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エンキリZ  作者: 雨月
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R5:瑠璃、出会う

 明日が波崎瑠璃対俺のデートの日である。

「俺は追い込まれてから力を発揮する」

 というわけで、ノープランで今日までやってきましたとも、ええ。あ、ついでに言って置くけれど服もほとんどまともな奴がないからな? おしゃれ度的に言うとジャージに毛が生えた程度の奴しかない。

「ファッション雑誌なんて買ったことも見たこともないしなぁ」

 おしゃれな人ってやっぱり努力しているか、周りがおしゃれだから自然とおしゃれになると思うんだよね、うん。

 つまり、俺の周りにはおしゃれな人がいなかったって事だ。師匠もあまりそういうのを気にしない人だったからな。とりあえずパンツは綺麗なものを着用しろよと言っていたぐらいだ。

「とはいえ、さすがにジャージでデートはまずい」

 それならまだ制服のほうがマシに違いない。あくまでマシであって、制服で行ったら確実に波崎がお家に帰るだろう。

「信じられますが鬼瓦先輩っ。乙先輩ってば、私とのデートに制服着用で来たんですよ。学園の行事か何かと勘違いしてるんじゃないんですか、あの人」

「乙、貴様ぁ、波崎ちゃんとのデートに制服だと? おめかしして来いやぁっ」

 こんな感じでぶちぎれられるのは間違いないね。あっという間に部員に広められて、下手すると新聞部に売られるかもしれない。

 学園行事に波崎とデートを行える……この見出し、悪くないな。

「機は熟した。明日のデートのため、服を買いに行こう」

 ファッションセンスが皆無ってのはよく分かっている。店員さんに聞くのも時間がかかりそうで面倒だ……こういうときに使える方法は一つ。

「マネキンが着ているものを買おう、うん」

 無難ながら間違いのない格好になれるだろう。

 学園終了後、部活を休むことを早百合に告げて目的地へと向かう。商業施設三階にある服屋だ。羽津学園内にも何気に服屋は存在するのだが、いかんせんマネキンが男性物を着用していない。さすがの俺でもスカート姿でデートに行ったらどうなるか容易に想像出来る。

「ふむ、まぁ、これだな」

 水色を基調としたベストに、白無地のシャツ、クリーム色のカーゴパンツを着用しているマネキンを見つけた。これまで、所要時間五分。これでいいだろ。

「……英国紳士御用達のハットはないかな」

 笑いの一つぐらい、誘えるだろうか。

「いや、無理だな」

 波崎に蹴られそうだ。

 お目当てのものを持ってレジに並んでいると、後ろから声をかけられた。

「乙先輩、何しているんですか」

「あらまぁ、波崎ちゃんじゃないの。ちょっと見ない間に大きくなったわねぇ」

「何で親戚のおばちゃんみたいになっているんですか」

「惜しい、残念。今の口調は親戚のおばちゃんじゃあない。親族のおばあちゃんだ」

 親戚と親族の違いが分かる奴なんて早々いない。

「乙先輩うざいです」

 後輩にうざいって言われた……俺の心って壊れ物注意だからちょっと言われるとすげぇ、へこむの。

「それで、改めて聞きますけど何でここにいるんですか」

「ぐすん、女の子とデートのため……まって、思いっきり足を踏もうとしないで。女の子って言っても波崎さんのことだから。ね?」

「そうですか、じゃあ許します」

 俺何か悪いこと言ったかな。あと、こんなに怖い子だったっけ。

「今日部活を休むって聞いたから驚きましたよ。もしかして、風邪を引いたんじゃないかって」

「俺が風邪引くわけないでしょ。自他共に認めるおばかなんだから」

 生まれてこの方、風邪を引いたことなんて十八回程度だ。ん、あれ? 単純に考えて一年に一回は引いてるペースだぞ。

「明日のデートのためにさ、服を新調しようと思ってね」

「そんな……私のためにですか。別に、いつもの服でもいいんですよ」

 この程度で照れるなんて波崎は可愛いな。ちょっとからかってやるか。

「え、ジャージでデート、していいの?」

「乙先輩、お帰りはそこの窓からお願いします」

 ここ、三階だよ。落ちたら大怪我じゃすまないよ。

「早く、帰ってください」

「だから、冗談だよ」

 軽く笑って見せるとものすごい顔で睨まれた。

「……あの、乙先輩」

「な、何かな」

 すげぇ、接近してくるんだけど。

 これは間違いなく、恋人範囲っ……ではなく、メンチ切る不良の範囲っ。気弱な人だったら発作を起こしそうな目力である。

「デート、終わるまで冗談はやめてください」

「じゃあ、ジョーク……すみませんでした」

 危うく冗談だよといいそうになったぜ。

「貴公と、約束しよう」

 頬を叩いてシリアスモードへ移行。今の俺なら重たい雰囲気に登場できるぜ。

「もし、破ったらどうしますか」

「そして全く信用もらえてなかったりする」

「愚図愚図してないで、答えてくださいよ」

 小さな成りして結構怖いじゃないか。

「よし、じゃあ俺の秘蔵のDVDをプレゼントだ」

 波崎が見るにはまだ早いが。

「……田舎のおばあちゃんの畑にからす除けとしてもらっておきますね」

「あ、嘘嘘。じょうだ……こほん、やっぱり今の無しね。そうだなぁ、約束を破ったらどうしようかなぁ」

「先輩が決めないのなら私が決めます。今度嘘や冗談を言ったら週明け、屋上に来てください」

 まさかの後輩からの呼び出し。そこには甘酸っぱい匂いなんて全くしてこない。ぷんぷん臭って来るのは、オラオラ制裁の香りだ。

「じゃあ、私、明日の準備があるんでそろそろ帰りますね」

 嘘、デートって今から準備するようなものなの? いや、まぁ、俺も今服を買っているから準備しているようなもんだけどさ。

「あれ? 一緒に帰らないの?」

「何だかふざけられそうなので。乙先輩、明日もそんな調子だったら私、泣きますよ」

「大丈夫、波崎さんを泣かせるような奴は俺が仕留める」

「あ、乙先輩、そこから飛んでくださって構いませんよ」

 くっ、最近波崎が俺に対して冷たくなっている気がする。昔はあんなに礼儀正しい子だったのに。

「今のは嘘じゃないのに」

「あ、それと呼び方変えてください。いつも波崎さんって呼んでるじゃないですか。他人行儀だし、私のほうが年下だし」

「何て呼べばいいのさ」

「瑠璃」

 拒否する理由もない。別段、俺は恥ずかしいとは思わない……目の前の人物は、相当赤くなっているが。

「わかった、今後は瑠璃で通すよ」

 これで満足したかと思ったらいまだに立っている。

「あれ、帰らないの?」

「む、酷い。そっちがさっき一緒に帰ろうって誘ってくれたじゃないですかっ」

「ああ、ごめん」

 そうでしたね、完全に忘れておりました。


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