H3:日和、ばれる
問題が発生した。
「もう二人ともラブラブですって。何せ、男の子が生まれたら宗平、女の子が生まれたら民子ってつけるそうですもん。満願成就ってやつかしらん」
何も夏休みが全て休めるわけじゃない。たまには登校も必要なわけで……まぁ、部活もあったりする。
「そうか、とうとう日和ちゃんも告白に成功したのか。よかった、よかった」
紅蓮はレースのハンカチで涙を拭っている。あんたは結婚式中に泣き出すお父さんかよっ。
「俺がおなかを痛めて生んだ甲斐があったぜぇ」
「お父さんじゃなくてお母さんかよっ」
紅蓮から生まれてくるのはエイリア○ぐらいなもんだ。
「日和、おめでとう。乙先輩、おめでとうございます」
瑠璃は笑って俺達を祝福してくれていた。
「胸を張るといいわ、日和。彼氏の乙もこれからしっかりしないといけないわね」
青空先輩もそんな風に祝ってくれている。
誰もが幸せそうな風景。しかしそれは、一人を除いて。
「あ、ああああ……」
膝を着いて悲嘆にくれる日和。そりゃそうだ、今のところ嘘の彼氏と彼女なのだから。
「あの引っ込み思案の日和が遂にねぇ」
「変なところでアグレッシブだったけどな」
皆が日和を囲んで色々といっていて、鈍い俺にも、この状況が理解できた。
「そうか、日和が……」
色々と考えそうになるのを止める。馬鹿は何も考えなくていい。
「日和、立てよ。スカートが汚れるぞ」
俺から声をかけられて日和の肩が面白いようにはねた。
「え、あ、あの、これはですね」
「いいからこっちこい」
「はいぃ……」
近づいてきた日和の肩を抱き寄せ、再度宣言する。
「日和は、俺の彼女だよ。嘘偽りない」
「えっと……」
申し訳なさそうな日和に俺は笑ってみせる。今はまだ、このままの関係でいいだろう。日和の気持ちを知ってしまった以上、俺も返事を、いいや。まずは日和のことを知ることから始めよう。返事だ何ておこがましいことは相手を知らなくちゃ失礼だ。突発的な告白ならともかく、これまで黙っていた好意なのだから隠しておきたいはずだ。
帰宅後、部活であったことにはお互い触れずに着替え、リビングへと出た。
「ちょ、調査部だけに今晩のおかずを調査してきます」
「ああ、いってらっしゃい」
日和はそういって買い物に出かけた。俺がその間にやっておくことは日和のことを知ることだ。
「日和とはいつ、知り合っただろうか」
思い出したとはいえ、非常におぼろげなのだ。ないほうがいいのかもしれない。
独り言を拾ってくれる相棒は、今いない。
日和に関することは師匠に聞いてみようと思う。困ったときは頼るんだぞと言っていたし、日和をけしかけたのはどうせあの人だろう。
電話を掛けている最中に日和が帰ってくるとも限らないので、アパートから出ることにした。どこがいいか考えた末に、学園の屋上へといってしまう悲しい俺。
うだる暑さの中、携帯電話を取り出した。
「もしもし?」
久しぶりに聞く師匠の声は……いや、そういえばこの前会ったばかりだ。
「あ、師匠俺です。乙です。ちょっと師匠にお尋ねしたいことがありまして。今、大丈夫ですか」
「問題ないよ」
エンキリをやっていれば普段は暇だろうからな。金もあるし、見た目美人だし、若い……からといって、プライベートが充実しているわけではない。
おそらく、だらだらとした日々を過ごしているのだろう。
「あの、日和の事に関してなんです」
「何、あの子、また何かやらかしたの? それで、何を盗まれたの」
「はぁ、何のことだかさっぱりですが」
「む、そうなの? しまったなぁ」
師匠のしまったなぁは罠だ。わざと口を滑らしたときにそんな事を言っていた。
「俺と日和が出会った時期を知っていますか」
「そうねぇ、私が知る中じゃ……ああ、ほら、子どもの頃に刀を渡されたでしょ? あの時。納得できないって言って長老の爺さんに食いついていた子どもが日和ね。おそらく、そのときが最初じゃないの」
「なるほど」
記憶の端っこにへばりついている程度の情報だ。良く思い出せない。妙な先入観を抱かせるから、俺の記憶のほうはほうっておいてもいい気はする。
「思い出せる?」
師匠はどうせ思い出せないのだろうという気持ちを言外に滲ませていた。
「……思い出せません」
それに乗ることにしよう。
「わかいのにねぇ」
「師匠だって、若いじゃないですか」
「老紳士の曲線斬撃をカウンタ取れないくらいに老けた。もう年かな」
また何かゲームにはまっているらしい。そういえばこの前、P○の最新機をようやく買ったって自慢していたっけ。
「ゲームの話は置いといて。日和の話に戻しますが……」
「その前に聞いていい? 今更、日和のことを調べてどうするの。何かあった?」
「まぁ、多少は。というより、偶然知ってしまったのですが、日和はどうやら俺のことを好きらしいんです」
自意識過剰野郎と罵られるかもしれない。
「え、今更気づいたの?」
「……師匠、知っていたんですか」
「知っているも何も、その恋が生まれた瞬間に立ち会ったのは私よ」
一体それはどういうことだ。
「え」
「小さい頃からエンキリとして貴方を超えるため、努力してきたらしいわ」
「は、はぁ。でも俺の記憶だと中学生の頃から師匠の下で修行を……」
「それはまぁ、なんというか一族の涙ぐましい努力のおかげね」
「良く意味がわかりません」
「おっと、話がずれたわね。まぁ、幼少の頃からどうにかしてやろうと付けねらっていた相手を見ているときにどきどきし始めたらしいの。それで、私のところにやってきてこの気持ちはなんだと。それを聞いてぴんと来たわね。それは、恋だといってやったわ」
師匠は余計なことをした可能性がある。違うどきどきかもしれないじゃないか。
「まぁ、そういうことだから。元気にやりなさいよ。あの子は乙のことをずっと見ているのだから」
「え、ちょ、ちょっと。俺はどうすればいいんですか」
「どうもこうも、あんたの好きなようにやりなさい」
今度こそ電話は切られた。
逃げられるのであれば、逃げたい問題。でも、この問題は逃げたら駄目だ。




