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人は死ぬと四十九日間、魂がこの世に残るらしい。
すぐに天国とか地獄に行くわけではないんだって。
じゃあ、その間何をするかというと、人それぞれ違うことをするのだとさ。
その話を聞いた時、僕は自分がそうなったらどうするか考えた。
何も思いつかなかった。
***
僕は、京都にある大学に通う学生だ。
といっても、授業にはほとんど出ていない。
面白さも出る意味も見つけられなかったから。
かといってずっと家にいるわけでもない。家にも居場所がないから話しかけても無視される。
だから仕方なく、わざわざ大学まで来て暇を潰すために、人のいないところでスマホやパソコンをいじったり、雨の日は図書館で映画を見たり、晴れの日は本を借りて山の中で読んでいる。
そんな中で僕が一番気に入っているのは、山の中の休憩所で本を読むことだ。
そこは屋根付きのベンチがあり、木でできたテーブルがある。
山なら滅多に人がこないし、来たとしても、大体の人が違うところに行ってくれる。
退屈なある日、いつも通り僕は借りた本を読もうと山の中で読んでいた。
最近は海外の古典ミステリーにはまっている。
コナン・ドイル、エドガー・アラン・ポー、エラリー・クイーンやレイモンド・チャンドラーなど。
その日はアガサ・クリスティの『アクロイド殺人事件』を読んでいた。
『アクロイド殺し』ともいわれる名作だ。
まだ読んだことはないが、トリックが面白いと裏表紙の説明に書いていた。
読みふけっていると、音がした。
どうせまた誰か来たのだろうと思い、音がした方をみると、そこにはおよそ
というか絶対、山を登るのにふさわしくないロリータファッションの格好をした女子が立っていた。
リボンやフリルのついたひらひらのピンクのロリータ。
靴は、どうやってここまで来たのだろうという疑問を醸し出すピンクのパンプス。しかも泥が付いていない。
頭はふわふわのツインテールにフリルが付いているカチューシャ。
髪をくくっているゴムには飴玉をモチーフにしたものがついている。
目は垂れ目で、顔は結構可愛い方だ。
そんな彼女は手にバスケットを持っていた。
彼女はこちらの方をじっと見ている。慌てて本に目を戻す。
すると、足音がこちらに近づいてきた。
そして、テーブルに勢い良くバスケットをおかれた。
蓋を開け、中からスコーンやクッキー、バターサンド、ドーナツ、パイ、ビスケットを取り出し並べ始めた。
しかもご丁寧にギンガムチェックのマットを引いている。
水筒からは熱々のお茶が注がれた。臭いからすると紅茶のようだ。
お菓子だけ持ち寄ったピクニックのような風景が僕の目の前に広がっていた。
そして手を合わし、小さな声でいただきますというと、おもむろに食べ始めた。
彼女はクリームを挟んだパイを掴み一口かじる。
パイから溢れ出たクリームが垂れ落ちそうになる。
それを器用に舌で受け止めて、また齧り付く。
彼女は食べているものをとても美味しそうに愛しそうに食べている。
その光景にあっけにとられ見ていると、彼女が気づき、一瞬目を見開いた。そのまま少し固まった。
しかし、すぐに戻り、目を細め、ふわっとした笑顔でこう言ってきた。
「一緒に食べる?」
これが出会い。
平凡で退屈な僕の世界に、甘い匂いに包まれた甘い格好をした君が現れた。
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