転生九尾様が罷り通るっっ!!
徹夜明けに何故か頭に浮かんだ話しを書いてみました。
つじつまの合わないてんもあるかと思いますが、温かな目で読んでやって下さい。
"狐"
遙か彼方の大昔より、彼らは精霊・妖怪に近く、強い力を持つ動物とされていた。しかし、彼らは吉兆をもたらす神獣とされると同時に、人を惑わす妖怪とされることがある。
例えば、千年の時を生きた"狐"は神獣となり、白く輝く体毛、瞳は黄金色に輝き、遥か千里先までを見ることができる。"天狐"は尻尾が4本~9本あると言われ、その"天狐"がさらに二千年生きると"空狐"となり、狐耳のある人間の姿をした神になると言い伝えられている。
逆に、年を経て妖力を増した"狐"は尻尾が増え、最後には9本まで増えるといわれ、それが"九尾の狐"である。その存在こそが、後に絶世の美女に化け国を傾ける恐ろしくも、美しい妖怪"白面金毛九尾の狐"であった。
"白面金毛九尾の狐"は酒呑童子、崇徳上皇とともに日本の三大悪妖怪とされ、とてつもない妖力を持つ災厄の存在と語られることが多い。
しかし、それは人間の視点で捉えた時の話しであり、実際の彼らの真実を知るものは誰もいないのである。
「リオンー、森へ行くのは良いけど気をつけていくのよ。」
「はーい、お母さん。」
森にほど近い小さな村に一人の元気な少女がいた。何処にでもいそうな平凡な顔立ち、茶色の髪に、緑の眼。一般的な村娘が着るようなスカートを身につけた少女"リオン"。
彼女は、いつものように家畜の世話をして、意気揚々と木の実や薪を拾いに森の中へと進んでいった。
最近、リオンはいつも"何か"に呼ばれている気がしていた。それは、ふとした瞬間に訪れる。家の手伝いの合間に、夢の狭間で、森を歩いている時に。
それは、予感だったのかもしれない。確かに、今日この日をもって彼女の運命は変わったのだから。
「・・・何だろう?こんな所にこんなに大きな木があったっけ?」
それは、小さな頃より慣れ親しんでいたこの森の中でリオンが見たことのない大木であった。その大木は、中程が丸く膨れ、中に何かを抱き込んでいるような違和感のある形状をしていた。
リオンは警戒心を露わに、近づくことなくその場を離れることを選択した。しかし、あの感覚が再び蘇る。彼女は"何か"に呼ばれていた、今まで感じていた中で一番強く。それは、この大木の膨らみから発せられていた。
彼女は引き寄せられるように、大木へ近づき、・・・触れてしまった。
まばゆい光りが辺りを照らす。思わず腕で目を覆うリオン。
光りが徐々に弱まり、消え去ったことを確認して腕をどかしたリオン。
「え、・・・赤ちゃん?」
光が消えた先にあったものは、白金色の髪を持つ赤子だった。リオンの声に反応したのか黄金色の眼を開いた赤子。
「"誰が赤子じゃ。"
"妾に対するその無礼な口を縫い付けてしまおうかのう。"」
「え、え?だ、だれかいるの?」
リオンと赤子しかいないはずのこの場所に冷淡な女の声が響く。
「"・・・そなた、妾の声が聞こえておるのか?"」
「え?わらわ?」
リオンは辺りを見回すが人の姿は見当たらない。
「"ふんっ、阿呆め。"
"まだ分からぬか、妾はそなたの目の前におるだろうに。"」
「・・・目の前?」
リオンはその言葉を聴き、素直に目の前を見る。しかし、其処には言葉を喋れるはずのない赤子しかいない。
「"いよいよアホじゃのう。"
"まあ、良い。・・・ものすごく不満じゃが、光栄に思うが良いぞ。"
"そなたは妾と相性が良いようじゃのう。ほんに、ここまで相性の良い者は珍しいの。"
"お前のような貧弱で、見るからに不味そうな輩でも妾の役にたつことができるのだからな。"」
「・・・ふえ?」
リオンは混乱していた。目の前にいる赤子が自分に話しかけていると言うことにも、さんざん貶されていることにもどう対処して良いか分からなかった。それ故に、一番単純で明快な答えを選ぶ。
「う、うええええぇぇっっ!!赤ちゃんが喋ったああぁぁっっ!!!」
要するに、脱兎のごとく逃げ出したのである。
己を置き去りにして走り出したリオンの背中を見送り、赤子には似合わぬため息を付く。
「"ほんに愚かじゃのう。"
"妾が逃がすはずあるまいに。"
"この地へ魂のみ流されて数ヶ月、妾の身体となり得る駒を見逃すほど妾は甘くはないぞ。"」
リオン以外には理解できぬ、赤子特有の意味のない音の羅列は夕闇が迫り始めた森の中に消えていった。
リオンは走っていた。
喋る赤子などと言うよく分からないものに出会い混乱していたが、通い慣れた道を間違うことはなく母親のいる温かな家に向かい全力で走っていた。
しかし、家までもう少しという時にリオンは気が付く。村の方向にある空が夕闇に飲まれることなく真っ赤に染まっていることに。
「・・・お母さん、お母さんっっ!!」
一瞬止めてしまった足を再び全力で動かす。彼女が家にたどり着いた時、そこには変わり果てた光景が広がっていた。畑を荒らされ、家の扉は蹴破られ家の中にあったはずの物が散乱している。
「お母さんっっ!!」
真っ青な顔で飛び込んだ家の中には、変わり果てた姿で冷たくなった母親の姿が有った。
「あ、あっ、ああぁぁっっっ!!!」
リオンの悲痛な絶叫が響き渡る。絶叫した彼女の意識は、頬に走った痛みと共に一度途絶えることとなる。
次にリオンが意識を取り戻した時、辺りは真っ暗な夜の闇に包まれていた。縄で身体を縛られ、身動きがとれない彼女の周りには同じように縄で縛られた村の子どもたちがいた。彼らは一様に小さな声ですすり泣いていた。彼女の瞳は暗く淀み、頬は殴られたのか赤く腫れでいた。
そんな彼らを戦利品の一部としか思っていない盗賊どもの宴は盛大に行われている。
宴の様子を眺めることしかできないリオンの心は、すでに凍り付いたように冷え切り、感情を浮かび上がらせることはなかった。
「"ほんに、人の子の心のなんと弱きことか。"
"妾から逃げてほとんど時間など経っていないというのに、心を壊しかけておる。"」
冷え切ったリオンの心に語りかけてくる者がいた。しかし、リオンにとってそれはもうどうでもいいことだった。
「"・・・不愉快じゃのう。"
"妾が話しかけておると言うに返事もせぬか。"
"・・・そなたは抵抗せぬのか?おのが母御を奪った相手にいいように嬲られるを良しとするのかの。"」
「・・・。」
リオンに話しかける声は止むことはなく、リオンの心を浸食するように囁き続ける。
「"このまま母御の敵も討たずにそなたは死ぬのかえ?"
"たった一人の大切な相手を奪った輩に一矢報いることもせぬのか?"」
「・・・まれ。」
「"哀れじゃのう、何の力も持たぬそなたは母御の敵すら討てぬ。"」
「だまれっっっ!!!」
叫んだはずのリオンの声は、宴の喧噪にかき消され、凍り付いていたはずのリオンの瞳に暗い炎が宿り、燃え上がる。
「"のう、子どもよ。"
"そなたに力をやらんこともないぞ?"」
「ちから・・・?」
リオンの憎しみを囃し立てるような声から一転して、甘えるような声音となる。
「"そう力じゃ。"
"それがあればそなたは母御の敵すらも討つことが叶うのじゃ。"」
「・・・だい、ちょうだいっ!あたしに力ちょうだいっっ!!」
声の思惑のままに平凡ながらも心優しかったはずの少女は、母の復讐という憎しみの感情に囚われ力を求める。
「"その代わり、そなたは全てを失うことになるのじゃが良いかのう?"」
それは悪魔の囁きに似ていた・・・。しかし、大切な者を奪われ復讐に身を焦がす少女には神の導きに聞こえていたのかもしれない。
「かまわないっっ!敵が討てるならどうでもいいっっ!
私の何もかも全部上げるっ!!だから、力をちょうだいっっ!!」
「"ほほほほほ、契約はなったぞ、小娘!"」
リオンを中心に光りが立ち上る、"リオン"という少女の肉体を、魂を核として別の存在が形作られる。
突然の強い光に驚く盗賊どもの目の前に現れたのは狐の耳と9本の尻尾を優雅に動かす傾国といえる美貌を誇る白金色の髪と黄金の瞳を持った女だった。
「ほほほ、やっと身体を得ることが出来たのう。」
満足そうに女はうっそりとその美しい顔に妖艶な笑みを浮かべる。
「魔物かなんかと思ったら、へへっ、すげえ上玉の女じゃねえか!」
「うっひょう、こりゃあ高く売れるぜえ!」
「いやいやあ、しばらくは俺達がまず味見してやらねえとなあ。」
女の姿を眼にした盗賊どもは色めき立つ、見たこともない程の美しい女を前にそれぞれに頭の中でこの女を犯す自分を妄想する。下卑た笑いを浮かべながら女という獲物に我先にとにじり寄る。
「下衆が。あの小娘との契約でもあるが、妾はそなたらのような者は好まぬ。」
ドウッカアァァァァンっっ!!!!
女が見下すように声を発したかと思えば、盗賊達の中心より爆音が響く。
「なんだあっっ!何がおこったっ!!!」
突然の爆発音に盗賊どもが右往左往するなか、底冷えのするような笑みを浮かべた女が宣言する。
「よおうく聴くのじゃ下衆ども!
今すぐ妾に貴様らの持っている金目の物を差し出すのじゃ!
そうすれば命だけは助けてやらんことも無いかもしれんぞ?」
「なっ、何を言ってやがる!この女気がくるってんのか?!」
女のあんまりな要求に盗賊どもは思わず、顔は良いのに勿体ないとばかりに本音を溢してしまう。盗賊どもの言葉に、美しい顔に青筋を浮かべ頬をひくつかせる女。
「ほほう、命が惜しくはないという訳じゃな。
良かろう!妾の妖術の餌食としてくれるわっ!!」
ドウオッカアァァンッッッ!! チュッドオォォンッッ!! ドッカドカアァァンッッッ!!
『ひいぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!』
女の言葉が終わらぬうちに数カ所で、捕まっている子どものいない所にのみ無差別な爆音が響き、盗賊どもの悲鳴が木霊する。
「おーほほほほほほほ、おーほほほほほほ!!!」
数分も経たぬうちに残されたのは黒こげになりながらも、命だけはあるピクピクと震える盗賊どもの積み重ねられた山と、その盗賊どもの身体を踏み台に高笑いを上げる女の姿だけだった。
これが後々までに語り継がれることとなる異世界より流れ着いた"白面金毛九尾の狐"こと、災厄の化身や無差別の悪党殺しの異名を付けられた"女"の物語の始まりだった。