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エンキリZ  作者: 雨月
22/44

R2:瑠璃、ご機嫌いかが

 四時間目が終わればお昼休みだ。この摂理が曲げられることは永久に、ないだろう。

「乙、今日は学食に行こうぜ」

「ああ、いいよ。今日は弁当作ってきてないから」

 青空先輩が調査部に入部して数日が経っていた。早百合も戻ってきているし、何ら問題は起きていない。

「今日はケバブを頼もうかと思っているんだ」

「……そんなのもあるんだ」

 本当だろうか。こればっかりは嘘をついているようにしか見えなかった。

 俺は食券販売機に並び、紅蓮は直接おばちゃんのもとへと向かった。

「おばちゃん、ケバブ定食」

「あいよ」

「……やっぱり、あるんだ」

 ケバブはあるのに、TKGはないんだよね。BLTサンドはあるみたいだけど。

 結局、俺が頼んだのはきつねうどんだった。

「しっかし、あの新聞部の部長さんが調査部に入部してくるなんて思いもしなかった」

「早百合とも知り合いみたいだったなぁ」

 脳裏に浮かぶのはぐるぐる眼鏡と必勝鉢巻の青空先輩だ。普段は丁寧口調ながら、きれるとかなり暴力的な性格と口調になってしまう。

「乙、あの人は怒らせないのが吉だぞ」

「ああ、それがベストだってわかってる。ま、怒っても紅蓮を生贄にすればいいさ」

「俺も今、乙を生贄にすればいいやって思ってた」

「気が合うな」

「全くだ」

 二人で拳をぶつけ合う。ちょっとした青春を味わった。

 いざ、そうなったらお互い友情なんてもの、存在しないがな。そこにあるのは壮絶な足の引っ張り合い。覚えておくといい、対立していても友人は友人なのだ。生き残ったほうが、朽ち果てたほうの想いを持って生きていかねばならん。

「そういえば乙」

「何だ」

「最近、波崎ちゃんが元気ないな」

「そうか?」

 元気がないのかはともかくとして、機嫌が悪いのは確かである。主に、青空先輩の存在だろうと俺は考えている。

「もしかしたら比類優の件が今頃になってきいてきたのかもなぁ」

「じわじわとボディブローのごとく?」

「んだ」

 その慈しみの視線は普段の紅蓮からは想像できない。

「紅蓮はいつも年下にやさしいな」

「そうか? 男として当然だろ。と、いうかだな。ちゃんと女性全般に優しいぜ?」

 早百合に対してはさしてやさしくはない。ただ、相手が波崎になると結構態度が変わるもので、やさしい。

「波崎ちゃん、お茶買って来たよ」

「波崎ちゃん、暇じゃないかな。一緒に遊ぶ?」

「波崎ちゃん、宿題の調子はどう?」

 こんな感じだ。

 下心があって接しているのならまぁ、納得できるが……紅蓮の場合、まるで妹に接するような感じだ。慈しむってやつかね。

 見返りを求めない人間のほうが、何を考えているのか分からないので怖い。

「もしかして紅蓮に妹がいるのか」

「……いるぜ」

「そうか。じゃあ、紹介してくれ」

 きっと紅蓮に似てごつい……と、見せかけて実はとっても可愛いに違いない。

「いいけど、画面の中から出てくれないぞ。おかしな話だろ?」

「あんたいつか魔法が使えそうだな」

「まぁな。守るものなんて右手で事足りるほど少ない……俺が守っているものの一つさ」

 ニヒルに言っているが格好いいわけじゃないぞ。あと、ごまかし方が下手だな。

「あれ? 乙先輩に鬼瓦先輩じゃないですか」

「あ、波崎ちゃん」

 途端、紅蓮の顔がほころんだ。

 うーむ、下品に笑うなら想像できるんだけどまるで妹に接しているようにしか見えん。いつかこいつの妹を暴いてやろうと思う。

「ご一緒してもいいですか」

「もちろんだよ。な、乙」

「ああ、構わない」

 波崎が持ってきたのはおにぎり定食だ。三色のおにぎりと、お味噌汁という質素な感じの定食である。

「波崎ちゃん、最近調子どう?」

「え? 元気ですよ」

 笑顔を振りまくその様子に、違和感はない。やはり、紅蓮の間違いだろうか。

「ふぅ、そうかい? 紅蓮お兄さんにはそう見えないんだよね」

 そういって心配そうな表情の紅蓮。似非お兄さんってわけじゃなさそうだ。実妹はともかく、これは年下を見てきた奴の顔だ。

「は、はぁ、心配ですか」

「そうなんだ」

 鬼瓦先輩、どうしちゃったんですか。

 そんな視線が波崎から向けられる。逆に心配されてるぞ、紅蓮。

「今度皆で遊びに行こうか」

「遊びに?」

「そうだ。親睦を深めるためにな。ぱぁっと遊べば嫌なことも忘れるだろ」

 いがぐりの割にはいい考えである。青空先輩にあまり波崎が話しかけないことは事実だし、そこらへんを俺は解消してあげたいもんだ。

「そうと決まればこうしちゃいられねぇ。早百合のところにちょっくら行って来る」

 すぐさま立ち上がって食器を戻し、行ってしまった。

「本当に、どうしちゃったんでしょうね」

「きっと頭を打ったんだよ」

「え、売れるほどの価値、あるんですかっ」

 波崎、勘違いしている上に酷いな。

 さすがに、紅蓮のフォローをしてやろう。

「……純粋に君の事を心配しているんだと思う」

「乙先輩は心配してくれないんですか」

「しているけどさ。元気がないって言われてもぴんとこないんだよ。元気、だよね?」

「元気ですよ」

 俺に向けて笑顔を向けてくれるのは非常に嬉しい。

「青空先輩とちゃんと話せてる?」

 そう訊ねると苦笑した。

「……ちょっとだけ」

 こっちはまぁ、おいおいってことで何とかやろう。

「何か、引きずってることってないかな」

「引きずっていること……」

 俺の考えていたことがわかったらしい。少し困った表情になった。

「やだな、乙先輩。もう大丈夫ですよ」

「そっか、それならよかった」

 ほら見ろ。紅蓮の奴は少し過保護なんだよ。

「でもですね」

「うん」

「今、いいかなぁって人がいるんですけど……ちょっとその人の好きなタイプと私の見た目に差があるですよねぇ」

 新たな恋の悩みのようだ。

 ふむ、これは……エンキリの出番かもしれない。

「ということは相手の好きなタイプは豊満で、大人びていて……どこか気だるそうな感じの人かな」

 つまり、新しい想い人は別の好きな人がいるってわけかい。そして、そいつは青空先輩みたいな人が好みだと……なるほどねぇ。

「……乙先輩が普段私をどう見ているのか分かった気がします」

 すげぇ顔で睨まれた。口は災いの元って奴だね。


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