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翌日。オサルから電話がきた。
≪コタ! 聞いてくれよ、コタ!≫
「なんだよ、聞くから落ち着いて」
≪今、タカに聞いたんだけど! やっぱ、旧校舎の幽霊って、ホントみたいだ!≫
「え、そうなの?」
おれはすっかり、オサルがタカにだまされたのだと思っていたから驚いた。タカはまじめな顔をして人をからかうクセがある。今回も、てっきりそうだと思っていたのだ。
「まさか。オサルってば、タカから遊ばれてるんでしょ」
≪あ、その声はユリだな! 違うよ、今、電話で聞いたんだから! 絶対嘘じゃないって!≫
「だから、そうやって嘘を重ねてからかってるんだと思うの。オサルってば、からかいがいがあるから」
≪ぐぬぬ……言わせておけば……! ところで、ユリ、なんでコタの部屋にいるの?≫
「ふたりで宿題、最後の仕上げをやってるんですー。コタはあんたと違って、まじめに宿題してるから、着々と終わらせてるわよ。あんたもいい加減、勉強しなさいね」
≪ええーっ! コタの裏切者!≫
「オサル、それは良いから。タカの話、聞かせろよ」
≪ああ、そうだった。タカが言うにはな、旧校舎さ、体育館への渡り廊下の屋根に登って、本棟校舎まで伝って行くと、ひとつカギがかかってない窓があるらしいんだって。鶴田先輩が鳩野先輩から聞いた話によると……≫
「ちょっと待って! 鶴田先輩も又聞きなの!? 元はと言えば、タカは亀井先輩から聞いたんでしょ!? もしかして鳩野先輩も又聞きなのかも! ますます信憑性が薄いじゃない!」
「ユリ、黙って、聞こえない。オサル、それで?」
≪うん、だから、鶴田先輩が鳩野先輩から聞いた話では、誰もいないのをいいことに、中に入り込んで、イチャイチャしてたカップルがいたんだって。そいつらが、幽霊を見たってことみたい≫
「そうなんだ。それで結局、灯りが見えたとか白い人影が見えたってのは、具体的にはどの辺りだって?」
≪あ、それ聞くの忘れた≫
「んもう! オサルってば、ホント使えない!」
≪るっせーぞ、ユリ! それでコタ、今晩、旧校舎、行かねぇ? タカから誘われたんだ、一緒に行こうって≫
「え、夜って、何時くらい?」
≪暗くならないとってことだから、八時くらいで良いんじゃね、って、タカが≫
「えーっと、幽霊確かめに行くなら、真夜中じゃなくて良いのか?」
≪あはははは、実は、タカも本気では信じてないみたい! でも、納涼肝試しするには良いんじゃないか、って、タカが言うんだよね!≫
「ああ、肝試しか。それなら八時で良いか」
≪うん、その時間に出られそうなヤツ、何人か誘ってみんなで行こうって。持ち物は懐中電灯と時計。それから運動靴で来いって。サンダルとかはダメだとさ≫
「分かった。ユリが隣で、女子も誘って良いかって訊いてるけど」
≪もちろん。タカが誘えって言ってた。オレがお前に話せば、ユリが女子を誘ってくれるってあいつも分かってたよ。女子は絶対に長ズボン着用だって≫
「分かった、他の子に伝えておくよ」
「了解。んじゃ、今晩八時に旧校舎な」
≪おう! ワクワクすんな! んじゃ、また!≫
おれは電話の子機を充電器に戻し、親に肝試しに行く許可をもらうために階下へ降りた。母ちゃんは「ユリちゃんと一緒なら安心ね」と言い、ユリは「任せてください」と得意げに請け負っていた。
おかしい。男のおれが、暗い夜道や肝試しで、女子から任されないとならないなんて。
納得がいかなかったけど、反論すると面倒だから黙って聞き流していた。