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エンキリZ  作者: 雨月
19/44

T1:千春、告白される

「先ほど入ったニュースです。車両事故が発生しました。豚を乗せたトラックが転倒。時速五十キロを超えるスピードで豚が空中を舞い、田んぼに突っ込んだとのことです。なお、奇跡的に乗っていた豚も含めて死傷者はゼロとの事で……」

「……今日は豚肉が食いたいなぁ」




――――――




 人間なら腹が減ることは良くある。一般的な生活をしているのなら当然だ。

 夏休みが二日後に迫る猛暑まっしぐらでもそれは変わらない。暑い夏を乗り切るにはやはり、食欲だ。

「昼飯食いに行こうぜ、乙」

「ああ」

「あ、じゃあ私も行く」

 俺と紅蓮が連れ立って飯に行くことなんて日常茶飯事で、そこにはたまに早百合も加わる。

 俺がこっちに編入してきて既に数ヶ月が経っていた。数ヶ月もすれば、学園の一人として存在し、他の生徒と同じように期末テストに苦慮するわけだな。まぁ、安心して欲しい。期末テストに向けての勉強は進みつつあるから。

 テストの話をしながら食券機の前に並んでいると、紅蓮一人だけがそのまま食器返却口へと向かっている。

「何だあれ」

「あれは学園裏メニューの窓口よ」

「裏メニュー?」

 初めて聞く言葉だった。あまり外食しないから一般的なお店でも裏メニューを頼んだことはないな。

「全長一メートルのハンバーガーだったり、五人前のパフェだったり、○○○や○○○○なんかを使ったゲテモノ料理……可能な限りの要望を学食側が受けるの」

「ふーん」

 この学園を完全に把握したわけではない俺は、適当に選んでしまおう。今日はおにぎりセットでいいや。

「裏メニューがある割には食券機のラインナップ少なくない? 俺の中ではメニューが充実していて、それから零れた奴やメニューの対称になりそうでなれないものが裏メニューにある気がするんだよね」

「それはそれ、これはこれだから。需要が少ないものだからあえてあるんだよ」

 早百合の言うことも最もだとは思う……思うけども、だ。

「でも、普通のメニューにも豪華越前ガニ食べ放題があるけど?」

 学食で蟹食べ放題ってどうよ。

「それに、これ、四千円で常時売り切れ状態じゃないか」

 いつになったら復活するんだよ。正月前か? そもそも、誰が買うんだ。

 それぞれ頼んだものを持って席を探す。

「この満員感、朝の通学ラッシュを思い出すぜ」

「さすがにそこまではいないだろ」

 嫌そうな紅蓮は気づいていないだろうが……あんたが体育なんかを経て、電車に乗ったらきっと嫌がられるんだろうよ。見えない壁が、形成されるに違いない。

 あいにくだが、俺はデブと筋肉とケバイ女と相乗りはしたくないんだ。熱いといえど、俺はチャリでの移動を試みるぜ。

「あ、あそこ空いてるわよ」

「本当だ」

 一人の女子生徒を中心に、ぽっかりと席が空いていた。後姿で誰かわかったため、俺たちは気兼ねなく話しかけた。

「青空先輩、お隣いいですか」

「乙? それに二人も」 

「失礼します」

「千春が学食って珍しいわね」

 許可を取り付けるよりも先に、俺が右隣に座り、紅蓮が右斜め前、早百合が真正面に座った。

 青空先輩の隣に座れるのは非常にラッキーである。いい匂いがするし、たまに怖いけれど隣にいると安心するのだ。

「鬼瓦、それ頼んだの?」

「えぇ、そりゃあ楽しみにしていましたから」

 一メートル近くあるハンバーガーを誇らしげに披露する。どうせ食べるときは普通に食べないといけないのに何でこの男はこんなものを頼んだのだろう。

「青空先輩もこれ、知ってるんですか」

「三年だからね。男子は一度ぐらい頼みたいって噂よ」

「俺はいつもの奴でいいですけど」

「乙は意外と冒険しない性格だからねぇ。へたれ乙」

 男としてどうなのかと言うような口調だ。非常に、失礼である。もしも俺が紳士でなければ今頃ジャーマンスープレックスをしていたところだった。命拾いしたな、早百合。

「早百合に俺の何が判るって言うんだ」

「そうね、嗜好から思考まで。分かって欲しいのなら頑張るから」

 しかし、俺の言葉に応えたのは青空先輩のほうだった。

「青空先輩に言ったわけじゃないっす」

「そう、残念ね」

 ええ、残念ですけど。

 こんな話をすると食いついてきそうな紅蓮は一生懸命ハンバーガーに食いついていた。それって、外さず柱みたいなハンバーガーに食いつくのが礼儀なのだろうか。

「ところで青空先輩は何を頼んだんですか」

 メニューなんて見れば分かるが、俺は先輩と話のキャッチボールがしたいのである。

「素うどん」

「そんなんじゃおっぱいしぼむわよ」

「ぶほっ、嘘、しぼむのっ」

 立派なのに。

「安心して、乙。この程度じゃしぼまないから」

「そっか、よかった」

「何安堵してるのよ。あんたの胸じゃないでしょうが」

「そりゃそうだけどね。残念じゃんか、しぼんだら。見ているだけなら逮捕されないんだぞ」

 発言したらセクハラだがね。

「本当、男って最低ね」

 全くである。でも許して欲しい。男の子だから。

「紅蓮はどうだ?」

「話しかけるな、集中力が切れる。ちっ、歩き回る生徒がうぜぇ」

 あんた、もう端っこで食ってろよ。

「もしさ」

「ん?」

「乙が好きになった人の胸が小さかったらどうするの」

「そりゃないよ」

「どうして?」

 そりゃ、好きになった青空先輩の胸って別に小さくないもん。それにしぼまないってさっき言っていたからな。

 なんて、当然いえるわけがない。愛の告白をするのなら屋上か、校舎裏か、俺の自室か、校長室か……このどれかと決めているのだ。こんないい雰囲気でもなんでもない場所で告白なんて俺は嫌だね。

「あ、そっか。あんた千春のことが好きだもんね」

「ふふん、まぁね」

 そういったら周囲の空気が固まったように思えた。そんな中でも紅蓮は一心不乱に食事を続けている。

「そうなの?」

 あれ、俺、下手こいたんじゃないの。

「あ、えーと」

 青空先輩からの視線がいたい。隣に座っているだけに、距離が非常に近いのだ。

「あ、あはは、乙、さっきのはほんのジョークよね」

 なにやらまずいといった調子で早百合が助け舟を出してくれた。落としたのは早百合なのに、助けてくれるとは……それなら最初から落とすんじゃないよ。まぁ、ここで乗ってしまえば一発でごまかせそうだから乗るけどね。

「そう、冗だ……」

 しかし、俺の言葉は青空先輩の冷たい視線に黙殺された。

「もし、お前が冗談の類でそういったのなら……○害するぞ」

 フォークを握り締め、ガチな犯行予告を頂いてしまった。ああ、最初の頃のように口調が危険なものへ変わってしまった。それだけ、スイッチ入れやすい言葉だったようだ。

「いやいやいやいや、好きっすよ。ええ、もう。前言ったとおり、容姿も好きですし、今は……内面も好きだなって。えっと、好きなところはどこですかって答えたら時折見せる凶暴な一面以外って答えます」

 パンダも凶暴だから。ついでに、アライグマも。え、何が言いたいのかわからない? 俺もよく分かってないから大丈夫だ。

 えーいっ、ままよっ。このまま勢いで告白してしまえっ。そうしなければフォークできっと○害されてしまうっ。

「青空千春さんっ。俺、千春さんのことが好きなんですっ。俺と、付き合ってください」

「いいわよ」

 え、そんなあっさり?

 俺の学食告白は、瞬く間に学園に広がってしまった。

 何故か、ハンバーガーを食べる友人がいると成功するというジンクスまでついてしまった。


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