第十四話:乙、負けられない戦い
眼鏡をかけたら知的な感じになるんだろう。
暴力的になる青空先輩もぐるぐる眼鏡をかけるだけで頭良さそうに見えるもんな。
「というわけで眼鏡をかけてみた。どう? 似合うか」
「ああ、似合ってるよ」
紅蓮はどうでもよさそうに答えていた。さすがにテスト数日前となると、いつでもどこでも勉強している人が多い。歩きながら英単語を勉強している人も多いし、今回終わったぁとまだ始まっていないのに叫ぶ馬鹿も多い。
「今回のテストは捨てたんだ」
馬鹿は馬鹿でも、根性のある馬鹿もいる。このまえテストは捨てたと言っていた男子生徒も今では目の下にクマを作り、栄養ドリンクを飲みながら戦っている。
「皆必死だな」
「乙は知らないだろうから教えてやるけど、この学園は私立だ」
「知ってる」
「夏休みに行われる補習な、追試もあるんだが回数を重ねるごとに難しくなるんだよ」
「はぁ?」
徐々に簡単にしていって駄目なやつを合格させるのが追試ではないのか。
「そんで、夏休み最後の週に行われる追試をクリアーできないと」
「退学か」
たまにある。勉強が出来なければ、我が学園の生徒ではないと。
生徒側から見れば横暴だがね、学園側から見れば質を下げかねない連中だ。毎度、下から三パーセントほど切り捨てられるよりはマシだろう……そんなことしていたら誰もいなくなるわけだから。
「安心しろ、退学にはならない」
「そうか、そうだよな。そんな過激な学園があるわけないか」
「ただ、肉体改造を施される」
「マジか」
「学園も馬鹿は要らない。教えても学力が向上しなければ改造しちまえばいいと都市伝説があるんだよ」
「何だ、驚かせるなよ。そんなのデマだろ」
恐らく、改造されたらそれまでとは違う動きが出来るのだ。反応速度があがったりな。
「……エンキリだっているんだからありえるかもな」
ぼそりと、そんな事を言われた。俺は、ありえないと思う。
「そんな心配するよりも、紅蓮の勉強の進み具合はどうだい」
「俺はともかく、乙はどうなんだ。三枝との約束があるだろ」
三枝日和は毎日調査部に顔を出し、勉強を教えてもらっている。期末テストが近いのは誰しも平等だからな。向こうも必死に勉強しているからエンキリの話をしたくても出来ないのである。ついでだが、三枝は同学年の波崎さんと仲良くやれているようだ。
「というか、約束の日は今日だろ」
「だな」
「……結果は?」
「何もしていない。そんなことするぐらいなら、期末の勉強してるわい」
だって、やらないと肉体改造されるんだろ。おそろしいね、全く。まぁ、ランカーに襲われるのも悲惨だけどさ。
いや、あれですよ? 俺もエンキリの端くれ。身体能力が高ければランカーが襲ってきても迎撃しますとも、ええ。エンキリの本分がエンキリ行為なら学生の本分は勉強……そちらを優先しても別に怒られる事はないはずだ。
そんなこんなで放課後、調査部にやってきた。
「乙さん、ちゃんとエンキリとしての仕事、やったんですか。ハードル、下げに下げまくって一回のお仕事でいいって事にしていますよね」
「あんたは世話焼き女房か」
「女房って……そんな、嬉しいことを……こほん、で、どうなんです?」
あの子もちょっとおかしいところがあるよねと早百合、波崎さん、青空先輩がそんな話をしている。
「じゃあ、入ってください」
「はい?」
扉が開いて、一人の少女が入ってきた。
「こ、こんにちは。失礼します」
少しだけびくつきながらも少女は入ってきた。
「れ、歴?」
「あれ? お兄ちゃん?」
そして、紅蓮が驚きに目を見開いていたりする。
「名前はまだ教えてもらっていないが、俺が調査部に入る前……学園に編入されてすぐにエンキリとしてのお客だ」
「それは本当ですか?」
三枝が若干鋭い目つきで歴と呼ばれた少女を睨む。身内ではないかと恐れているのだろう。
「は、はいっ、縁切先輩のおかげで私は楽しい学園生活を送れていますっ」
「む、むぅ。そうですか」
何か言って来るかと思えば三枝は静かになった。
「……認めます」
「あっさりだな。もっと意地悪なこと言われるかと思った」
「わ、わたしは意地悪ではありませんから。それだけの実力があるのを、認めてはいますから……あ、でも今後乙さんのエンキリの仕事を監視する必要があるのでこの部にいることにします」
そこで異議ありとばかりに手をあげたのは波崎さんだった。
「波崎瑠璃君。発言を認めます」
部長が威厳たっぷりにそう答えた。威厳はあるが、胸はない。
「最近私の影、薄くありませんか」
「太陽は誰にでも平等です」
どうでもいい波崎の言葉は少し意味不明な早百合の言葉によって一蹴された。
「あ、歴、お前さんはもう帰っていいぞ」
そう言って紅蓮は回れ右をさせた。
「え、そ、そう? せっかく先輩に再会できたんだからもうちょっと話してみたい気がするけど」
「又今度だ、な」
「う、うん」
そういって歴ちゃんは去って行った。
「こほん、波崎ちゃんのことはともかく、暑さや日差しはどうにかならんかね」
夏だし、日差しが超強い。
「やだ、紅蓮ちゃん、紫外線の予防しなきゃ」
「そうね、乙ちゃん、FPS50で対策しなきゃ」
「何だか蜂の巣にされそうな対策ね」
「一番危険なのは復活した時よ」
「ま、とりあえず期末を乗り切ることよ」
周りの女子には今一つ伝わらなかったらしく、スルーされた。
「乙先輩」
「何かね、波崎くん」
「日焼けした女の子って好きですよね」
「何故、決め付けるような口調なのか」
好きだけども。
「それは……」
「まった、さっさと勉強しないと乙を殴るわよ」
「ほら波崎さん、青空先輩もああ言っているから勉強しようね」
あの先輩は㈲実行しちゃうから、危険だ。
「青空先輩、私は別に構いません」
「そう、そこまでの覚悟なら……私ももう、止めないわ」
殴られるのは俺ですよね。
「助けて紅蓮。最近後輩からいじめられているんだ」
「任せろ、支援行動に定評のある俺が頑張るぜ」
さすが脇役。
主人公で支援行動に定評のある奴って少ないよな。ちなみに個人的な見解として、支援担当者だとグリーンの微笑が好きだったりする。
「乙に言うことを聞かせたければ、今度の期末テストで一番になるのです」
菩薩みたいな表情で非常に物騒なことを言い放った。ここの連中が一位になってじゃあ、ジュース奢りね程度で済むとは絶対に思わない。
骨までしゃぶらせろ。これが、現実だ。
「それ、何でもいいの?」
紅蓮が頷いた。
「ええ、構いません」
「あれ、せめて俺が決めるべきでは?」
「アウトソーシングした時点で貴様の運命は我に託されたのだ」
それは菩薩ではなく羅刹だった。
「何故俺に対してそんなに冷たいんだ。答えてくれ、紅蓮っ」
「復讐だよ」
「え?」
「これは復讐だ。俺の可愛い妹に手を出していた、報いだよ。この学園で格好良くてやさしい人がいると歴に聞いたときはおにいちゃん感動していたのに……まさか乙だったとはっ」
俺は神を憎むと誰かに言っていた。
「エントリーメンバーは部長の私と、瑠璃、千春とそっちの三枝日和ね」
「ちょっとまったぁっ。この縁切乙を忘れてもらったら困ります」
俺が勝てば、全てが無に帰す。
「んじゃあ、調査部全員ってことで。ちなみに、一位は縁切乙に言うことを聞いてもらいます」
「……別に一位にならなくても、言うこと聞いてくれそうだけど。乙、肩揉んで」
「はいはいただいま」
青空先輩の肩をしっかりと揉む。女性の肩を揉むって何だかいいよね、後ろからちゃっかり胸を確認できるし。
「じゃあ、個人的なお願いってことで。エンキリだし、何かご奉仕してくれるでしょ」
「ちなみに俺が勝利の栄光を手に入れたらどうなるんだ?」
とても重要なことである。
「乙が優勝したらそうねぇ」
「袋叩きだろ」
妹を盗られた兄の嫉妬、非常に格好悪いです。
「あんたシスコンだったのか」
「はっ、当然だろ」
「妹がいるなんてちっとも匂わせなかったくせにな」
「普段は妹なんていないと言って妙な蟲がつかないようにしてるんだよ」
「なるほど」
俺も可愛い妹が出来たらそうしてみようかな。かなり可能性は薄いが。優勝したら、妹を願ってみよう……青空先輩辺りに。




