S7:早百合、恐い顔
たかが女子生徒を相手にしているというのに身構えていた。
「部活辞めるってあんた……散々好き勝手やって何それ」
完全にあきれた表情で俺を見ていた。
「あたしが怖いって?」
「うん」
「わけがわからないっ」
「ヒステリー早百合」
「うっさい」
一度睨まれた。
「あんた、それでどうするつもり? 逃げるの?」
「ああ、逃げるね。早百合との縁を完全に断ち切ってさ」
「へたれ」
「何とでも言うがいい。もう逃げるって決めたから」
そういうと早百合は一歩足を踏み出した。
「あたしが怖いから、逃げるって言ったわね」
「正確に言うと、一番信頼してた早百合に、あんな親の敵を見るような目で見られたんだ。逃げたくもなるよ」
「別に、あたしにそんな顔されてもあんたは屁でもないでしょ」
「そんなわけねぇよ。早百合だから、そう思えた。ああ、怖いなって。気になる子にそんな顔させた俺も悪いけど、さ」
「それならもうちょっとあたしに優しくしなさいよ。他の女の子じゃなくてさ」
少しすねたような感じで言われた。
「あんたももうちょっと、やりようがあったでしょ。ちゃんと事情を説明してくれればあんな顔しなくて良かったから……そんなに、怖い顔してた?」
「してた。金タマ縮み上がるぐらいの……ねぇ」
隣に居た男子生徒に尋ねたら素直に頷いてくれた。ただ、二人は蚊帳の外として扱ったほうがいいだろう。またこじれたら面倒だから。
ただ、言い争うだけの俺達を見かねてとうとう先生が口を挟んだ。
「乙君」
「は、はい、何ですか」
「あなたがやろうとしていることは、早百合と似たようなことよ」
先生の言うことはなんとなく分かるが……。
「すみません、頭が悪いので理解できません」
「……じゃあ、身体に教えてあげるわね」
そういって竹刀を取り出してきた。
「いえ、理解できます」
「よろしい」
「しかし、俺が早百合と同じですか?」
「ええ、そうよ。気にしてたでしょ、早百合のことを」
「……そりゃ、しますよ。ほうっておけないですから」
早百合のほうは見ずに答えた。今は俺と先生が話しているから早百合の話であっても口を突っ込まれたくはない。
「乙君が言っていた早百合の恐い顔……大切な相手だから、そんな顔を出来るの。悪意とか、そういったものじゃなくて人の純粋な気持ちを表現しているだけ。早百合だって、乙君が誰かに傷つけられたら……ああ、早百合はしないか」
「するわよっ」
「うん、よろしい。早百合にとって、乙君は大切な存在。そんな我侭な理由で逃げてしまって本当にいいの?」
先生にそういわれて、なんとなく嬉しかった。
「早百合もさ、素直に気持ちを伝えなさい。この子は、やるといったらやる子よ」
早百合は背中を押されて、俺の前に出た。
「わ、わかってるわよ……乙。さっきは怖い顔をしてごめん。でも、ちゃんと説明してくれなかったあんたが悪いんだからね。その点は譲らないわ」
「ほら、乙君も」
「俺も、言いすぎたよ」
「じゃあ仲直りね。ほら、握手」
お互いに微妙な顔で仲直りをした。
「じゃあ話は次ね」
「次って」
「早百合は乙君のこと好きなんでしょ?」
「べ、別にこいつの事なんか好きじゃない」
ほぉ、なかなか言うじゃないか。
傷ついたぜ、かなり。
「そっか、じゃあ、もらっていい?」
「え?」
「けなげで、親身になってさ、自己犠牲を厭わない……乙君ってそういう子だからストライクなの」
「え、だっておねえちゃんには年下の彼氏が……」
この場にいるんですけど。
「え、君はそれでいいのか?」
無論、聞くのは先生ではなく年下の彼氏である。
「ええ、僕は男でもいける口で」
おい、両刀使いとか聞いてないよ。さすが、先生の彼氏だ。一筋縄じゃいかないと来た。
「で、どうする乙君」
「どうするって」
「ちょ、ちょっと何で乙に聞くのよ」
「あなたこそ何を言っているの? 乙君が決めることでしょ」
「でも、乙はあたしのことを気になってるって」
「早百合は好きじゃないって言ったじゃない」
「う、うるさい。乙があたしに告白すればいい」
「何? 相変わらず受身なのね」
「き、キスはこっちからしたもん。だから、次は乙からが妥当でしょ」
「あ、ああ。えっと、早百合。俺と付き合ってくれ」
「お、乙がそこまで言うのなら仕方がないわね。付き合ってあげるわ」
やれやれ、手間のかかる妹だ。
そんな表情で先生は早百合のことを見ていた。
―――――
「どう? 似合ってる?」
「ああ、似合ってるよ」
これで何回目の試着だろうか。店員さん、苦笑してるぜ。
「なぁ、もうそれでいいんじゃね」
「駄目よ。明日は乙との初デートなんだからきっちりしないと」
初デートだけどさ、こうやって二人で買い物していること自体がデートなんじゃないかと思うんだ。
「あ、今面倒くさいなって思ったでしょ」
「ちょっとな」
「だって真剣に選んでくれてないもん」
「俺にファッションセンスを期待するんじゃないよ」
「まぁ、そうよね。乙、ださいし」
相変わらずはっきりいうやつだ。
「乙」
「ん」
「もし、私に何かあったとき……乙は恐い顔をしてくれるのかな」
しばらく考えて、俺は頷いて見せた。
「うん、合格」
早百合は笑って何十回目か分からない試着を繰り返すのだった。
今回で早百合編終了。これまで読んでくださった方々、ありがとうございました。日和第七話まで終わってアクセス数で最後の蛇足一話を誰かで投稿するか決めようと思います。




