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エンキリZ  作者: 雨月
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第四話:乙、手紙をもらう

 一ヶ月もすれば慣れることも多い。俺も、今のクラスになじんできたと思う。

「縁切君って変わってるよね」

「うん、何だか異質な存在」

「本当、そうだよね。よくギャグが滑ってるし」

 思っているのは自分だけ、良くあることです。気にしない気にしない。

 そんな五月の半ば、俺の下駄箱の中に手紙が入っていた。

 もう一度言おう、俺の下駄箱の中に手紙が入っていた。

「これ、もしかして……」

 ラブ……。

「不幸の手紙だろ」

「乙、ざまぁないね」

 一緒に帰ろうとしていた紅蓮、早百合にそんな事を言われた。何故そこまで言われないといけないのか。

「あんたら酷いな」

「酷くはないさ」

「友達だもの」

 サムズアップする二人にため息をつくしかない。きっと俺のことが羨ましいからそんな意地悪をするのである。

「いいから、ほら、まずは開けてみようぜ。パンドラの箱って言うのは開けないと始まらないんだ」

「何だとこらぁ」

 ニヤニヤ笑ういがぐり野郎は俺が睨みつけてもなんのその。ろくでもないものを出すつもり満々である。

「そうそう、校舎裏に来い、徹底的にぶちのめすって文字を早く見せて欲しい。それ、新聞部に売り込んでみるから」

 まだそこまで目立つようなことしてないもんね。いざそうなった場合は相手との縁を断ち切っておしまい……といいたいところだが、エンキリが自分の縁を見るのは非常に難しいのでやばいかも。乱闘を予感させる相手に出会ったら向こう側の縁を切るしかない……しかも、勘で。エンキリは自身の縁を上手く識別できないから、どれから分からない。それなら全部切ってしまうという考えもあながち悪くないな。その後、その人間がどうなるか知らないけどさ。

「……あけるか」

 ラブを綴ったレターを開ける。これまで生きてきて初めての体験だ。妙に緊張している。胸の鼓動が高鳴っていく。

 乾いた音をたてながら、封筒を破く。

「貴方のことが好きです。放課後、校舎裏で待っています」

 俺はその場で文章を読み上げた。手紙を二人に奪われて読まれるよりも、ましだ。「直球ね。ストレートねっ」

「くそ、いたずらじゃないのか。文面的に真面目ちゃんが書いたに違いないっ」

 ピッチャーの真似をする早百合に対して、紅蓮は空振りのバッターを演じる。からぶったはずなのにピッチャーは膝を付いていた。

「乙、骨は拾ってやるからな」

「は? 告白される側が骨を拾われるってどういう状況だよ」

 わざわざ嫌いだと告白するために俺を呼び出すのならありえるが。

「やっぱりそんな気持ちどこにもありませんでしたっ……とか?」

 じゃあ、人様の下駄箱に可燃ゴミを入れるんじゃあないぜ。

「で、どうするの?」

「……俺、これから校舎裏に行ってくるわ」

 舞い上がっているとはいえ、女の子からの告白だ。素直な気持ちを伝えたい。

「おう、いって来い」

「あたしらもついていくから」

 出来れば来ないで欲しい。場所が知れているだけに、追い返すのは不可能だろう。

 ま、いいさ。俺の幸せ絶頂期をその目に刻んで俺たち何やってるんだろうな……などと打ちひしがれちまえばいい。

 結果から言うと、あれだ。

「ごめんなさい、入れる場所を間違えてしまいました」

 大人しい感じで、和服が似合いそうな一年女子からそういわれた。

「あ、そうなのぅ、まちがえたのぅ」

「本当は、三年生の比類優先輩の下駄箱に入れるつもりでした」

 木陰から見守る二人が出てきてニヤニヤと俺の周りを歩いている。一体何がそんなに嬉しいというのだろうかっ。

「友達の不幸を笑うのは最低なんだぞ」

「いいえ、これは不幸ではありません」

「これは始まりです」

 ひとしきり周った後、困った表情の女子生徒に早百合が微笑む。

「あたしは花見月早百合といいます。調査部の部長です」

「は、はぁ」

「あなたのお名前は?」

「波崎瑠璃といいます」

「いい名前ですね」

 にっこりと微笑んで見せた。詐欺師が浮かべそうな笑みである。姉は色魔で妹が詐欺師かろくでもない姉妹である。

「いてっ」

 額に小石がぶつけられた。早百合の目は吊りあがっている。

「今失礼なこと考えたでしょ」

「……失礼しました」

 いつまでも打ちひしがれている場合じゃないので立ち上がる。俺の定位置は早百合の右後ろだ。左後ろは紅蓮が務めている……あいつは部員じゃないけどな。

「これも何かの縁です。宜しければ波崎さんの告白、あたし達が手伝いますよ」

「え?」

 一体どういう風の吹き回しか、余計なお節介をふっかけた。

「あ、そ、その、結構で……」

「是非に」

 結構です。そういわれる前に顔を近づけた。口元は笑っているようだが、早百合の目は笑っちゃいない。

「悪いようには決して、決してっ、しませんから」

 お願い事を断る。最後に必要なのは結局、自分の意思だ。相手がしつこいからといって断るのを止めてはいけない。

「そ、その、お願いします」

 そして、何故だか目の前の生徒もそれに応じるのであった。

「圧力だな」

「圧力だ」

 早百合で炊いたらご飯もふっくらと仕上がることだろう。

 次の日、部室で俺は早百合に昨日のことを尋ねていた。紅蓮は部活の日だからと言って早々に帰宅している……帰宅部幽霊部員とはどういう活動を行うのだろうか。

「昨日のあれ、どういうことったい」

「何が?」

「告白を手伝うって奴だよ」

 部室で女部長と二人きり。以前だったらよろこびやっほいをしていたが……話すようになって慣れるとそんな気持ちも起きない。実に残念な話である。

「人間の性善説、あたしは信じているから」

「実際は?」

「……今後の教訓にしておこうと」

 つまり、自分の知的欲求を満たすため、だ。

「あと、比類優って先輩、あまり良い噂をきかないからさ」

「老婆心って奴ですかい」

「ん、まぁ……ね」

 なんとなく、今後俺がやるべきことは分かった気がする。

「俺は比類先輩とやらを調査すれば良いと?」

「そうだけどね。やることはあれかな、あくまで好みや趣味を調べる程度。あたしたちが首を突っ込んで告白をないがしろにするのは駄目でしょう」

 ごもっともである。

「相手が例え駄目な男だとしても、女がひっかかるのなら仕方ないかなぁって」

 なにやら実感がこもっているな。姉がああだったし、踏み込んだらもうちょっと何かあるのだろう。俺が集中してみても見えるのは縁の糸ぐらいなものだ。相手の心を読み取ることが出来る人は超人だな。

「あの、さ。エンキリって人の縁を視認できるんでしょ?」

 視認なんて言葉、中々聞かないなぁ。

「まぁね、確認できるよ」

「じゃあさ、あたしの縁、見て欲しいんだ」

 机から乗り出してくるようにして、俺の顔を覗き込む。

 うむ、なんだ、あれだな。改めてみてみると早百合もまぁまぁ可愛いじゃないか。まぁまぁは失礼だな、結構可愛いじゃあないか。

「……いいけど、何の縁が見たいんだ?」

 ちょっとどぎまぎしたことを悟られたくなくて、俺のほうから顔を逸らしてしまった。

「んっと、勉強との縁」

 てっきり異性や恋愛関係かと勘ぐってしまった。

「勉強だとアバウトすぎるなぁ」

「それなら、進路?」

「大学進学の縁か……見てみよう」

 見られるのかね。聞いたことも無いけど。

 縁を見るには別に目を見る必要なんてないし、ちょっと集中してみるだけでいい。見えるなら距離なんて関係ないのだ。

 凄いと思うだろうが、これは逆に集中すれば視界内の人間の縁が勝手に見え始める。つまり、大人数を見ようとすれば視界が全て埋め尽くされて見えなくなってしまう。

「……ふむ、普通」

 別に大学の縁が見えたわけじゃない。早百合のどの縁も平均レベル。しいて言うなら探究心への縁がちょっと太いかなって程度だ。

「つまり?」

「進学は努力次第と運だな」

 お金に縁がある奴は強いからなぁ。

「……そっか」

 どこかほっとした様子の早百合に俺も一度深呼吸した。

「あの……さ」

「ん?」

「恋愛……ううん、なんでもない」

「普通だったよ」

「普通?」

 なんでもないといった割には食いついてきた。

「あ、ああ。普通だよ」

「そっか、まぁ、よかった。姉があれだから大変な縁かと思っちゃった」

「……言われてみればそうだな」

 もっと良く見てみよう。早百合の場合、三度のチャンスがあるようだ。あくまで、少なくとも三度だ。特別細くも無いので、それ以上は努力で何とかできるんじゃないかな。

「波崎瑠璃さんと比類優先輩とやらの縁って確認できる?」

「ああ、どっちかというと個人名と顔、どういった縁をもっているのかが分かっていれば出来ると思う……あとは、俺が比類優先輩とやらを拝めばいけるよ」

「……もしクズそうだったら乙に頼めば万事オッケーだもんね。それにまずは相手のことを調査しない駄目ね」

 エンキリとしての仕事に発展するかもしれないな。別に入れる必要性は無いが、気合を入れようと思う。


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