R3:瑠璃、困る
一月が俺の誕生日なわけで、まだまだ十六歳である。
十六歳で遊園地にやってきてはしゃげるものだろうか。
まぁ、祖父母に一度しか連れて行ってもらったことがない俺にとっては超嬉しいんだけどね。
待ち合わせ場所は西羽津市にあるテーマパークだか遊園地だか分からない場所の入り口だ。元は錆びれた遊園地だったものを地藤っていうグループが買って経営し始めたらしい。
「乙、あそこのカップル爆発しねぇかな」
物騒なことを言う友人に、俺は優しい笑顔を向けた。
「祈れよ。祈れば世界が救われる。世界が救われるって事は紅蓮もすくわれるってことだ」
「そうか。だったら祈るよ。世界が救われますようにって」
紅蓮、残念だがあんたがすくわれるのは足元だけだ。
「しっかし、青空先輩が来られなかったのは残念だな。もっと仲良くなりたかったんだが……いてっ。何すんだよ」
俺の視線の先にはものすごく怖い、紅蓮の面が。
「お前さん、そんな事を波崎ちゃんが来たら絶対に口にするなよ。女の子の前で他の女の話をするのは無しだ」
そりゃ、二人っきりのときのルールじゃないのか。そもそも、早百合だって来るんだぞ。
「元は波崎さんと青空先輩を仲良くするためのイベントだったのにな」
「俺は波崎ちゃんを元気付けるためのイベントだと思ってたぞ」
「……まぁ、それもいいけどさ。ところで、皆遅くないか?」
「そうだな。そろそろ集合時間なんだが……」
その時、俺の電話が鳴った。
「早百合? どうした?」
「ごめん、今日ちょっといけなくなった」
「えー、何だよそれ。楽しみにしてたのに」
波崎が来たら男二人と周ることになる。飯は一緒できるが、遊園地は無理だろう。そこまで親しいというわけじゃない。それはそれで、緊張させるに違いない。
「あー、姉さん絡みで」
「……だったらしょうがないな」
この埋め合わせは必ずといって切られた。
「どうせ早百合のことだから埋め合わせなんてしないんだろうな」
「早百合がどうしたって? まさか来られないとか言うんじゃないだろうな」
若干怒っているようだ。やはり、こいつも楽しみにしていた口なのだろう。
「早百合って言うよりお姉さんのほうで何か問題があってこられなくなったそうだ」
「……おう、だったらしょうがねぇな」
特殊なお姉さんだからな。しょうがないの一言で済まされて終わりだ。
そして次に、軽快な音が鳴り始めた。もしかして、波崎から行けないって電話だろうか。もしそうなったら紅蓮と二人で遊園地を周ることになるわけだが……うーん、まぁ、それはそれで面白いかもしれない。
テーマパークだか遊園地だかにいるきぐるみ相手に戦うのも一興だろう。
「もしもし、どうした?」
電話に出た紅蓮は二言、三言交わすと顔を青ざめた。
「……わかった。すぐに帰るから」
「おい、どうしたよ」
「いも……」
「いも?」
紅蓮の顔が苦々しげになっていく。
「いも……じゃがいもな。それに含まれているソラニンって知っているだろ。ばあさんが間違えて食っちまったそうでちょっと危ないらしい」
「マジか。じゃあ帰らないと駄目だな」
子どもならともかく歴戦の知恵を蓄えていそうなおばあちゃんがジャガイモの毒を食べるとは思えないな。嘘だ、紅蓮。
「やべぇな……」
嘘は付いているものの、顔色は非常に悪い。大切な人がどうにかなったときの表情だ。
「行ってこいよ」
「ああ、すまん。波崎ちゃんに今度DXパフェ奢るって言っといてくれ」
「俺は?」
「栄養満天のソラニンじゃがいも送るわ」
あんなに慌てている紅蓮を見るのは初めてではないだろうか。すぐにタクシー拾ってるし。
疾風のごとくいなくなった紅蓮を後に、俺は電話を取り出した。
「今回はしょうがないな。波崎さんに電話してやっぱり無しにしてもらおう」
ケータイを耳に当てて数度のコール音。
「あ、波崎さん?」
「どうしました?」
「今、どこにいる?」
「乙先輩の後ろにいますよ」
何、それ本当?
後ろを振り向きたくなる衝動に駆られながらもここは我慢だ。
「私、○リーさん。今あなたの後ろにいるの」
確実に死亡フラグである。見た目、フランス人形なのになんでロリーさんは日本語達者なのとか、ケー番教えてよとか言っている場合ではない。
「つまり、振り向いたら波崎さんにやられるってわけか」
「あのぅ、何意味の分からないことを言っているんですか?」
背後から、波崎の声がきこえてきた。
「ごめん、なんでもない。俺の妄想」
振り返る。その先にはタンクトップにジャケット、結構短いスカートをはいている波崎がいた。
「ど、どうもです」
ここは男として何か言ってあげた方がいいんじゃないだろうか。
「そのままちょっとターンしてみて」
「こうですか? きゃっ」
よろけてしりもちついた。スカートがめくれてパンツも見えた。
ああ、そうそう、パンツに見とれてないで誉めてやらないとな。
「波崎さんよく似合ってるよ」
「……おそらく、服のことを誉めてくれているんでしょうね」
「それ以外に何が?」
言われて気づいた。無様な格好が似合っていると思われなくて良かった。
「早く助けてくださいよ」
「ごめんごめん。立てる?」
手を差し出して起こしてあげるとよろけて俺の胸に収まってしまった。
「あ、えっと。わざとじゃないです。その、さっきので足を捻ってしまって」
「いいって。ちょっとそこのベンチに移動しようか……よっと」
「え、ええっ?」
俗に言うお姫様抱っこ。正式名称は知らない。一度でいいからしてみたかったんだ。
「乙先輩、皆が見てますってば」
「え? ああ、ごめんね。すぐにベンチに座らせてあげるから」
「は、はい」
顔を真っ赤にさせる波崎も中々に可愛いじゃないの。
ベンチに座らせてもまだ波崎の顔は赤い。
「うう、まだ見られてる。注目の的ですよ」
「実はこれを狙ってたんだ」
「どういことですか?」
「すみませーん、この中にお医者様は居られますか?」
「パイロットとCAなら」
今求めているのはその職業じゃない。捻った足を見てもらわなくてはいけないのだ。
「あ、はいはい、医者ですよ」
「私も医者です」
「よかった。二人もいた」
やったね、これならセカンドオピニオンが出来るぞ。
「外科と内科どちらの先生ですか?」
「歯科医者ですけど」
「獣医です」
「……波崎さん、好きなほう選ん……すみません、お二人とも。せっかくきていただいたのに申し訳ないですが、大丈夫でした」
波崎さんが泣きそうになったのでこれ以上のボケはやめておいた。
「あー、こりゃ駄目っぽいね。今日は一日、安静にしておきましょう」
靴を脱がせて確認する。少し腫れてきていた。
「そんな」
「ま、どうせ今日はお流れになったんだ。早百合も、紅蓮も遊べなくなったからね」
「そう、なんですか?」
「うん。早百合のほうは女の子が好きな姉……こほん、家庭の事情で。紅蓮のほうはお婆さんが毒を煽って。今日遊べなくなったといっても波崎さんが気にすることはないよ」
「あの、凄くお二人のことが気になるんですけど」
波崎はやさしいなぁ。
「一旦、波崎さんの家に帰ろうか。タクシー呼ぶから」
「え、そんないいですよ」
「ははは、大丈夫。紅蓮の奴が呼べて、俺に呼べないわけがないから」
「妙な対抗心を抱いてますし……」
「すみませーん、この中にタクシーの運転手の方は……」
十分粘ったが、見つからなかったために素直に電話で呼びました。




