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エンキリZ  作者: 雨月
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S2:早百合、呼び出される

「人間っていうのはどれだけ恩があっても、一時の感情でかっとなって、まるで獣の面をするときがある」

「師匠は荒みすぎだよ。人間はそんなに酷くはないね」

「お前もいずれ、体験するさ。そのときは、戻ってくるといい。ただお前が、勘違いしているかもしれないからな……またばしばし鍛えてやるから」

 師匠とそんなやり取りをしたのも懐かしい。

「師匠へ、今は俺の心が荒みそうです……点数的に」

 中間テストが戻ってきて、俺は暗澹たる気持ちになる……ことはない。元が馬鹿だから、こんなに点数をもらえたら喜ぶべきだろう。荒まず、前を向いて歩かないとな。

「見てくれ早百合。俺、平均点取れたよ。もう、この世に未練はない」

「あんたねぇ……」

 はぁ、一つため息をつかれた。

「平均点って何か知ってる?」

「知ってる。この学園の真ん中にいるって事だろ」

 俺、凄い。

「そんな点数でよく満足できるわね」

 小ばかにしたような感じだ。そういわれると菩薩のように広い心の俺でもかちんと来る。

「でも、紅蓮に勝ったんだぜ?」

 紅蓮の奴、よほど勝てると思って肩透かしを食らったのかさっきからそうじ箱に入ったきりで出てきてないぜ。

「乙の上にはもっともっと、人がいる。それを抜こうとは思わないの?」

「思ったこともない。早百合、越えられない壁ってあるのよ」

 現実は理想と違って甘くはない……といいたいところだが、現実を乗り越えなければ理想がその手に来ることはない。

「だから俺は、頑張らない……ところで、早百合の点数は?」

「ん、特別に見せてあげる」

 点数を見せてもらって驚いた。

「早百合って頭は、良かったのか……いててててっ」

 思いっきり頬を引っ張られた。

「頭も、よ。でも、こんなの、成績がいいだけ」

 乗せられやすいかと思えばそうじゃないのだろうか。苦々しげな表情をしていた。

「学園の順位は?」

「今回は九番目。私にはまだまだ超えないといけない相手が九人もいるわ」

 早百合が見ている相手の中に恐らく姉の姿もあるのだろう。

「大変だねぇ」

 その時、放送がなり始めた。

「二年G組の花見月早百合さん。至急、職員室まで来なさい」

「……やれやれ、ばれちゃったか」

「え、何が?」

「乙、調査部を一時期お願いね」

 そういって早百合は行ってしまった。

 すぐに去ってしまった部長の事が心配になる。

「早百合の奴……九番目なのに越えなくてはいけない相手が、九人もいるって言ってたな……」

 勉強のし過ぎで数を数えられなくなっちゃったのかしら。

 そして放課後、調査部部室で事の顛末を聞くことになった。

「まぁ、言ってしまえばあたしが悪いんだけれどね。ちょっと脅迫したのがほかに嗅ぎつけられていたみたいで」

「やるねぇ、早百合も。委員長キャラだと思ったら全然違うのな」

「そもそもクラス委員は紅蓮君だからね」

 言われてみればそうだった。

「今日は紅蓮君、どうしたの?」

「さぁ? 用事があるとか言って今日は参加しないってさ」

「ふーん。ま、いいけどね。今日は部活、早めに終わっちゃおうか」

「だな」

 そういって立ち上がる。さして準備しているようなものなんてないし、小さな金庫はあるものの中は適当に書かれた調査の書類(美優先生分は破棄された)だ。盗られて困るものなんて特にない。

「……というわけで、あたしは明日から来ません」

「ん、わかった」

「寂しい?」

「すげぇ、寂しい。調査部に早百合は必要だよ」

「そっか、嘘でも嬉しい」

 ごめん、嘘だけどさ。

「じゃ、これからデートしようか」

「デート?」

 何故、俺が早百合とデートをしなくてはいけないのだろうか。

 首をかしげた俺の首に、チョップが入る。

「この鳥頭。お姉ちゃんのこと、解決してくれたからその報酬にデートしてあげるって言ってたよ」

 鳥頭だなんて久々にきいたわ。鳥の顔に、人間の身体か……。あ、わたし得意技はまるまりんぐです。

「超人族の俺をなめないほうがいい……というわけでデートに行こう」

「関係ないでしょ」

 女の子とデートなんて初めてである……多分。いや、あれよ? 女の子と一緒に出かけたぐらいはありますとも。しかしながらそれらをデートと分類してよろしいかどうかは不明なのですよ。向こうからはっきりとデートなんだって言われたのはこれが初めてです。似たようなことはあっても、これが最初だって思ったら新鮮だし……何だか言い訳みたいになってしまった。相手は早百合なのにな。

「早百合、突然のデートだけれど、どこに行く? 知り合いの温泉旅行? それとも夏を先取りして海に? もしくはパワースポット巡り? あと、休憩前提でホテル?」

「……駅前のショッピング街をぶらぶら。今日はその程度」

「なして? なしてじゃ。最後のはともかく、一応いける場所ですよ」

「お金ないから」

 学生さんはお金がないが、時間はたくさんあるのだ。バイトすればいいじゃん。

 全額こっちが負担してもいいけれど、早百合は納得しないだろうなぁ。

「お金、かからない場所ならリクエストに応じてあげる」

「わかった。じゃあ、早百合の部屋」

「……あんたねぇ。ふざけて言ってるのなら」

「ふざけてないよ。俺は早百合のことをもっと知りたいからね」

「何それ口説いてるつもり?」

「意味分からないこと言ってないで、連れてってくれるの?」

「……しょうがないわね」

 押せば何とかなるもんである。さて、部長のお部屋には一体何が置いてあるのやら。

 学園から非常に近いアパート。間違いなく、俺のぼろいアパートよりはマシである。マシというか、できれば俺もこの一室を借りたい。

「不可能じゃないがね、学園から近すぎると遅刻する恐れがあるからなぁ」

「何ぶつくさ言ってるの」

「なんでもない。距離感って大事だなって思っただけだよ」

 早百合の部屋の中で(許可を頂ければ)大暴れでもしますかね。

 編入して初めて訪れた部屋が女友達の部屋。

 一見すると勝利していそうな私。実は、負け組みです。何せ、俺の知り合いには初めて訪れた部屋が彼女の部屋という猛者がいるのだ。

 転校初日で付き合い始めて、三日でお部屋(しかも実家)に訪れ、一週間後には相手の親公認の同居人へと変貌したのだ。

 一体、何をどうしたらそうなるのかさっぱりである。これが生まれの違いという奴だろうか。もしくは、お金の力?

「へぇ、ここが早百合の部屋ね」

 別にリビングでも良かったが、部屋まで案内してくれた。水色を基調とした整理整頓の行き届いている部屋である。

「あまり見ないでよ」

「よーし、写真も撮っちゃうぞ」

「目、潰すわよ」

 こえぇ。

「お茶、入れてくるから大人しくしていて」

「まるで人を家捜し常習犯みたいな目で見るんじゃないよ」

「だって、やりそうだもん」

「大人しくしておくよ」

 本当に大丈夫か、そんな不安を顔に出されてはさすがの俺も家捜しは出来ない。

「……集中、だな」

 ほら、やっぱり探していたといわれるのも癪だ。目を閉じ、世界の意思となるべく瞑想を行おう。

 集中力がかなり高まった俺なら物の縁を見ることも可能だからな。面白いものがあるかもしれない。まぁ、家捜しするつもりはないんだけどね。

 それから数分後、早百合が戻ってきた。

「……何やってんの?」

「え? 瞑想」

「普通、瞑想なんてする? 以前つれてきた男子の友達、全員何か探してたけど」

「俺は約束を守るエンキリなんだ。押すなよ、絶対に押すなよといわれたら絶対に押さないのが、俺だ」

「いわゆるボケ殺し?」

「俺はボケ担当だよ」

 それから特段、やることもなかった。無理言って部屋に案内してもらったものの、やることなんて全くない。

 言葉のキャッチボールを数回した後、二人でテレビを見ていたりする。ちょうどワイドショーでお金の事について話し合っていた。

「同居人にいくらもらったら一緒に生活できる?」

 テレビの中では同棲中の彼氏十九歳がお金を入れてくれないと嘆く三十九歳女性からのお悩みだった。根本的に問題がある気がしてならない。

「……五万ぐらいかな」

 結構真剣に答えてくれた。あるだけ寄越せというかもしれない。

「五万って高くない?」

「全部生活費に当てるためよ。お金はいくらあっても足りないわ」

「ふーん?」

 一人暮らしだといっていたから何かと入用なんだろう。俺も一人暮らしだけれど悠々自適な生活を送っているからそういうのはわからない。

「あ、家族写真が飾ってある。見ていいか?」

「駄目に決まってるでしょ」

 机の上においてあった姉とのツーショット、そして家族の集合写真だ。姉との写真は恐らく早百合が中学生の頃、家族写真は小学生の頃のものだろう。

「そっか、駄目か。羨ましいなと思ってね」

「ああ、乙も一人暮らしだっけ」

「……ま、そうね。一人暮らしだとぱぱんとままんの顔を全て忘れるから」

「さすがにそれはないんじゃないの」

 家族の集合写真はあまりいい表情をしていない。それに比べて、姉とのツーショットは結構可愛く笑っている。

「お姉さんと最近どうだ?」

「最近どうだの意味が分からない」

「お姉さんと最近話やらなんやら出来ているかねと聞いたんだ。ほら、早百合ってシスコンだろ」

「なっ……シスコンじゃないっ」

 顔を真っ赤にして否定するところが超怪しい。今時、唐草模様の風呂敷を持っている泥棒さんより怪しいってもんだ。

「俺はシスコン、いいと思うよ。純粋に、羨ましい。だからもし、仲違いをしているのなら……俺がそれを戻すの手伝う」

「お、乙にそこまでしてもらう必要はない」

「そうかい」

 軽いショックを覚えるより先に、仲があまり良くない状態だということを知った。


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