表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンキリZ  作者: 雨月
31/44

T4:千春、住む

 どこまでが過程で、どこからが結果なのか。

 それが数式ならどれが過程で、結果かはわかりやすい。

「じゃあ、今日からよろしくお願いします」

 俺に三つ指ついて、頭を下げる千春に困惑以外の感情は浮かんでこない。

「……本当に、俺の部屋でいいの?」

「彼氏の部屋に彼女が居候する。別に、おかしくないと思う。なんでもない初対面の人が同じ部屋に住むのならおかしいけど」

 そりゃまぁ、そうですけどね。

 話は、三時間前にさかのぼる。



―――――



「乙、ごめん、助けて」

「え?」

 エロ本でも買いにいこうかと思っていた矢先、千春から着信があった。

 声に余裕があり、切羽詰っていないことだけは想像できる。まるでジュースにでも口をつけながら電話を掛けてきているような感じだ。

「……どういうこと? 怪我でもしたのか」

「ううん、家に、私の住んでいるアパートに……新鮮取れたて一号が突っ込んできたの」

 何それ意味が分からない。特に、新鮮取れたて一号って何さ。想像できたのは巨大なマグロがアパートに突っ込んでぴちぴち動いているところだ。実にシュールである。

 そういえばこの前、豚が五十キロで空を飛ぶという珍事があった気もする。人間の記憶なんて曖昧だから元がどんな話だったか覚えていられないんだよね。

「怪我は?」

「大丈夫。家にはいなかったから」

「よかった」

 一瞬、嫌な映像が頭をよぎった。それが外れてくれただけ、よかったもんだ。

「それで、今はどこに?」

「あなたの家の前」

 そういって電話が切れた。

 メリーさんかよ。

 エロ本は一旦置いておくとしよう。何せ、千春に見つかったら、火あぶりの刑(俺じゃなくてエロ本な)だ。そしてその後、説教から始まって誘惑コース確定である。

 本で見るのなら手放しでオーケーだけれども、実際は駄目だ。誘惑されて、押し倒すなんて駄目である。俺も矜持ってもんがある。

 物事には順序があって、結果に至るもんだ。そうでなければ、エンキリが我がままに縁を断ち切ってしまえば物事は解決に向かう。

 彼女をほうっておくわけにも行かない。俺はすぐさま玄関を開け放った。

「……魚くさい」

「こんにちは、乙」

 俺のメリーさんが魚臭い格好で立っていた。黒でまとめたシックな服装だが、あいにく臭いが換算されてマイナスである。これが千春の匂いならまだしも、魚介の匂いだ。ツンと鼻をつくならまだしも、鼻がふにゅっとなるような匂いである。

 ものすごい猫の大群を背後に見た気もする。

「……見た目は綺麗なのに、匂いが酷いってまるでドリアンみたいだね」

 ドリアンなんて食べたことも見たこともないけどさ。武器にしたら痛そうだなっていうのはわかるけどね。投擲武器として、忍者の武器選択にありそうだ。

 あれ、良く考えたけどドリアンって別に見た目綺麗じゃないかも。

「とりあえず、シャワー借りていい?」

「あ、うん」

 家の中へと入っていく千春の後姿を見ながら、俺はどっかにいるかもしれない神様に手を合わせておいた。

「千春が怪我しなくてよかったです」

 こればっかりは、感謝しておいてやろう。



―――――



「駄目だ、回想もさして意味あるものとは思えなかった」

「何一人でぶつぶつ言ってるの?」

「や、こっちの話。ところで、本当に同居、するの?」

「うん、新しい私の部屋が決まるまでね」

 なるほど、それなら納得できる。

 しかし、同居……か。まだ、キスしかしたことないような二人が同居ってハードル高すぎませんかね。いや、しかし、千春は俺の彼女だし……う、うーん。

 ここで、友達の家に泊めてもらうことは出来ないのとは聞けない。それだとあまりにもへたれだ。あんたは遊びで千春と付き合っているのかと殴られても文句は言えない。

「……駄目?」

 黙りこんでいた俺を見て、千春は少しだけ不安そうな声で聞いてきた。

「千春がよければ俺はそれでいいよ」

「よかった。料理を含めて、家事は私がするからね」

「いいの?」

「このぐらい、当然だから」

 軽く微笑む千春に俺の心は急上昇。俺の未来派安泰だ、なんてちょっと気の早いことも考えてしまう。

「あ」

「どうかした?」

「うん。やっぱり、家事は分担しよう。気づいたほうがするスタンスで。えっと、それでも料理は千春にお願いしてもいいかな」

「任せて」

 千春は受験生だ。そんな受験生を住まわせているという理由だけで家事に縛らせるのは良くない。逆に俺が率先して甲斐甲斐しく世話をするほうがいい。夜食を準備したり、ドリンクを渡したり……色々と出来るはずだ。

「ところで」

「うん?」

「千春はどこの大学を受けるの?」

「近くの羽津大」

「へぇ」

 普通レベルといって良い。千春ならもっと上を目指せそうだ。

「やりたいことってさ、意外と見つからないものだから」

 まるで俺の心を読んだようにそんな事を言った。

「え?」

「大学で、乙の隣でやりたいことを見つけたい」

「そっか」

 千春の人生だから、千春が決めるべきだろう。横から口を挟むことは出来ても、ああしなさいこうしなさいといえる立場じゃあない。

「乙は?」

「俺は進学かな」

 エンキリとして働いてもいいが、まだちょっと人脈が足りていないと思う。他人がいてなんぼの職業だからな。大学にいって、そこからもっと色々な人と出会ってエンキリになるのがベストだと思うのだ。

「どこに?」

「羽津大学。別に、千春がいるからじゃなくて、近いからだよ」

 千春がいくのなら俺もそこへ行けば楽しめるだろう、色々と。めくるめくキャンパスライフを謳歌できるね。

「じゃあ、もっと勉強頑張らないとね」

「わ、わかってるさ」

 来年の今頃、俺の学力偏差値はモノクルっぽい学力偏差値計測器をぱりんと割ってやると宣言してやろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ