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次で終わりです。

「…そういうわけで僕は死んでいることに気がついたんだ。」

君は涙を貯めたまま僕の話をじっと聞いていた。

「おかしな話だよね、自分が死んでいることを忘れているなんて。

しかも死んだ理由が飛び降り自殺だったんだよ。」

君は俯いていて顔が見えない。

僕は構わず話し続ける。

「笑っちゃうよね。

自殺した人間が幽霊となって現世に残っているなんて。」

僕は少し笑いながら話し続ける。

「…それにさ、もうすぐ消えそうなんだ。」

君が顔を上げ僕を見つめる。

目を大きく見開いて驚いた表情をしている。

「正しくは成仏するって言ったほうがいいのかな。

…人はさ、死ぬと四十九日間魂がこの世に残るらしく、その間は何をしてもいいんだって。

…僕はその話を聞いたときに、何をするか考えたんだ。

自分だったらどうするかって。

何にも思いつかなかった。」

爽やかな風が吹く。

その風が葉っぱを運んできて僕の体を通り抜ける。

「…君はさ、気付いていたんだろ?」

君はこくりと小さくうなづき、小さく震える声で話し始めた。

「…初めてここにきたとき、最初は君の存在に気づいていなかったの。

私は霊感があるんだけど、ムラがあって、すぐに気づくときと気づかない時があるの。

最初は気づかなかった。

けど、お菓子を食べてる途中で君の視線に気づいた。

それがきっかけで君のことを認識できた。

前にも何回か、急に人が見えたりすることがあったからそうだと思ったの。」

君は、目を伏せたまま、申し訳なさそうに話す。

「ごめんね、君が幽霊だってことを黙ってて…。」

君は、肩を震わせ小さくうずくまりながら、小さな子供のように泣きじゃくる。

「だって、君が…幽霊だってことを知ったら…また、消えてしまいそうで…。

そんなの、嫌だった…。だって…。」

君が涙でぐちゃぐちゃになった顔を僕に向ける。

「だって…!君のことが好きだもん…!」

僕は、その言葉で、君に対する暖かい気持ちの正体を知った。

なんだ、僕も、君のことが好きだったんだ。

僕は君を抱きしめようと手を伸ばす。

触れられない手を君の肩に回し、距離を詰め、覆いかぶさるように君を抱きしめる。

これだけ近くにいても、これだけ君のことが好きでも、君に触れられないなんて、君の体温を感じられないなんて。

「君が、僕のことを好きっていてくれて嬉しいよ。ありがとう。

僕も、君が好きだよ。」

君は泣きながら何度も何度も頷く。

「…生きてるうちに会っておきたかった。」

「私も…。」

なんて、神様は残酷なのだろう。

君と出会わせるなんて。

僕は死んでいるのに、生きたいと思わせるなんて。

そんなこと無理なのに。

もう、行かなくてはならないのに。

「…幽霊なのに、生きてる人間を好きになるなんて許されない罪だよね。」

「そんなこと言ったら私も、幽霊である君のことを好きになった。同じ罪だよ。」

「…君まで、同じ罪を背負う必要はないよ。」

「でも…!」

君の気持ちは分かっている。

君はまっすぐで、優しくていい子だから、一緒に罪を背負ってくれる。

でも、ダメなんだ。

君が罪を背負ってしまうと死んでいることと同じことになってしまうから。

生きてる人間を死に引きずり込んじゃダメなんだ。

だけどそんなこと言っても君は聞かないだろう。

…だったら、この方法だったら、君も罪を背負うし僕の心も満たされる。

これしか無いのか…。

けれど、この方法で、二人は罪を犯すが救われる。

「…ねえ、本当に君が僕のことが好きだったら僕のお願いを聞いてくれる?」

「…うん。」

僕は、君をまっすぐに見つめる。

「僕の魂をお菓子に混ぜて食べてくれ。」

「え…?」

「僕は、もうすぐ成仏する。

その前に君に食べられることによって、君と一つになる。

これ以上の幸せがあるだろうか。成仏するのはそれからにするよ。

やってくれるかい?」

「…もちろん!」

君は涙を流しながらふわりと甘く笑った。


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