第六話:乙、分析する
比類優先輩はそこそこもてることが判明した。
誕生日は六月一日、好きな食べ物はビフテキ、好きなスポーツは野球だそうだ。重ねて言おう、好きなスポーツは野球である。
「お前サッカー部だろって突っ込み待っているんだよね」
にこりと微笑んだその顔にパンチを一発入れたくなった。今ではそれもいい思い出である。
好きなものはさておき、嫌いなものは砂糖だそうだ。
「佐藤さんのことじゃないから、間違えないでね。僕、辛党だから」
ちなみに紅蓮は甘党らしい。
これまで付き合ってきた女子生徒は七名、ここだけの話と聞くと、新しい女の子に告白されると付き合っていた彼女と別れるそうだ。
「新しい女が出来たらぽいとか……くずだな」
「ああ、くずだ」
限りある資源を大切にという言葉を知らないのだろうか。
俺の親戚の姉ちゃんがそんな感じだったな。男を次から次に作ってはいいとこだけとって捨てていくのだ。しかも騙された男は満足そうな顔をしているし……世も末である。
まぁ、あれだ。異性に対しての縁も比較的太く、困らないだろうといえた。基本、イケメンってこの縁を持ってるから困るわぁ。
男としての格の違いを見せ付けられ、軽くショックを覚えたサッカー部から戻ることとなる。俺と紅蓮は屋上へと向かっていた。
既に早百合と波崎瑠璃が屋上に居た。
「早百合、お待たせ」
「ん、ご苦労さん」
早百合は双眼鏡で何かを覗いていた。その先に何があるのか追ってみると、黒魔術同好会の部室が見えた。
なんとなく、床に描かれていた魔法陣が光って見えた。
「え?」
もう一度見直した。何も光っちゃいない。俺の気のせいだったか。
「乙、ぼさっとしてないで報告してよ」
「ああ、はいはい。比類優先輩の好きなものはビフテキ、好きなスポーツは野球だってさ。誕生日は六月一日」
「野球? どうせ突っ込ませたいための嘘でしょ。くだらない」
鋭い奴だな。そして、そのくだらない奴のことを好きな女の子がいるのに遠慮がないな。
「す、すごいですね。私だったらそこまで調べられない」
「これも全てカメラのおかげだな」
そういってコンデジを見せる。カメラなんて無くても良かったけど(何せほとんど撮ってない)、せっかく持ってきたんだから自慢はしておきたい。
「カメラ?」
「適当に写真も撮って来た」
参考として使えるかと。あと、丑三つ時にお人形遊びでもしようかなって。
「俺はあまり撮らなかったな。佐藤さんは撮ったけれども」
「佐藤……え、誰ですか」
きっと波崎が見たら佐藤側に寄る事だろう。
「写真ね。ちょっと見せてよ」
早百合たちと肩を並べる。こういうくっつくのも中々いいね。青春ってやつだな。
四人で小さなディスプレイに写る画像を確認する。
「……何だか全体的に暗い写真ね」
逆光も相まって全然見えやしない。
「パソコン室でデータ取り込んでみてみようぜ。比類先輩のかっこいいシュートが写っているかもしれない」
比類先輩の名前を出したところで波崎もついてくることになった。
四名様でパソコン室へとやって一席借りる。
「一枚目、暗い写真だな……ああ、以前のデータだわ」
恐らく去年の夏のバーベキューだろう。漠然と楽しかった思い出が脳裏をよぎった。
楽しそうな一枚。思い思いの場所で食べていたり、ジュースを飲んでいる。
「あれ、ここに人の顔ないか?」
紅蓮がそういって画面右端の暗がりを指差した。
「え? どこどこ?」
早百合が首を突っ込んで覗こうとする。胸が俺の肩に押し付けられて一瞬頭の中が真っ白になった。我ながら、初心だとは思う。
「あ、本当だ。乙、分かった?」
「う、うん、分かってるよ」
「本当に? ほら、ここよ」
そういって指で円を描く。
なるほど、確かに見えなくも無い。
「ぼんやりと人の形が浮かんでいるように見えるな」
お分かりいただけただろうかと紅蓮が呟いた。
「……そう、ですね。言われてみれば確かに見えるかもしれません」
波崎瑠璃の顔が青ざめている。怖いのが苦手なのだろう。
微妙に盛り上がってきたわけだが、目的が違う。
「心霊写真見つけるためにパソコン室に来たわけじゃない。次、行くぞ」
次へをクリックする。また以前撮ったものが映し出された。
「さっきの続きか。楽しそうな写真だな」
「うん、花火中ね」
何ら問題の無い楽しそうな写真。夏の思い出を一枚の写真の中に閉じ込めていた。
「左下にっ……」
波崎が何かに気づいた。
「どうしたよ、波崎さん」
「こ、この辺り、何か居ませんか?」
左下、無邪気に遊ぶ女子生徒の右足にご注目っ……頭の中でテロップが流れた。
「し、白い手がぁっ」
部屋の片隅まで走り去り、怯える波崎。かなりうざそうに俺らを見ているパソコン部員達。お騒がせして本当にすみません。
「……いいねぇ、怯える美少女、ぐっとくるねぇ」
「波崎ちゃん、大丈夫かい?」
波崎を見て喜ぶ早百合はやっぱりあの先生の妹なのだろうか。そして紅蓮、あんた意外と紳士だな。
「さて、一体この白い手がなんなのか、心霊現象に詳しい鬼瓦紅蓮先生に解説してもらいましょう」
「はじめまして、鬼瓦紅蓮です」
押忍、と一度挨拶して自己紹介した。相変わらずノリがいい奴である。イメージ的には山伏姿か。コスプレで登場させれば良く似合うだろうな。
「白い手の持ち主は二十代前半辺りの女性ですね」
この程度、判別するのは造作もないといわんばかり。
「こんな写真でそこまで分かるんですね」
対して早百合のほうはMCを勤める女子アナのつもりかいつもより輝いていた。普段は暗い場所で札束数えているほうが似合ってそうな感じだからな。たまには日に当たるのも悪くない……ホラーって落ち目がやるイメージなんだけどね。もちろん、俺の中だけだ。本気にしちゃ駄目だぞ。
「ええ、分かりますよ。ほかにも色々なことが読み取れます」
へぇ、凄いじゃん。早百合の言葉に気持ちを良くしたのか、山伏は続ける。
「生前はグ○イの曲が好きで、好きな食べ物はパスタ。スリーサイズは上から……」
「待て、それは何の情報だ。もっと別の言うべきことがあるだろっ」
「……例えば?」
「何故この写真に写りこんだのか」
ほかにもあるだろ。死んだ理由とか誰に憑いてしまっているとか悪い霊やらなんやらかんやら。何だよ、スリーサイズって。腕しか見えていないんだから知ったところで想像するしかないんだろうがよっ。
「どうだ、山伏」
「俺が知るわけ無いだろ。知り合いって訳でもない」
したり顔で言われてもなぁ。
「じゃあ何で好きな曲やら食べ物を知っているんだ」
あと、スリーサイズもっ。
「……乙、悲しいことに今の世の中他人のほうが自分を良く知っているってことはあるんだぞ。ストーカーとか探偵とかさ。マジで連中には気をつけとけよ」
背筋がぶるっときた。怖い話である。
「結局その腕、何なんですかね」
波崎も落ち着いてきたようで、俺たちの元へと戻ってきた。迷惑そうなパソコン部の皆さん、すみませんもう少しだけ居座ります。
「……乙のカメラはもうやめよ? 次、紅蓮君のカメラの中身見せてよ」
部長である早百合は脱線をさっさと修復したいらしい。パソコン部の部長とは知り合いのようで身振り手振りで何かを伝えようとしているからな。きっと、謝っているのだろう。
「そもそも目的は比類優の写真だし」
そうだ、俺たちは別に心霊写真を見たかったわけじゃない。比類先輩の写真を見るために、このパソコン部へとやってきたはずだ。心霊写真が見たければ心霊写真部、心霊写真研究部、心霊写真同好会、心霊写真愛好会、心霊写真撮ってみ隊、第二心霊写真部……充実しすぎだと思うがまぁ、これだけあるからな。そっちに行ったほうがいいだろう。
「よし、選手交代だな。席を俺に代われ乙」
「了解」
紅蓮がパソコンの前に座る。巨躯のため、パソコンを覗き込みづらくなった。
「紅蓮君邪魔……操作は乙がやって」
「だな」
結局俺がパソコンを操作することになった。肩に早百合の手が乗せられたままで距離が非常に近い。かすかにいい匂いなんかも漂っている。
「で、どれ見るよ」
データのあるファイルをクリックすると、女教師、看護士、幼馴染、お手伝いさん、婦警、OL、エプロンだけ等々のファイルが出てきた。
「よりどりみどりだねぇ」
早百合のあきれた声がパソコン室に響いた。
「勘違いするな。偽装フォルダだ」
紅蓮に蔑む視線が向けられているがどこ吹く風である。
「職業のフォルダが並んでいますけど、どういうことでしょう?」
唯一、波崎だけが分かっていないらしい。ピュアである。あと、幼馴染は職業じゃないと思うんだ。
「ちなみにこのフォルダの中で一番気になったのはエプロンだけってやつだな。一体なんだこれは」
「そりゃそのまんまの意味だな。分かっているけれどあえて言わないのが紳士だ」
なるほど、エプロンのみ着用ということか。はだ……こほん、はっきり言わないのが紳士だ。
「ちなみに自宅にあるフォルダの中身はきっちりしているぜ。教職、医療関係、ご近所突き合い、家事手伝い、K察関係、事務職、服飾関係……こんな感じだ」
「あんたの偽装フォルダの名前なんてどうでもいいわい」
あと、妙な変換には突っ込まないからな。
「新しいフォルダは看破されたからなありゃ危険だ」
本当にどうでもいいことをべらべら喋る奴である。
「で、比類先輩の写真はどこに入ってるんだ」
「恐らくエプロンだけのフォルダだ」
「……開けたくないわね」
部長の言うとおりである。比類先輩のエプロンだけ着用なんて見たくない。どうしてそんなところに入り込んだのか聞きたい。
「だから偽装だって言ってるだろ。中身は問題ないよ」
「そりゃそうだけど……波崎さんと早百合は目を瞑っていて。あまりにショッキングな映像に目がつぶれるかもしれない」
波崎はよく分からず目を閉じて、早百合は顔を覆った。
「瞑ったわよ」
ばっちり指の隙間から見ている。まぁ、本人がいいのなら構わないか。
「あけるぞ」
あけるとそこには複数の画像が入れられていた。後半には比類先輩の写真も入っている。
「目、あけてもいいですか?」
「待った。紅蓮、この画像大きくしてもいいか?」
当然興味は比類先輩よりも別の画像である。
「いいぞ」
「サンクス」
画像をダブルクリックする。瞬く間に巨大化したそれには古井戸が映されている。昼間撮ったはずの写真なのに、仄かに薄暗い。
「またホラーか」
「それ、乙が言う台詞?」
早百合が目を開いてため息をついている。
「ホラーじゃないぞ。これはあれだ。カッパが出る井戸だ」
「カッパって……妖怪だろ」
俺のばあちゃんはお盆に堤に泳ぎに行ってカッパに教われたそうだからな(実話)。
「いや、俺の意見はUMAだと思うね。そうそう、懐かしいな。カッパが出るって言われていたから探しにいったんだ」
当時を懐かしむ紅蓮の姿は実に楽しげであった。調査しているときよりも、生き生きしている。
「いつ行ったんですか?」
波崎も目を開けて話に乗ってきていた。カッパがすきなのだろうか。
「おととしの夏だな。やっぱりカッパといえば夏のイメージ。ここは避暑地としても勇名だったからカッパが居ると思ったんだけどなぁ。何でカッパ、いなかったんだろ」
「カッパも避暑地に行ったんじゃないの? おととし、結構暑かった気がするから」
「ああ、なるほど。じゃあ仕方がないな」
俺らは一体、何の話をしているのだろうか。
「僕はカッパが北海道に行ったと思いますよ。あなたたちが話している場所からさらに涼しい場所だとそこしか思いつきません」
うわ、パソコン部の一人が食いついてきたよ。
「涼しい場所なら外国にもあるだろ」
「おいおい、馬鹿だな。カッパがパスポート持っているわけないだろ。どうやって外国に行くんだ」
「カッパは空を飛ぶんだよ」
いや、そこは普通に海を泳いでにきまってるだろ。
「待て、移動したんじゃなくて既に狩られているのでは? もしくは、どこかの研究所で保管されているとか」
「なるほど、それは興味深い」
「動物愛護団体に訴えるべきではないか」
「待て、カッパは妖怪だろ」
「いやいや、未確認生物、新種の絶滅危惧種だという面から見れば……」
紅蓮がパソコン部となにやら話を始めていた。
「……部室に戻ろうか」
「そうね」
「あのぅ、ついていっても?」
俺と早百合は同時に頷いた。ここに一人、残して逃げるのはしのびない。




