第一話:乙、友達が出来る
転校よりも編入としての扱いが強かったからか、はたまた編入された数が多かったためなのか……俺がみんなの前で自己紹介をすることはなかった。ちょっと残念である。
「ふむ」
四十人前後のクラスメイツを眺めつつ、今後どうするかを考える。
学生の本分はお勉強だ。当然、俺にもそれは当てはまる。賢くないけどな。
勉強以外にも運動部系の部活で汗を流してみるのもいいし、文化部系の部活で青春を謳歌してもいいだろう……言っておいてなんだけれど、文化部系で青春を謳歌って今一つ想像出来ないな。コンクールで優勝や展示会での頂点に君臨することだろうか。
とりあえず教室に残らずに学園内をぶらついてみようかな。
「今度、君の家にあるズレンドの石像、デッサンしに行ってもいいかな?」
「は、はい先輩っ。お待ちしておりますわ」
美術室近くの廊下まで歩いてくると、そんなやり取りが行われている。
「なるほど、あれが文化部系の青春謳歌イベントか」
ついつい小太刀を取り出して赤くて太い糸を断ち切ってやりたくなる。縁を確認すると、二人が繋がれている糸は太い。こりゃ二人はこのままくっつくだろうな。
ここは我慢である。なぁに、羨ましいのなら自分もあちらの人間になってしまえばいいのだ。
願うのは簡単だが、叶えるのは中々に難しい。叶えるのが簡単ならば、人は努力を覚えない。
「俺たちには野球があるっ」
仲の良い二人を見ていたのは俺だけではなく、いがぐり頭の野球部員も居たようで、涙を滲ませながら数人が走り去っていく。
俺もじっと見ているわけにも行かないので、エンキリの活動なり、部活をどうするのか考えなくてはならない。
「といっても、どうしたものかね」
部活の数は非常に多く、何せ二名から作成可能(事務書類の手続きは五名か六名から)なのだ。全て同好会という名前になるものの、旧校舎の教室が予約制で使用することが出来る。
敷居は非常に低いが、同好会だと部費などは全て自腹、問題を起こせばすぐに潰される運命だったりする。
「編入生、お困りのようだな」
人間、困っているときに助けがやってくる。他の人はいざ知らず、俺の場合は結構多い。恐らく、日ごろの行いが中途半端によいからだろう。助けに来ても妙な奴しか来てくれない。
頭に剣道で使用される面、上はサッカー部のユニフォームに下は海パン、腰に黒帯、足にプロテクターをつけていた。背中には登山で使用しそうなバックパックがくっついている。身長は百八十程度、横幅も広い。体躯の宜しい男子生徒だ。
無視したかったものの、さすがに可哀相かな。
「……あんたは?」
「全ての部活を司る、部活マスターだ」
頭からつま先まで見やる。おしゃれは足元から……かどうかは知らない。文化部の要素なんてどこにあるのだろう。
「おっと、こうみえて歌も歌えるし、演劇は得意だぞ」
「絵画のほうも?」
「……時代がまだ俺についてきていない」
マスターじゃないじゃん。
「ちなみに部活マスターの所属部活は?」
「帰宅部幽霊部員だ」
家に帰るのを放棄していると取っていいのだろうか。
どんな顔をしているのだろう。マスクマン気取っているのなら中々顔を見せてくれないかもしれない。もう、それこそ卒業式までこのままイロモノで押し通す恐れがある。
「……結構、息が苦しいんで、そろそろ面とっていい?」
「好きにしてくれ」
意外と根性がない。最近の若者はこれだからなっとらん。
「色々と助かった」
よっこいせと面を取ると人のよさそうないがぐりが現れた。柔道か空手か、腰に帯をつけていそうな部活をやっていそうな感じだ。ああ、新体操も腰に布みたいなの巻いてたっけ?
こいつの姿でレオタード……。
「……おえ、にあわねぇな」
「ん、いきなりどうした」
「嫌、なんでもない」
勝手に妄想して自爆しているのだから世話は要らんな。
「お前さん、編入生だろ? 見たことがない」
「ああ」
「それに他人を格付けするような目をしていた」
目がぎょろりと動く。中々の迫力だ。威圧感も半端ないな。
「俺は格付けや形式ばった事が嫌いなんだ」
「誤解だな。俺はちょっと他人を観察していただけだよ」
「観察?」
「観察っていうのもおかしいか。人の縁を見ていたんだ。俺、エンキリの一族なんだよ。知らない?」
「……エンキリ? 知らないな」
知らないらしい。マイナーだし、仕方のないことかもしれない。
「簡単に説明すると人と人との縁を切るお仕事だ」
「占い師みたいなものか?」
「そんなもんだ」
占い師から怒られそうではある。
「それで、部活マスターさんは俺の部活ライフを助けてくれると?」
「ああ、そうだ。ちなみに俺は鬼瓦紅蓮だ」
ごつい体に似合うごつい名前だ。
「俺は縁切乙だ」
「んじゃ、お前さんのこと親しみを込めておっさ……」
すごんで見せると冗談だと手で制された。
「乙だな。うん、これがしっくり来る」
「じゃあ俺も紅蓮と呼ぼう」
今日から僕達は友達だと互いに握手をする。
「ふぐおおっ」
「ぬおおっ」
男は馬鹿なもので、片方が握力を込めるとそれに返す生き物だ。
ひとしきり馬鹿をやった後、別の場所へと移動する。
「文化部系がいいのか?」
「いや、別に何でもいい」
「何でもいいってお前さんなぁ」
あきれた感じの声に首をすくめて見せるしかない。
「冗談だよ。あまり顔出さなくても怒られない、超ゆるゆるの部活がいい」
「ないな」
まぁ、聞いた話によると結構厳しい感じの部活が多いらしいし、第二の部活もそれらから離反しただけでやる気は多いのだろう。
「一応聞いておくけどさ、ボランティア部ってあるか」
「んー、ないな。そんなお人よしは青春と無関係だ」
紅蓮はそういって首を振った。ありそうな感じなのに無いらしいけど、ボランティアって結構青春だと思うんだよね。ちっぽけな私が、世界のために誰かのために何かが出来る……素晴らしいスローガンじゃないか。
「紅蓮、どうだ、俺と一緒にボランティア部で血と汗を流してみないか」
「何故血を流すんだ」
「献血にも行かないと行けないからな。既に六回、献血済みだ。マックスだよ」
「回数制限とか分からないから話を振るのやめてくれ」
投げる会話の内容なんて適当でいいのだ。初対面ならなおさら。取り繕って無理に友達になろうものならいつか齟齬が発生してお別れてしまう。
「紅蓮は本当に部活、入ってないのか」
「言ったろ、帰宅部幽霊部員。ボランティア好きな乙に悪いが……ちょっと俺の後についてきてくれ」
「構わんよ」
旧校舎の一室へと案内され、俺は首を傾げる。
「ここ、帰宅部の部室?」
「いや違う。帰宅部の部室なんてあるわけ無いだろ」
下駄箱辺りが部室として適切だろうな。ああ、いや待て。スニーカー愛好会やらスポーツシューズ同好会があったらかち合ってしまうなぁ。やっぱり、自室? それだと自宅警備員派遣部の部室になりそうだ。部活は家に帰ってからパソコン画面で行われるだろう。
「ここはね調査部の部室よ」
教卓の裏側から一人の女子生徒が現れた。
「調査部? ボランティア系の部活じゃないのかよ」
希望をしたのに全く違う場所につれてこられた。
「紅蓮、俺をはめたのか」
シリアス顔で紅蓮を睨む。俺の眼力をものともせず、
「何のノリかはわからないが……そうだな、はめたのは認めよう」
窓に背中を押し当てて、口元を歪める。中々の悪さだ。
「当てた俺に何かプレゼントは?」
「自宅にB.○.Wを一体送っとくよ」
バイオでハザードな事にならないといいな。
「で、あんたが部長さんか」
「あんたじゃない。あたしの名前、知ってるよね」
満面の笑みを向けられた。
「知らんよ。俺、編入生だもん」
ご期待に添えなくて悪いとは思う。何せ、学園長の名前もまだ覚えていないからな。そもそも、学園長だったり校長の名前を今思い出せる人間って居るのかよ。
「乙、そいつお前さんの席の隣の奴だぞ」
紅蓮に言われても記憶は無い。
「……証拠は、証拠はあるのか」
「ほらこれ」
俺の隣の席に居たらしい女子生徒から座席票をもらう。
「なるほど、あんたの名前は倉井佑太か。あれ、男の子?」
もしくは、男の娘? そうだったら入部しない。
「違う、左隣っ」
そっちには花見月早百合と書かれていた。
「なるほど、花見月早百合さんね」
「早百合でいいわ」
「まぁ、早百合ってばラフなのね。今日からわたしたち、マブダチね」
「おっちゃんって言っていい?」
「そればっかりは駄目だ」
俺はまだおっちゃんという年齢に達していないため、その呼び方は不適切である。
「一人二回までだ。三回目おっちゃんなんて抜かした奴は俺が縁を断ち切ってやる。俺はエンキリの一族だって言ったよな?」
俺の言葉に紅蓮がにやっと笑った。どうやら信じていないらしい。
「本当だぞ? 絶対だぞ? 紅蓮、あんたの縁にラヴラヴハァレムルートがあるんだからな」
「おっちゃんおっちゃんおっちゃん」
ポマードポマードポマードみたいに叫びやがって。
俺は小太刀を取り出すと紅蓮のハーレムルート(マッチョに囲まれうっほうほルート)への縁を断ち切ってやった。
「悪いのはあんただ。恨むなよ」
「んー、縁って言われてもな」
見えない人にはぴんとこないのだろう。まぁ、大抵の人間がそんなもんだ。エンキリの仕事しても中には信じず報酬を払わない奴らもいる。そういう時はエンキリの能力を使用し、それだけの縁を断ち切られるのだ。告発しようにも立証なんて不可能だから罪にもならない。
「エンキリ、かぁ。うちのおじいちゃんから聞いたことあるなぁ」
「早百合は信じてくれるか」
「ん、まぁね。でも、ちょっとお願いしたいことがあってそれをやってくれたら信じてあげる」
なんだかんだといって、人は疑り深い生き物なんだな。別に信頼なんて要らないが、馬鹿にされたみたいでちょっとだけむかついた。
頭に来て何かをするなんて、青春っぽいな。俺は、早百合の依頼を受けることにしたのだ。




