S3:早百合、気になること
もう少しで期末テスト……勉強も最近は真面目にやってますよ? 暇つぶしもゲームではなく、本を読んでいるし。最近は電子書籍があるから漫画本を大量にもちたくない(師匠が俺の漫画本を幾度となく燃やした為)俺にも優しい。
それでもまぁ、中間での成績不振者(赤点保持者ではない)のために放課後は先生達が教えてくれていたりもする。
「あ、美優先生」
「縁切くん?」
数学を教えてもらうため、空き教室に入ると美優先生がいた。
「ここ、数学ですよね。保健体育じゃないですよね」
いかがわしい授業には興味あるものの、彼氏もちの人にちょっかいを出すほど俺も馬鹿ではない。迷惑をかけると早百合にも飛び火するからな。今だってこの前のテストの一件で少し風当たりが強いのだ。
「間違ってないわ。私も教えられるほど勉強はしているから安心して。ま、ここ予備教室だけどね」
どうやら急遽教室が変わったらしい。参加希望者が多いために会議室に変更されたとの事である。
「そのうち人が来るだろうから、先に教えてあげる」
「ありがとうございます」
数学の勉強もいいけれど、せっかく美優先生と一緒に居るのだ。もっと別のことを聞いてもいいかもしれない。
「あの、最近どうですか?」
「ん? 彼氏との仲?」
「それも聞いてみたいですね」
もちろん、冗談だ。何故俺が彼氏もちの人の話をわざわざきかなくてはならないのか。
「言っていいの?」
にやっと笑われた。どうやら、こちらの心の中を見透かしているらしい。やっぱり、上っ面の表情はばれやすいんだな。
「……のろけられるんでやっぱりいいです」
「縁切君には感謝してるわ。女の子も悪くないけれど、年下でいじめがいのありそうな男の子、とてもいいわ」
何がいいかは聞かないで置こう。のろけと思わず規制が入るような地雷の恐れがある。
「それで、聞きたいことって?」
主語が無ければ話が進まないタイプかもしれない。いや、回りくどいのは駄目なのだろう。ここは素直にこちらから問題定義することにした。
「……早百合のことです。仲良くやっていますか」
そういうと微妙な顔をされる。
「今は、仲がいいとは言えない。早百合がわたしの事を嫌っているからね」
「嫌っていないですよ。この前、早百合の部屋に行ったら美優先生とのツーショットがありましたから」
嫌いな相手の写真なんて、俺なら細切れにしてやるよ。
「ああ、あれね」
苦笑しているところを見ると、あの写真は思い出の品らしい。
「あの子、まだ持ってるんだ」
そして、美優先生はやさしく笑っていた。姉のほうは妹に対して負の感情はあまりないようだ。
「あいつシスコンの気がありますよ。素直になれないんです」
「早百合のこと詳しいね、彼氏?」
「俺は調査部の部員ですから」
対して調査なんてやってないけどさ。
「部屋にも入れてもらったんでしょ」
「多少強引に……一人暮らしをしているわりに整理整頓されていました」
俺の部屋も綺麗だが、単純に家具がないというのが大きい。
「俺は家族がいるのなら、実家暮らしのほうがいいと思うんですよね」
「何だか実感こもったいい方ね」
「先生は知っているかもしれませんが、俺に両親はいないんですよ。母ちゃんは俺を生んだときに死んで、父ちゃんもその後事故で死んだと聞いています」
「なるほど」
美優先生は目を閉じて何かを考えていた。
「祖父母に育てられて、その後まぁ、エンキリの素質があったってことでエンキリの師匠のところで暮らしていました。家族がいるのなら、大切にしたほうがいいでしょ? 早百合に仲良くするよう言っているんです」
「自分の体験から家族を大切にしろって?」
「兄弟どころか、両親いませんからね。いたらいたで何か問題があるんでしょう。俺はその問題について家族がいないのでよくわかりません」
「早百合にそのこと、話したの?」
俺は静かに首を振った。
「……自分の立っている場所が全然違いますから。両親とはともかく、美優先生と仲直りだけはしてもらいたいんです。お節介だとは思いますがね、元から相容れないのなら俺も無理にとは言いません。迷っているのなら、背中は押してあげたいんです」
「そう、ね。君の言うとおりかも」
仲直りしたいのは姉も同じのようだ。よかった。
「私も縁切君にはお礼がしたいし……でも、そんなことでいいの? あなた自身には全く利益にならないようだけれど?」
そんなこと、笑って言うが俺にはとても難しい案件に見えるのだ。何せ、俺には縁を切る能力がある。それに、糸を紡ぐ能力だってある。
異能を持ちながら、それでもたまには失敗をする人との関係性だ。
「ええ、構いません」
「早百合に縁切君の話はした?」
「……言う必要は今のところないかなって。余計な気を使わせたくもない……というのは嘘で、あんたが私の何を知ってるのよっていつか言ってみたいんですよ。そのときに言うつもりです。生徒として過ごして、分かれるときだから……卒業式にでも話そうかなと」
「あんたが私の何を知っているのよって台詞、一度私も言ったことがあるわ」
「へぇ、誰に言ったんですか?」
思えば使いどころの難しい台詞ではある。そもそも、不用意に心の領域を踏みしめられたツンデレが言う台詞だろうか。
「両親に。家を飛び出したときにね。あんたに何が分かるんだって」
「……そういう真面目な事をさらっと言わないで下さいよ」
もう笑い話だから。そういって笑って見せてくれた。
「ああ、そうだ。縁切君が秘密を教えてくれたから私も一つ教えてあげる」
「はいはい、何でしょう」
「あの子の学費は私が払ってるの」
「え? どうしてですか」
「あの子も両親とケンカして家を出たような形だからね。それが気に食わなかったんでしょ、あの二人は」
美優先生、苦笑い。
「あの二人は頭を下げれば払ってくれるんでしょうけどね。最低限しか私も振り込んでいないけれど苦労していない。男から貢いでもらっていると思ったけど縁切君は何か知ってる?」
「いや、男から貢いでもらっている感じは無かったですね」
俺が気づいていないだけかもしれない。
「まぁ、それとなく早百合に聞いておきますよ」
「うん、お願い。変な男に引っかからないといいけれど」
俺もこんなおねえちゃんが欲しかったな。
ないものねだりと知りつつも、俺は青空に願ってみた。縁切能力を使えばなんとかなるかもしれない。
「んじゃ、俺はもう行きます」
「数学はどうするの?」
「ああ、そうでしたね」
それから数学についていくつか質問を終えて、教室を出る。
「乙?」
ちょうど廊下の向こうから早百合が歩いてきていた。
「早百合か。どうかしたか?」
「部活に顔を出してなかったから探しに来たの」
「ふぅん? 別にあの部活は毎日顔を出す必要、ないだろ」
これまで基本的に毎日行っていたけれど、さして活動内容があるわけでもない。
「そうだけどね。乙にちょっとお願いがあって」
「お願い?」
「どっちかというと、エンキリの乙に対して」
なるほど、また何かの縁を切ってもらいたいらしい。
「いいぜ」
「内容も聞かない状態で返事しないでよ」
「悪かった。それで、何だ?」
「夏休み中、エンキリのアシスタントとして雇って欲しいの。お願いっ」
俺も見習いたいくらいの頭の下げ具合であった。
「え、別にいいけど?」
「本当? やった。最近結構厳しい生活だったからよかったぁ」
美優先生へ、懸念していた男の線は消えました。




