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それからというもの彼女は僕に付きまとうようになった。
はじめは僕がいるところに後から君がくることが多かったけど、いつの間にか先回りされていた。
僕の姿を見つけると嬉しそうに手を振ってくる。
そして、お菓子を一緒に食べようと誘ってくる。僕は一人がよかったのでいつも無言で逃げてた。
毎日がその繰り返しだった。
そうして3週間位が立ったとき、僕がとうとう根負けした。
その日から君と過ごす日々が始まった。
君はいつも二人分のお菓子を持ってきていたけど、僕は甘いものが得意じゃなかったので、食べなかった。
紅茶も勧めてくれたけど、苦手だった。
僕がそういうと、君は落ち込みシュンとなった。
それでも君は持ってきて、いつも二人分のお菓子をぺろっと食べていた。
その細い体のどこに入るのだろうと思っていた。
君が食べている間、僕はずっと本を読んでいる。
君は食べ終わると必ず本の感想を聞いてくる。
本についての感想を話すことが多くなると、君がミステリーが好きなことがわかった。
ただ、君は日本の古典ミステリーが好きだった。
僕が外国の古典ミステリーを勧めると、君は次の日から借りて読んでくるようになった。
読んだ本についての感想や、トリックの仕掛け方。
違うジャンルのこの本が面白い、小説から発展して、この漫画が好きだ。
など、本やそれ以外のものについても、いつも語り合っていた。
そんな風に過ごしていると、温かい気持ちが僕の心に宿る。
これは一体、なんだろう。
***
いつも通り君と話をしていると、なぜか家族の話になった。君は一人暮らしで、家に誰もいないから寂しいと言っていた。
けど僕には家族はいるけどいないようなものだ。
「なぜ? なんで家族とちゃんと話さないの?」
「話したくても話せないんだ。だって僕の存在はもうないようなものだから。」
「どうして?」
「僕は、人と関わるのが嫌いで、いつも一人でいる。
ただの人見知りとかならいいんだけど、家族とさえ関わるのが嫌なんだ。
そんな僕に家族はもう愛想をつかしてね、僕のことを見ようともしないんだ。」
「そう……。
ねえ、人と関わるのが嫌なら、なんで私とは関わっているの?」
「それは君があまりにもしつこかったから。」
「ひどい!私そんなにしつこくなかったよ。」
「いやいや、そんなことない。結構しつこかった。」
「え〜。普通だと思うけどな〜。」
「君の普通は少しおかしい。」
「ん〜。そうかなあ〜……。」
そういい黙り込んでしまった。
僕はそこまで気にしなくていいのに、と思い本を読むのに戻ろうとした。
「…でもさ、今私とこうやって話をしているってことは、他人に関わろうとしているんじゃないの?」
「え……?」
「だって本当に他人と関わりたくないんなら、今ここで話しているわけないし、そもそも学校来ないじゃない。
それでも来ているっていうことは、本当は他人といろいろしたかったんじゃないの?」
「…。」
「それに、私と話ができているんだから、きっと家族とも話ができるよ!」
そんなこと、言われたのは初めてだった。
今まで、誰かと関わりたいたいと思ったことがなかったのは本当だ。
でもその気持ちは嘘だったのか? なら今まで僕が他人とか変わらなかったのは、勇気がなかったから?
…確かに、君のいう通りなのかもしれない。
「……そうだね。一回ちゃんと家族と話してみるよ。」
「その方がいいよ!ちゃんと話せばわかってくれるって。」
「うん。そうかもね。」
僕がそう言うと、君は嬉しそうに笑った。
君が甘い匂いを漂わせてるからだろうか。
甘いものを食べているからだろうか。
僕はその笑顔を見て、甘い気持ちになる。
ふと、思う。
「ねえ、なぜそんなに僕に親切にしてくれるんだい?…そもそもなんで僕なんかと一緒にいるんだ?」
そう尋ねると、君は固まり悲しそうな顔をした。しばらくの沈黙。
「…いつも、一人でいる君が気になっただけ。」
そう、ふわっとした笑顔で君は言った。
今にも泣き出しそうな笑顔で。