で、焼き切れそうになりました。そして、ある答えを出しました。彼はその苗が、自分の部品である古い歯車と成分も、ギザギザも、ぴったり合うことを発見したのです。彼は自分の体から部品を取り出し、りんごの苗に取り付けました。りんごの苗はちゃんと成長しました。彼はそれを見て安心しました。それから失った歯車の代わりに、剪定した木から作った歯車を自分の体に取り付けました。

 それからもアップルアルファは、毎日毎日、りんごの木の世話をしました。

 ある日、彼はまた異変に気付きました。この前と同じ木が、また育っていなかったのです。彼は再び、深く考えました。前例から対処法を学んだ彼は、自分の体の中で使っていない部品を全て取り出して、そのりんごの若木に取り付けました。りんごの若木はちゃんと成長しました。彼はそれを見て安心しました。

 それからもアップルアルファは、毎日毎日、りんごの木の世話をしました。あの育ちの悪い若木には他よりも大きい愛情を持って、世話をしました。実際、彼は少々不便になっても、自分の部品を若木に取り付けることをためらいはしませんでした。


 ある日、アップルアルファの主人が言いました。


「戦争が始まった。ここは戦場になるから、私たちは避難をする。人がいないとなれば、何も攻撃されないかもしれないから、お前はここのりんごの木の世話を続けてくれ。じき、私たちは戻ってくる。」


 彼はこくんとうなづき、畑に残りました。主人は攻撃されないと言っていましたが、当然のようにその日はやってきました。


 畑の近くにも、核爆弾が落とされたのです。爆風こそここでは弱かったのですが、風によって運ばれた放射能により、りんごの木たちはどんどん弱って枯れてしまいました。ただ、一つのりんごの若木を除いて。


「奇跡が起きた。」


 と彼は思いました。自分が最も愛情を持って育てた一本の木が生き残っていたからです。


「この木は、たとえ自分が死んでも守る。」


 と彼は心に誓って、毎日世話を続けました。しかし、彼の努力も虚しく、りんごは成長しませんでした。でも彼は自分の願いと、誇りにかけて、最後の木を枯らすわけにはいきませんでした。従って彼は決めました。自分の体の部品全てをこのりんごの木に取り付けよう、と。




 最後のりんごの木はすくすくと成長しました。太陽光パネルで光のエネルギーを取り込み、根から放射能のエネルギーや鉄分を取り込み、新しく部品を生成することで幹や枝や葉っぱを増やしました。どんどん木は立派に大きくなっていき、ついには機械のりんごの実をつけるまでになりました。土や空気中の放射能をエネルギーとして使ったため、機械のりんごの木の周りの環境はどんどん良くなっていきました。


 そして、ある一羽のカラスがりんごの実を取りに来ました。カラスは長旅の末に、やっとりんごを見つけました。そのカラスには雛がいましたが、巣の周りは核に汚染され、食べ物が全くなかったのです。必死の思いで見つけたりんごをくちばしで挟んでもぎ取り、巣で待っている雛のために、疲れ切った翼にムチを打ってカラスは飛び立ちました。しかし、カラスは巣までたどり着けませんでした。羽をばたつかせても、だんだんと高度は落ち、ついに汚染された土の上で息を引き取りました。遠くに運ばれ、汚染された土の上に転がったりんごの実からは機械の根が伸び、しっかりと土に刺さりました。それからまた、機械のりんごの木は成長していきます。


 「この星を全て、りんご畑にする」という彼の願いは法律も秩序もなくなったこの星で、きっと叶えられることでしょう。

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