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平行時空冒険譚:確率都市 ~The Axis Hoppers~

Intermezzo:おとめごころ

作者: 中崎実

時系列的には「はじまりの日」途中の話です。

横田榮強制捜査官、彼の最大の欠点は何と言っても外見を取りつくろわない点にあるわけで……


(本人のセンスについては 「その人の名は」http://ncode.syosetu.com/n7888bu/23/ をご参照ください)

「サカエに、偽装外装?」


 首をかしげたアニー・ホールに、強制捜査課長のアロヴィィダルがピコンと冠毛を立てながら頷いた。

「どのみち長く休ませてやれるほどの余裕はないし、壊れたのは外装だけだからね」

「まあたしかに、ノーマルタイプの外装ならすぐに用意できるでしょうけど」


 今回の作戦で破損したサカエの外装は都市戦闘用の特殊タイプで、そう簡単に準備できるものでもない。

 しかし一般的な機能を持つヒト型ボディはそう特殊でもないから、割と早く用意できるだろう。そう納得したアニーは、アロヴィィダルが送ってよこしたカタログを見て噴き出した。


「うわ、なんだ、女装させるの?」

「そのまま捜査に投入するなら、このくらいで良いだろう」

「ああ、そういう事ですか」


 笑いは誘うが、別におかしな発想では無い。


「東京支局に出向させる予定だったけど、サカエは悪目立ちしたからねえ。今の外装は使わないほうが良いだろう」

「それを言うならトーゴも目立ったと思うんですけど?」

「トーゴは生身だから変えようがない」

「それもそうか」

「通常なら本人の意思を尊重するところだが」


 しかしサカエの事だ、本人に選ばせたら、ロクなものを選ばないのは分かり切ってるだろう。


 そう説明した上司に、アニーだけでなく

「あいつに選ばせるのは、確かになあ」

「非人類種族からみても、酷いセンスだからね」

「手抜きしすぎだろ」

「平均像で、なんて平然と言うもんな」

 ロスト前の姿を知っているベテラン勢も頷いていた。


 なにしろサカエが入局当初に使っていたボディというのは、平均容姿の標準外装だ。まったくカスタマイズしないで使うなどめったにないし、しかもそうした理由がただ単に面倒くさかったからというのでは、もはや奇人変人の類としか言いようがない。

 サカエの外見に関する美的センスは壊滅的どころか、その存在を問う事すら美に対する冒涜と言えるだろう。


「で、これ見てどうしろっていうんです?」

 画面上のカタログを指さして、アニーが首をかしげた。

「君の感性を借りたい」


 アロヴィィダルの尻尾がゆらりと揺れ、悪巧みをしていることを暴露した。


「へ?」

「アニーが選ぶようなものなら、サカエが絶対選ばないだろ」

 これにまず頷いたのが、周りの面々だった。

「あぁ、なるほど」

「中身が奴だとバレないように、って事ですね」

「とりあえず、中身がサカエになるって事は忘れてくれ。あいつが絶対選びそうにない、C四二五九トウキョウ支局にいてもおかしくなさそうな外装で頼む」

「外見年齢、どうします?」

「二十代前半にしてくれ。できるだけ、囮に使えそうな外見が良い」

「予算は」

「通常型だから、よほど特殊な事をしない限りは出ると思うよ」

「やった!」


 拳を握って快哉を叫ぶアニーを見ながら、古株が何人か、お祈りの真似をした。


――――――――――


「で、最終チェックをあたしらが?」


 きょとんとして小首を傾げた少女に、アニーは頷いた。

 さらりと流れる肩ほどの長さの黒髪に、卵型の東洋人らしく繊細な顔立ちの中で、ぱっちりした目元が映える少女だ。サカエが珍しく推薦人になったということで、B二〇二二からわざわざ人物確認に来たという曰くつきの人材だが、彼女自身は全く普通のC級観測官補の一人だった。


「データから見ればおかしくない範囲に収めたつもりだけど、違和感あるかもしれないからね。協力してくれるかな」

「あの、外見って本人の好みとかで決めるって聞いてたんですけど」

「あのサカエの好みで決めさせるなんて、ありえないわね」


 まして今回の外装は監視局の予算を使った、囮捜査用外装を兼ねている。予算を有効に使うためには、サカエの好みなどこの際無視だ。


「……えっと、無視しちゃうんですか?」

「仕事用だし、サカエのセンスに任せたらひどい事になるからね」

「……肯定していいのかどうか、迷いますね」


「そこは思いっきり肯定して良いと思う」


 遠慮のない口を聞いたのは、トーゴの妹のアカネだった。

 アニーが入局当時世話になったキュウザブローの面影のあるアカネの外見は、兄とあまり似ていない。しかしキュウザブローに似ているのは外見だけで、性格は兄に良く似ているようだった。


「え~、それはそうだけどさ、ホールさん初対面だし」


 あんまりはっきり言っちゃうのも悪くない?とのほほんと応えたアキに、アカネが吹き出した。

「そっち!?」

「うん、そっち。横田さんにセンスがあると思って無いし」

「サカエのセンスの悪さは種族問わず定評があるから、遠慮しなくていいよ」

「種族問わず……って」

「少なくとも、本部強制捜査課(うち)にいる強制捜査官の共通理解だから」


 智竜族、機械知性体、情報生命体、人類由来種族もろもろ入り乱れた中で、満場一致で『ダメだありゃ』になれるというのは、めったにない才能だろう。

 無くても良いどころか、あるだけ邪魔な才能だが。


「……それ、相当ですよね」

「うん、だから仕事用の外装はサカエに決めさせないわけ」

「私物、ってあるんですか?」

「タイプによるけど、サカエみたいな中枢体分離可能型だと、幾つかのボディを使い分ける人もいるよ」


 かなり値は張るが、外見を取り変えられるから衣服を着替えるようなものだ。


 そう説明してやると、なぜかアキは納得したようにうなずいた。

「そっか、だから横田さんのガワって一つしか無いんですね」

 アカネがなぜかあちらをむいて爆笑していたが、とりあえずアニーは気にしない事にした。

「どゆこと?」

「服と同じなら、着替える気なんか起こさないよねって事です」


 いつも似たような黒づくめですし、と何度もうなずいてる。笑いの止まらないアカネのリアクションを見ながら、アニーはにやりとした。


「そういうことか、だったら多分あってるね。あいつ、外装に関してはずぼらも良いところだから」

「普通はおしゃれもするって事ですよね?」

 アキの視線は、アニーがテーブルに乗せた右腕を向いていた。

 以前作戦行動中に右腕と両足を失い腹部に重症を負ったアニーは現在、欠損部補完型の装具を使っている。訓練や作戦中は軍用のゴツい物を使っているが、今回のように荒事が必要ない場合は、その時々で交換できる通常型を選んでいるし、外装も気分で変えている。

 気が向けば通常の人工皮膚も使うが、洒落っ気がなさ過ぎてあまり好みでは無かったし、だいたい生身の左腕があるのだから、そちらでやればいいおしゃれを右腕でやる必要はない。


「せっかく交換出来るのに、しない方がもったいないよ」


 今日は要所に銀の透かし彫りが入った化粧外装で、これは夫が選んでくれたこともあって気に入っている。

 とはいえ、こういった利点を使うどころか蹴倒す勢いで無視しているのがサカエのわけで、もはやサカエに何を期待しても無駄だろう。あれに何か選ばせようものなら、絶対に予算が無駄になる。

「というわけで、こちらである程度決めたんだけどね、やっぱり同世代の女性に見てもらったほうがいいと思って」

「同世代?」

「うん、今度の外装、これなんだ」


 テーブル上にホログラフを投影すると、二人揃ってまじまじと立体画像を眺め、それからアキまで笑いだした。


「ちょ、ホールさん、これ!」

「うそっ」

「女の子だよ、可愛いでしょ?」

「で、でも、中身が横田さんって、ないですよ!可愛いすぎて!」

「だから良いんじゃない。サカエの外装だって絶対バレそうにないでしょ?」

「うわ、ちょっと……」

 笑い過ぎて肩で息をしている娘たち二人に、アニーは自慢げにそれを見せびらかした。


 基本にしたのはサカエの遺伝子推定像を女性化したバージョンだが、そのままだといささか東洋人離れして見えたので、やや幼い顔立ちに変えてある。日本人(サカエの遺伝情報と名前からの推定だ)にしては少し彫りが深い感じもあるが東洋人らしい繊細さは残し、肌はやや白め、背の半ばまである髪は漆黒で、全体に体格は華奢な作りにしてあった。

 思わず抱きしめたくなる東洋人形のような女性、を目指して色々と選んでみたのだが。


「う~わ~……雑誌のモデルくらいなれそうな感じだけど、でも、中身が横田さんかあ……」

「中身がサカエだってことは置いといて、どこかおかしくない?」

「う~ん、美人だからちょっと目立つかも、てくらいです……」

「あとは、着るものだよね……」

「そこまで言ってもらえたんなら、選んだ甲斐があったよ」

「何の嫌がらせだ!とか言わないかなぁ……」


「あ、そこは大丈夫。私の趣味全開だと言い張るから」


「趣味、なんですか、これ?」

 アニーの外見からはあまり考え付かない事だろう。

 生体部は鍛え上げてある上にもともと大柄だったアニーだから、武骨なのだろうと思われはしても、愛娘を飾り立てたがる悪癖がある事は理解されていないし、大抵驚かれる。

「本当はもっと可愛くしたかったけど、予算もあるから。あとは服でどうにかすればいいだろう」


 できれば、甘い優しい感じの服を見つくろってコーディネートしたい。


 そう率直な希望を言うと、娘たち二人は目をぱちくりさせた後、勢いよくカタログを検索し始めた。


アニー・ホール強制捜査官は可愛いものが大好きです。

萌えって大切。

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