S1:早百合、ちょっとした相談
調査部部長の花見月早百合から体育教師の依頼を受けて数日が経っていた。調査内容に関しては、もうあと一押しだ。それで、この依頼は終わりを迎える。
「昼、学食に油淋鶏食いに行こうぜ」
「ユーリンチーなんて学食にあるのか」
「頼めば出てくるだろ、頼めば」
何のための学食だと紅蓮は笑っている。しかし、俺はユーリンチーが出てくる学食を知らない。
行けば分かるといわれて、二人で学食へと向かう。学食は食券を買うスタイルのようだ。
「俺この学園の学食、初めてだわ……あれ? 紅蓮?」
紅蓮は列が出来始めていた食券機の前に向かわず直接おばちゃんのところへと向かっていた。
「おばちゃん、油淋鶏定食一つ」
「あいよ」
「嘘、本当に出るの」
決して難しそうな料理ではないと思うが、そんなものが出るのだろうか。というか、俺ってユーリンチーなるものを食べたことないんだよね。
「何でも出てくる学食?」
既にテーブルについている生徒達の昼飯を眺める。三色おにぎりセット、素うどん、きつねうどん、カツどん、カレー……そんなもんだ。
「珍しいものはあまり、置いてないよな」
俺の番になったので食券で改めてメニューを確認する。ユーリンチーはなかった。唯一つ、売り切れ以外で変なのはおばちゃんに貢ぐという券だった。
「何だこれ」
「おばちゃんが適当に作ってくれる定食だ」
価格は六百円。結構高いじゃないか。からあげ定食で三百円ちょいだから約二倍である。
「日替わりメニュー的な?」
「さぁ、そこのところはよくわからねぇ。ただ、この食券を渡し続けると何々が食べたいって言ったら出してくれるようになった」
まぁ、それでも限界はあるけどな。そういって紅蓮は席を確保するために行ってしまった。
「どう、しようかな」
背後から追い早くしてくれよと声が上がったので俺は結局、たぬきうどんを頼むことにしたのだった。
隣のユーリンチーを見ながら食べる冷めた狸うどんは微妙だ。
「ぷは、うまかった」
そしてそれをあっという間に食べ終えて伸びをすると紅蓮は立ち上がる。
「俺、呼び出されているから先に行くぜ」
「ああ、行ってらっしゃい」
ご飯はゆっくり食べる派なんだよね。あらがみは身体に悪いのだ。
「ここ、座るわね」
「ふぁい?」
うどんをすすっていると隣に女子生徒がやってきた。どこかで聞いた声だと思えば、調査部部長の早百合だった。
「早百合か。何か用?」
「ん、体育教師の件、どうなっているのかなって」
「説明しなくたって部室で色々と聞いてるだろ」
「まぁね」
そこでまた、静かになった。ちなみに早百合が持ってきたのはフルーツパフェである。食券にそんなメニュー、なかったぞ。
「意見を聞きたくて」
「意見? 俺たちの?」
「うん、意見。性別はともかく、教師と生徒がその……」
顔を赤くした。まぁ、言いづらいよな。飯食っているときとかはっきりいえない。
ここは俺が上手くぼかしてやろう。
「合体……違うな、交尾することだな?」
「違う、付き合うこと。教師と生徒が付き合うことに関して、どうかなって」
もしかしたら早百合個人のことなのかもしれない。男性教師のことが好きで、でも想いを伝えられなくて……ふむ、乙女チックである。
前いた学園もそういったことがあったんだよな。卒業したらそのまま女性教諭のヒモになったイケメンが。とうじとかいったかな、あいつの名前。
「俺は……いいと思うよ」
「……そうなの?」
「ああ、ま、倫理的にはどうかという人もいるかもしれないがね。もちろん、学園内での過度の密着や気取られるようなことはしないほうがいいだろう」
俺の言葉をどう受け取ったのか、悩んだ表情を見せた。
「家族にそういった人がいたらどう? 乙って兄妹とかいないの?」
「いないね」
ついでに言うのなら両親も、だ。
「でも、苦労はするだろうな。早百合、苦労したんだろ」
「……少しだけ」
苦虫を噛み潰したような表情でお茶を眺めている。
「姉さんが中学生の頃、まだそういったことを知らなくて……やたら私の身体をべたべた触ってくるなって思ったんだ。お風呂だって念入りに洗ってくれたし……乙、何で鼻を押さえてるの?」
「あ、ごめん。俺ってあまりに食べているものがおいしいと思わず鼻を押さえてしまうんだ」
あれ、おかしいな。変な話もしていないのに鼻血が出ちゃったぞ。ストレスから来る鼻血かしらん。
「それ、おいしそうには見えないけど」
「俺なんでもおいしく食べられる派なの」
なるほど、あの先生は妹でも全然オッケーな超アグレッシブなのか。快楽主義者ってやつ?
「高校に入った後もとっかえひっかえ女の子と何かやっているし、頭、いいからお嬢様学園に入っちゃって。後輩からお姉さまって言われてた」
充実した毎日を送っていたことだろう、昼も夜も。
「お姉ちゃんは頭が良くて、美人だから親にも期待されていた。趣味は……両親に隠していたけどね」
だろうな。さすがに自分の娘がそうなるとひと悶着ぐらいあるはずだ。悪いとは思わんがね……ノーマルには理解できないと突っぱねられることだろう。
「劣等感持ってた私はどこかでおねえちゃんの趣味を両親にばらそうと思ってた。だけど、どうやら他の事でケンカしちゃったみたいでさ、お姉ちゃんは家を出てる」
「なるほど」
教師として既に働いているし、部屋に様々な女の子が連れ込まれたのかね。うらやま……けしからん。
しかし、今は共学に勤めているのが不思議だ。女学園に行こうと思わなかったのだろうか。
「あのさ」
「ん?」
「エンキリって口は固いほうなの?」
「まぁな。硬度はダイヤモンド並だぜ」
ダイヤモンドはトンカチで叩けば砕けるがな。
「お姉ちゃんのことは言わないで欲しいの」
「分かってる。約束は守るから安心しろよ」
「疑っているみたいで、ごめんね」
「それだけお姉ちゃんのことが大切なんだろ。羨ましいよ」
「そ、そんなんじゃないから。私は、そんな姉がいるって知られたら困るから……自分のためだし」
可愛いところもあるもんだ。
「ま、ともかく。縁をどこかで切るから安心しろよ」
相手の意見を無視した状態で縁を断ち切る……どうかと思われるかもしれない。しかし、お金をもらえればそれまでである。もらったほうに着くのが、エンキリスタイル。
「あ、そうそう。報酬は何がもらえるんだ?」
「え、報酬?」
「なぁなぁで依頼されたわけじゃなくて、早百合は俺にはっきりと依頼すると言ったからな。もらっておかないと、後で早百合が責められたりしたときに俺は対処できないんだよ。だが、報酬をもらっているとアフターケアも出来るから」
例えば、心無いことをいってきた連中とこの学園の縁を切る、とかな。そりゃもう、凄いことが起こるでしょうよ、ええ。
「……そ、そう。それで、依頼はいくら?」
「七万かな」
「な……ふっかけすぎでしょ」
真っ青になった。そりゃそうか。俺も高いと思うけれどこれでも安いほうなんだ。人の縁を切るというのはそれだけ重い話だ。
「人の縁を切るって言うのはそれだけ大変なこと」
「そ、そう。でもちょっと難しいから……じゃあ、美人のあたしがデートしてあげる」
そんな君には手鏡をプレゼントだ。
「あね……」
姉と比べて顔はどうなのか。一言多い口にチャックをする。
姉も綺麗なのだが、妹も充分可愛い。
「姉より妹のほうがタイプだから嬉しいなぁ」
「そっか、よかった」
心底ほっとしたような顔を向けられ、俺は早百合のお財布事情に思いを馳せるのであった。とても、貧乏なのだろう。
今回から話がばらけます。さらに、少し前の話に戻っているため調査部の中でもまだ登場していない人物がいたりします。




