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エンキリZ  作者: 雨月
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第三話:乙、終わらせる

 座敷わらしとかグレイとか居るわけがない。今の人類の化学力は俺から見たら相当なものだし、まず間違いなく、原始人を現代に連れてきたら驚くだろう。

「やっべ、じゃぐちから水が出るんですけど」

「マジぱねぇよ」

 原人どもの喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。

「なぁ、早百合さんや」

「部活中は部長って呼んで」

 意外と手厳しい。

「部長、調査部が調査するのって座敷わらしとかそっち系?」

 宇宙や地球の神秘を調査する部活。略して、調査部だったらどうしようか。いつの間にか調査部の頭数として入っているけれども、ことと場合によってはそれを拒絶したほうがいい気がしてならない。

 俺ってあんまりオカルト関係強くないんだよね。苦手って訳じゃないけれど心のどこかで近づいちゃいけないって宇宙の意思が……。

「座敷……え、何?」

「座敷わらしだよ。知らない?」

「ああ、知ってるわ。別名、金野なるきさんでしょ」

 確実に座敷わらしが出て行きそうな言葉である。調査部にいたのなら、破滅行き決定である。

「妖怪っているのかな」

「はぁ? いるわけないでしょ」

 そりゃそうだ。居るわけがない。つまり、俺の映像も誰かが撮って忍ばせたのだろう。うん、そうだ、絶対にありえない。

「調査部は新聞部に面白いネタを売りつけるために存在しているの」

「……」

 うわ、面倒なところに入っちまったもんだな。

「まぁ、それはいいとして部長。この前言っていた体育教師の件、新聞部に売りつけるのか?」

「……いいや、売らない」

 あれからさらに調べた結果(約一週間)、早百合の姉であることが判明した。既に紅蓮が調べてくれており(報酬は俺のビデオカメラに残っていた映像)、恐らく今日が調査終了日となる。

「……あの人を止めさせてくれればそれでいい」

「ああ、そうなの」

 俺にとって説得なんて必要ないからな。縁を切ってしまえばそれまでである。

 ただだべって終わった部活後、俺は早百合に声をかけた。

「一緒に来るか?」

「……どこへ?」

「紅蓮が現場を押さえている。悪い縁を断とうと思うんだ」

 早百合は迷うことなく立ち上がる。

「わかった、ついていく」

 二人で向かう先は生徒指導室だ。外から中を見ることは出来ないし、鍵もかけられるので完璧である。聞いたところによると音も漏れないように作られているらしい。

 花見月先生は非常に優秀な教師だと先生達からの意見をもらって、生徒のほとんどからも好評だった。まぁ、大抵が運動部系の生徒達だし、文化系の男子は接点があまり無いので知らないか、年上っていいよねって具合だ。

 しかし、文化部系女子……特に、大人しい子からの意見は違った。先生の事に関して尋ねると顔を真っ赤に染めて逃げてしまうのだ。

「女かける女か……悪くないな」

「紅蓮、あんた何でもオーケーなのか」

「おいおい、男かける男は遠慮しとくぜ。非生産的だし、怖気がするね」

 女かける女も非生産的だけどな。

 そんな会話をしたのも覚えている。

「苦労して調べた結果、電車通学で、痴漢にあった子の話を聞くとか何とかかこつけて個室に連れ込み……」

 後はご想像にお任せします。ちなみに痴漢のほうもでっち上げたりしていたようだ。とにかく、手が早い。さすが体育教師というか、欲求に忠実らしい。

「そう、相変わらず汚いやり口ね」

 なにやら姉の事に関して知っているようだ。

 ま、俺はあくまで振られた仕事をこなすだけのエンキリである。事情を突っ込んで聞くのは止めておいたほうが無難といえよう。

 生徒指導室の扉を開けると三人の人間が居た。一人は紅蓮、二人目は花見月先生、三人目はボタンをいくつか外したブラウス姿で……俺らが来ると同時に走って部屋から出て行ってしまった。本来は鍵が掛かっている時間帯だが、そこはそれ、合鍵同好会なるものがあったので一本作ってもらった。

「早百合……」

「姉さん」

 ばつの悪い顔デモするのかと思えば、ふてぶてしく笑っていた。

「相変わらず彼氏を作るのが上手いのね。二人も使うなんてさ」

「別に、二人とも彼氏でもなんでもない。変なのといがぐりなんてお断りよ」

「いがぐり」

「変なの……」

 男二人はダメージを受けた。変なのよりいがぐりのほうがまだいいよな。

「きゃんきゃん騒ぐなんて相変わらずね」

「そっちもね」

 早百合のことなんて何も知らないが、姉妹仲は最悪らしい。紅蓮も微妙な顔をして、たたずんでいる。

「初めてこの二人に会ったとき、もう少しお灸をすえて置けばよかったわ。あんなみょうちくりんの映像を見せるから」

「あれは白っぽい塊をオーブだとか、座敷わらしとか叫んだ紅蓮が悪い」

「あれはきちんとグレイを撮らなかったり、キャトルミューティレーションをしっかり撮らなかった乙が悪い」

 俺と紅蓮は互いににらみ合った。何だよ、キャトルミューティレーションって。

「それで、早百合。どうするの? 皆に言いふらす?」

 追い詰められている立場なのに、堂々としていた。実に男らしい。

「……どうもしない。こういうことはもう止めて。注意するのは二度目よ」

 なるほど、一度似たようなことを先生はやらかしているのか。

「それは無理ね。止めよう止めようと思ってもどうしようもないの。気づいたら手を出しているもの」

「重症だな」

 紅蓮の言葉に俺は頷くしかない。タバコや酒との縁を断って欲しいと師匠のところに何人か来ていたっけな。

「うん、知ってる。だから私も……エンキリに頼もうって思ってた」

「エンキリ? 何それ」

 俺です俺俺ここにいますよほおおっ……なんて空気の読めていないことをするわけは無い。

「縁を切るって、都市伝説の人間? あほらし」

「人気がないと人は都市伝説になれるんだな……」

 というか初めて聞いたわ。

「何その面白くなさそうな都市伝説」

 そして否定されてしまった。

「縁、切ってあげて」

「はぁ、合点承知」

 久しぶりに見た太くて赤い縁の糸。人の腕ほどもあって、それらは外へと伸びている。小太刀を取り出して糸に触れさせると難しいながらも何とか切断することが出来た。

「……何というかあれだな、ちょっとこれだと心苦しいから隣の細い糸に絡めておこう」

 時間にして一分弱。我ながら実にいい仕事が出来たと思う。切るのはうまくても、つむぐのは難しい。

「え、それだけ?」

 紅蓮が物足りなさそうに俺を見ていた。

「当たり前だ。糸を断ち切るだけがエンキリの仕事だからな。今回はサービスしたほうだぞ」

 あっけなく終わってしまったためか、花見月姉妹がきょとんとしている。

「はい、終了。お疲れ様でした」

 俺が真っ先に廊下へ出ると次に紅蓮、その後に早百合が続く。

「ね、ねぇ、あれでいいの?」

「いいのいいの。効果はすぐに現れるから」

 作業が単純だとミスが少なく、処置も早い。これは作業した人間の腕がいいというよりも、作業に使用された道具がいいというべきか。

 所有者の名前を冠する刀……俺の場合は小太刀だが、一体何を原料にして鍛えられたのか不明だ。そもそも、常人に見えない時点で不可思議すぎる。本家筋はさらに刀を使用せず切断するそうだから恐ろしいね。

 三人で調査部の部室まで戻ってくると、近くの机に早百合が座る。

「あれで本当に終わり?」

「ああ、早いだろ」

「速さは認める。ちょっと信用できない」

 いまだに信用されていないのは少しだけ悲しいものがある。

「次の日から劇的に変わるって」

 そして、俺の言葉通り美優先生はかわってしまった。

「私、ね……小さい男の子が好きになってしまったの。どうしたらいいのかしら」

 調査部に美優先生がやってきてそんな事を言うのだ。

「ほぉら、効果覿面だろ」

 俺の鼻、天狗さんのそれよりも雄雄しくしている。

「……これはこれで問題があるのでは?」

「いや、大丈夫だろ。いくら先生といえどきちんと分別が……」

「つかないんじゃないのか?」

 そういって紅蓮が部室へやってきた。

「先生、早速手を出してるぜ」

 写真には今年入ったと思われる一年生を従えていた。

「大人しそうで」

「小さくて可愛い類ね」

 二人で美優先生を見るとにこりと微笑まれた。被害の拡散が予想される。

「大丈夫、今年の一年生でねらい目は彼だけだから」

 それならよかった安泰だ。

 これにて一件落着だな、うん。


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