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エンキリZ  作者: 雨月
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S4:早百合、意識はしてない

 エンキリは基本的に一人で仕事に望むことを好む。なぜかって? エンキリ同士だと言い合いになって殴りあい(基本的に血の気が多い)に発展するからだ。俺が正しい、いいや俺だと罵りあいの殴り合い。支えあい精神は師匠や弟子、関係者といった関係でしか成り立たないのだと偉いエンキリさんがいったとか。

 別に、パートナーが必ずしもエンキリというわけでもないだろう。しかし、エンキリと縁が見えない者なら上手くいくのかというと、これまた微妙である。そもそも縁が見えないほうのするような仕事がないのでやる気を失くしやすいのだ。お金はあげるから数時間そこでたっていてくれればいいよ(無論、スマホをいじるとかは駄目である)。これを一週間でも続けてみろ。やめたくなるから。

 多かれ少なかれ、目標だとか面倒とかを織り交ぜなければ仕事は成り立たないのである。

「というわけで、早百合、昼飯作って。材料は冷蔵庫にあるものでいいよ」

「エンキリの仕事は今日の午後からね」

「ええ、早百合さんの言うとおりですよ。今日の午後六時から。学校関係者から一件入ってる」

 こっちにやってきてさしてエンキリ活動を行っていない俺。見かねた三枝が師匠に連絡していくつか案件をまわしてくれることになった(どっちかというと移動するのが手間で押し付けられた)のだ。

「エンキリって縁を切るだけでとても簡単なんでしょ? ぶっちゃけ、あたしっているの?」

 実際に現場にいたことがある早百合は首を傾げていた。

「何言ってんだ。ちゃんと仕事はあるよ」

「え、本当。よかった、雑用全般をやらされるのかと思った」

 雑用も、ちゃんとしたお仕事である。そして雑用をまとめると作業になり、作業も効率よくやることで仕事といえるだろう。こなしてなんぼなのだ。

「さゆりたんにやってもらうのはスケジュール把握と飯作りだ」

「帰る」

「うそうそ、嘘だってば」

「眼が本気だった」

 鋭いじゃないの。

「こほん、何より大切なのは意見をもらうことだな」

 早百合の料理の腕前は高い。ここで逃がすのは非常にもったいない。俺も料理はある程度出来るものの、やはりおいしいものが食べたいのだ。

「意見をもらうこと?」

「そそ、基本的にエンキリって一人で活動することがほとんどだから情に流されるときがある。まぁ、金をもらえばそこまでだけれど、後から文句を言われるかもしれないだろ? 失敗を犯さないようにも、他の意見は大切なの」

 他のエンキリだと大抵がああ? 俺様に意見してんじゃないよ見たいな感じだ。中学生の頃、それで手痛い失敗をしたことがあるから他者の意見はたまに、聞いている。

「こっちの学園で信用できる人数は少ないからな。早百合は普段ふざけることもあるけれど、そういうところは絶対にふざけない。俺は早百合のことを信用しているつもりだ」

「普段、乙がふざけるからあたしはその言葉ちょっと信用できないかも」

「俺だって決めるところは決めるだろ」

 決めていたっけ? 決めていたよな。決めていたと思う……んだけどな。どうかな、

「ちょっと信じられないなぁ」

「おいおい、どうしたら信じてくれるんだ」

 お金をそれとなく渡せば……賄賂で買収は基本だ。

「……あたしに一切嘘をつかないって誓うのなら信じてあげる」

 面倒くさいことを言い出した。しかし、雇うと言った手前、しょうがないか? 別にしょうがなくはないか。元は一人でやっていたことだし、意見を求めるのなら紅蓮……はちょっと危ないな。波崎さんもどうだろう。三枝もあれだし、青空先輩なら信用できるな。

「乙、答えはどうなの?」

「じゃあ、青空先……」

「せいっ」

 知ってるか? 本家のエンキリって不意打ちなんて軽くいなすそうだぜ?

 俺はあれだ、分家で、一般人だからそんなことは出来ない。

「何、別の女の話、してるのよっ」

「お、おいおい、何やっきになってるんだよ。もしかして俺のことが……」

 好き? まさかね。

「そんなわけないでしょっ」

 拳が飛んできた。しかし、俺はからかうのをまだやめない。

「とかなんとか言っちゃって……げふっ」

「ないからっ」

 最後に一発、また飛んできた。

「ぐふっ、ですよねぇ」

「みじんこたりとも、想ってない。触りたいとも想わないわっ」

 じゃあ、何故に俺は今、胸倉を掴まれて壁にぶつけられているのでしょうか。

「しかし、何故に嘘をつかないという約束を?」

「……あんた、この前あたしのお姉ちゃんに会ってたでしょ。期末前の、補習教室で」

「会ってたよ。数学の教科書、二十四ページの練習問題が分からなかったからな。応用問題についても聞いたぜ」

「本当のことを言いなさい」

 馬鹿な俺でもようやくわかってきた。さっきの嘘をつかないは俺から何か情報を得るために言ってたのか。信用、ないんだな俺って。

 俺のことはともかく、美優先生から教えてもらったことは早百合に言ってあげてもいい。ただ、この俺を壁にぶつけて睨みつけるなんてさすがに頭が来るぜ。

「何よ、その顔は」

「教えてやってもいいけど、早百合が俺にキスしてくれたら……ふむっ」

 顔をぶつけるような勢いで早百合が迫り、俺の唇を塞いだ。そしてそのまま、お互い動かない。

「……」

「お、おい?」

 一瞬なんてものじゃない。息を止め、少し苦しいという長い間キスしていた。何せ初めての経験だ。それが長いのか短かったのか、分からなかった。

 え、だってさっきは好きじゃないとかなんとかこうたら言ってたじゃない。

「さぁ、教えなさい」

「あんたなぁ、いきなりすぎるだろ」

「あんたが先に言ったんでしょ」

「そうだけどよ……情報得るためなら何でもするのかよ」

「あんただって、冗談でも女の子にそういうこと、言わないほうがいいわよ。相手が本気だったらどうするつもり?」

 言いあいで勝てそうにないです。あと、この人と組んだら言い争いになりそうです。しかし、早百合がパートナーでなければならない。少なくとも、ある仕事を終えるまでは。

「それに、あんたのこと別に嫌ってないからさ」

「あ、そなの」

「うん」

 力強い目つきは俺の目をしっかり見ていた。少し、照れた。

 照れてる場合じゃない、この状況、どうすりゃいいの?

「ま、いいや。どうせキスしてもらわなくても教えるつもりだったし」

「は、はぁ、何それ。あたしのファーストキス、返してよ」

 そうか、ファーストキスか。なんというか、ほっとしてしまった。別に、最初だろうと数回だろうと、関係ないはずなのになぁ。

「返すって……キスをすればいいのか?」

「そんなわけないでしょ馬鹿!」

 思いっきり蹴られた。痛い。

「あーもうっ、ほら、さっさとおねえちゃんと何を話したのか言いなさいよ」

「……大まかに言うとあれだな、美優先生は早百合と仲直りしたいって話だ」

 そのほか色々と聞いた気もする。でも、それらは今必要ない。

「仲直りって……いまさら?」

 さっきのキスの余韻なんて吹き飛んでしまっていた。

 早百合の自嘲気味な笑みは何故だろう。どこかうつろで、寂しそうな顔はすねた子どものように見えた。

「今更じゃない。俺は早百合のために……」

「早百合のためって、あんたに何が分かるって言うの?」

「知らん。だから、教えてくれ。どうしてそこまでして姉ちゃんと仲直りしようとしてしないんだ。そのくせ、気にしているだろ」

「乙が……乙が、あたしのことを裏切らないって言うのなら教えてあげる」

 大変、遺憾である。俺がいつ早百合のことを裏切るというのだろうか。

「裏切る? 俺は早百合のことを裏切らないよ」

 裏切られることはあっても、だ。

「……お姉ちゃんに会ってたじゃない」

「あのな、早百合。俺はエンキリだ。俺があんたを裏切るときは……全部の縁を断ち切ってそれっきりだ」

 イケメンのエンキリ(高い能力もちのみ)はそりゃもう、凄いぞぉ。女がうざくなったら縁の糸を断ち切って即、逃げるのだ。しかし、正義派を気取るエンキリによって追い詰められ凄いことになるらしいが。

「頭のいい早百合なら、そっちのほうが効率的だって分かるだろ」

「……そう、ね。乙がそんなことしたら絶対に刺すけどね」

「本人が刺せるほど、エンキリは甘くないよ」

 そう考えるとエンキリってクズねといわれた。

「俺を信頼してくれなんてもう、いわない。だから一方的に俺が約束する。早百合のそばにいるってさ」

「……あ、あっそ。期待はしてないから」

「分かってる。早百合に嫌われたらちゃんと消えるよ」

「そのうち、お姉ちゃんとはちゃんと仲直りする」

 早百合ならそういってくれると思ってた。

 んじゃ、今日の夕方早速学校関係者の方と仲直りをしていただこう。


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