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エンキリZ  作者: 雨月
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第五話:乙、サッカー部へ向かう

 紅蓮と一緒にカメラを持って、比類優先輩を探しに行こう。

「驚きだよ、紅蓮がカメラを持っているなんてね」

「男として当然だろ?」

 男全員がカメラを持っているはずも無い……いや、そうでもないか。今はケータイがあるからな。そういう意味ではカメラの普及率は高いといえる。

「男は心の中にカメラを持っているんだ」

「そうかい」

 俺、いいこと言ったなんて顔しても俺は何も言わないぞ。

 比類優先輩を探して数十分。部活中とのことで、サッカー部のグラウンド近くまでやってきた。

「比類先輩はどこかな。紅蓮、見えるか?」

 隣の相棒を見ると、どこかしょげていた。

「どうせあれだろ、甘いマスクでエースストライカーなんだろ」

「……何かサッカー部に対して抱えているものがあるんだな」

「乙、俺ってサッカーするならどこのポジションがいいと思う?」

 身長が高く、体躯が良くて、壁としてのイメージが強い。しかし、判断するに当たって、一つ問題がある。

「俺、サッカーのことよく分からないんだよね。十二人でやる球技ってのは知ってる」

「人数からして間違ってないか? ……まぁ、いいや。俺は大抵、キーパーだ」

「なるほど、似合うな」

「俺は走るほうも出来るって言うのに……いつもイケメンに取られちまう」

 あ、これサッカー関係なくてイケメンへの僻みだわ。

 とりあえずカメラで写真でも撮っておくかと俺のコンデジ(コントロールデジタルカメラ?)を被写体へと向ける。

「……うわぁ、超ぶれるわぁ」

 どれもこれも駄目だな。ぴんぼけしちまう。ちゃんと写真の撮り方をネットやら本やらで確認しておくべきだった。シャッター押せば綺麗な写真が撮れるなんてないのね。

「俺のコンパクトデジタルカメラが火を噴くときだな」

 カメラが火を噴くって暗器かよ。

 サッカー部の練習風景をカメラで撮っていてふと思ったことがあった。

「……なんでサッカー部ってどっちかというと長髪が多いんだろう」

「野球部はいがぐりが多いな。サッカーはともかく、野球部はメットや帽子を被るからじゃないのか?」

 紅蓮もいがぐり坊主である。手触りを知ってみたいが、油っぽくて嫌だな

「俺もこのヘアスタイルの前はロンゲだったんだ」

「想像がつかないな」

「いやいや、意外と似合ってるって話が……乙、あぶねぇっ」

「え?」

 およそ人が蹴ったとは思えないほど鋭いボールが俺のほうへと飛んできた。

 運動? 出来ませんよ、そんなの。

「や、やられるっ」

 こんな馬鹿なことを言っている間に逃げればいいのに、俺の脚は動かなかった。

「……ん?」

 いつまでたっても衝撃が来ない。不思議に思って目を開けると……俺の前に両手を広げて紅蓮が立っていた。

「ぐ、紅蓮っ」

「……ボールは、友達だろ」

「いや動く棺桶だ……」

 目指せ、ジャイアントキリング。オレンジになれば少しは火力アップだ。

「とりあえず、助かったよ。ありがとう」

「よせやい、照れるぜ。俺、何もしてないもん」

 ボールは俺らの後ろのほうに転がっていた。つまり、俺にも紅蓮にも当たらなかったのだろう。

「恩を着せたかったんだ」

「……まぁ、いいけどさ」

「ごめんごめん、君たち怪我はない?」

 そういって.爽やか成分(恐らくマイナスイオン)を振りまきながらイケメンが走ってきた。

「あいつが比類だ」

「間違いないな」

 走ってきた比類優はなるほど、男から見てもイケメン認定したい相手だった。

「ごめんよ、足元が狂っちゃって」

「エースストライカーなのに狂ったのか」

「おい紅蓮、思っても口にしちゃ駄目だ」

 ほら見ろ、紅蓮のせいで若干比類先輩の眉が動いたぞ。それに、後ろにやってきたサッカー部の奴らもにやにやしてこっちをみているし。

 ボールもわざとこっちに蹴ったんじゃないのか。何だか嫌な奴らだ。

「僕は別にエースストライカーじゃないさ。佐藤君のほうが凄いからね」

 佐藤なんて一般兵みたいな名前だなと紅蓮が言った。

「佐藤さん? どこに居るんですか」

「あの人だよ」

 シュートを打っている佐藤さん(平凡な名前)を見やる。

 鋭い一撃は恐らく、比類先輩の上だ。そしてボールに対しての真摯さが違う。恐らく、誰が見てもかっこいい人だった。

 得てして、平凡な名前のほうが目立つときがある。佐藤、田中、鈴木……日本全国どこでも集められそうな名前だ。

「佐藤さんはぱねぇよな」

「ああ、寡黙で努力家だし」

「でも、さりげなくやさしい人だからな」

「比類先輩よりもてるしなぁ」

「……こほん」

 比類先輩が咳をして取り巻きたちを静かにさせる。

「それで、僕に何の用事?」

「我々調査部でして」

「俺、調査部じゃないぜ。間違えるなよ」

 紅蓮がしかめっ面になった。一々うるさい男だ。

「失礼、俺、調査部でして今度校内新聞の一つでも作ろうかと企画しているんです」

 ふむ、なるほどといった様子でサッカー部の全員が黙った。

「今のところもてる男子生徒(運動部版)を予定しています。そんで、比類先輩の名前を聞きまして、まずサッカー部に来たんですよ」

 確かに比類先輩もてるもんなぁと誰かが言った。

「この前も女子生徒からラブレターもらってたしな」

「マネージャーともいい関係だし」

「でも、佐藤さんのほうがぱねぇよな。すげぇもてるし」

「こほんっ」

 また咳で制した。

「それで、君たちも僕より佐藤さんのほうがいいと思ったのかな?」

「ぶっちゃけて言うと佐藤さんは今回どうでもいいです」

 何せ比類先輩の調査だからな。佐藤さんを調査してもあまり意味がない。ああ、でも金にはなるかも。

「おい、こいつ佐藤さんのことを……」

「どうでもいいとか……」

「マジねぇわ」

 こいつらどっちの取り巻きだよ。はっきりしないな。

「ま、佐藤さんのことはともかく僕のことを知りたいんだろう? いいよ、ちょっとだけ時間をとってあげる」

 後で知ったことだが、佐藤さんはさん付けながら、一年生だった。


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