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エンキリZ  作者: 雨月
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H5:日和、喜ぶ

 夏休みに入る前はあれだけ休みがあると思っていたのに、残り二週間ともなるとそうも言ってはいられない。ぼけっとしていても、時間は過ぎていくのだ。

「……つ……ん」

 日和との共同生活も終わりが近い。別段、終わったからといって会えないわけではないのだ。学園で会うのだから何も問題はないはず。

 日和の想いに気づいていながら、色々とスキンシップを取る事になっても俺は、自分の気持ちをわからないでいた。

「乙さんっ。聞いていますか」

「あ、ああ、悪い。ぼうっとしてた」

 日和に叱責されて今の自分がどのような状況か把握した。

 別に、屋上の端っこに張り付けられているという危険な状態ではない。一緒に昼飯を食っていたのだ。

「最近、ぼうっとすること多いですよ」

 オムライスを崩しながら日和は非難するような目を向ける。

「……悪い」

「何か、考え事ですか」

 一瞬迷った末に、頷いた。

「そうだよ」

「相談に乗りますよ」

 間髪いれずに俺の相談に乗るといってきた。

 目の前の人物に相談できるほど、俺の顔は厚くできてはいないのだ。

「それはありがたいんだがね」

 俺もオムライスを租借し、飲み込んだ。

「上手く説明できる自信がないんだ」

「そういう能力、今から鍛えておいたほうがいいですよ。社会に出て、辛くなりますから」

 俺は社会に出ないよ。エンキリだし、あまり日の目を浴びるのは得意ではない。そもそも学生の日和が言うと妙な感じだ。説得力に欠けるはずなのに、何故だかそうだと思える。

「ちょっとこっちにきてもらっていいですか」

「ああ」

 場所をリビングから彼女にあてがわれた部屋に移動する。質素ながら、衣装ケースとベッド、机は置いてある。

「……」

 不思議なもので、空き部屋だったくせに今ではいい匂いがしていた。

「乙さん」

「ん、なんだ」

「あなたが何を考えているのか、私には想像できます」

「……マジかよ」

 もしかして日和はエスパーだったのか? まぁ、良く考えたらエンキリという存在そのものがエスパーみたいなものだが。

「ずっと見ていますからね」

 そういえば師匠もそんな事を言っていたかな。日和は、やはり俺のことが好きなのだろう。この際、うぬぼれでもいいや。

 日和は俺の腕を取ると、引き寄せた。そして、そのまま一緒にベッドへと倒れこむ。俺の右手は慎ましやかな胸を触っていた。

「日和?」

 今はもう、胸の高鳴りが抑えられそうにない。つい、彼女の名前を呼んでしまう。

「その、したいだけなんでしょうけど……気持ちは、分かります。だって、男女が一つ屋根の下ですもんね。乙さんぐらいの年頃なら、絶対に襲いますよね。うん、乙さんなら間違いない。私も、寝ているときにいきなりよりはこうして、堂々とやったほうが……」

「違うわいっ」

 俺の胸の高鳴りは吹き飛んでいた。

 なんということだ。よりにもよって気持ちも無しにそういうことをやりたいと、認識されていたのかよっ。へたれてはいない考えだけどさ、ちょっと極端すぎませんかね。

「え、違うんですか」

「違うよ。俺は……」

 そこでまた止まる。

「俺は?」

 先ほどと変わらぬ体勢で日和は俺を見上げている。さっきまでの雰囲気はないものの、何かを期待している雰囲気。

 だけど俺は、まだ日和の希望する答えを出せないでいた。

「……わからないんだ」

 若い頃は別に、好きでもなんでもない奴と付き合ってみてもいいんじゃねぇのと心の片隅で誰かが呟いた。

「そうですか、分かりませんか」

「ああ」

 苦々しい俺とは対照的に、日和の表情は明るかった。何だかそれは、俺の罪悪感を刺激してきてしまう表情だった。

「な、何だよ。嬉しそうな顔をしてさ」

「とても、嬉しいですよ」

「そうかい」

「ところで乙さん」

「何だよ」

 まだ俺の心を刺激しようって言うのか。今の俺は機嫌が超悪いからな。いくら相手が日和とはいえ、怒鳴ってしまうかも知れんぞ。

「いつまで私の胸をもんでいるんですか」

「……悪い」

 慌てて離れて深呼吸……そして、思い出されるのは先ほどまで右手にあった感触。

 いや、忘れよう。

「別に私は構いませんが」

 立ち上がって俺に微笑みかける。

「俺が構うわい。ちょっとは恥じらいを持ったらどうなんだ」

「今更ですよ」

 一体何が今更何だか。もっと恥ずかしいことでもしてきたのだろうか。

「責任とって下さいねって言ったらどうなりますか」

「……うぐ」

 それはとても痛いな。しかし、胸を揉んだ程度で責任って取らないといけないのだろうか。良く考えたらそれでも充分犯罪者になれるんだから責任って言葉は重いもんだ。

「冗談ですよ」

「たちが悪い」

「……ただ、乙さん。自分の心には責任を持ってください。私、乙さんになら傷つけられても平気ですから」

 全く、どうしてこいつは俺のことを好きになったのだろうか。

「でも、復讐はしますからね」

「怖い奴だ」

 俺の妙な気持ちが知られてしまった以上、これは早急にどうするか考えなくてはいけないな。無駄に悩む必要なんてないのかもしれない。

 何、まだ夏休みはあるのだから時間は……たっぷりある。ゆっくり考えよう。


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