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エンキリZ  作者: 雨月
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第十三話:乙、ハードルを設けられる

 学園に来てまずすること。

「眠い目をこすりながら、下駄箱を開けること」

 皆さんは知っているだろうか。一ヶ月も使用していれば個々の性格が下駄箱に付与されるのである。カッターの刃が入っているもの、生卵が(割られた状態で)靴の中に入っていることなど。こんなことがない人でも、芳醇な香りが鼻をつく事もある。

 開けたら薄いブルーの封筒が入っていた。それには俺の名前が書いてあった。

 何これラブレター?

「……そういえばラブレターが入っていたこともあったなぁ」

 確か波崎が間違えて仕込んだって言っていたかな。

 前科がある以上、俺は下駄箱の中に入っているものを信用しちゃいないんだ。もちろん、自分の靴に対しても同じでもしかしたら他人の靴かもしれないと思いつつ履いている。

 そういえば一度、上履きを盗まれたことがあったっけ。盗られたわけじゃなく、新品の上履きが代わりに入っていたから……どういうことだったんだろう。

「ま、とりあえず開けてみるべ」

 びりびり封筒を破いて中身を確認。便箋が一枚入っていた。重さ的に考えて一枚ぐらいだろう……かみそりが入ってなくてよかったぜ。もしくは、原稿用紙十枚分のラブレターとかもらってみたいものだ。

「えーと、何々? 乙さんのことが好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きで……」

 ああ、これ、中学生の頃あったなぁ。俺がもらったわけではない。そのときはクラスメートだったかな。

 手紙をもらった男子生徒が精神的に病んじゃったんだよね。何でも、家のほうにも入っていて、極めつけは自宅の机の中から出てきたらしいから。

 犯人の少女はやりすぎた、反省はしている。けれども、この好きという気持ちは抑えられないって言ってたなぁ。愛の被害者側が引越をした後、加害者側も特定されたから引っ越したんだっけ。一部じゃ、追いかけたって噂もあったけどさすがにそれは無いだろう。

「ま、言葉じゃ何とでもいえるからな」

 例え愛が重たい相手だろうと俺はエンキリである。そいつとの縁を断ち切ってしまえば一切問題なんて起きない。再度、縁の糸をつむがれたとしてもまた切ってしまえば大丈夫だ。

「顔が可愛ければ少し付き合って、あまりにもうざかったらぽいしてやるぜ……なんていえたらどれだけ楽か」

 理想と現実である。まぁ、あれだ。呼び出しの類ではないし、一方的に思いを告げられているだけ。相手の名前も何も書いていない。悪戯だと割り切って、ほうっておこう。

 エンキリが本気を出せば誰が書いたか一発でわかる。手紙から見える糸を手繰ればいいのだ。残念ながら俺はまだそこまで腕が到達していないので見えません。

「冷静に考えたらいたずらだな。紅蓮辺りがやったんだろう」

 紅蓮の奴、期末テストの勉強が忙しいといっていたわりには丸っこい文字の練習もしていたんだな。やはり、侮れない奴だ。

 そして放課後、部室に集まった俺たち六人は一切ふざけることなくテストへ向けて勉強を続けていた。分からないところは互いに教えあい、ノンストップで普段の俺たちから想像も出来ない集中力だった。

「お前さんもやれば出来るじゃないか」

 紅蓮に肩を叩かれ、おだてられる。

「まぁな。でも、紅蓮や小百合、青空先輩に教えてもらわないと駄目だったな」

 友達っていいな。青空先輩も(普段は)恐ろしくもなんとも無いし、早百合も教えるのが上手い。紅蓮も俺の問題点を挙げてくれる。

「波崎さんも真面目だし、もう一人の……あれ?」

 何気なく混じっている昨日の女の子がいた。

「誰?」

「やっと聞いてくれましたね」

 恨めしそうな表情で俺を見る。

「わたしの名前は……」

「三枝日和。一年に転入してきた女の子よ」

 凛とした声が調査部部室に響き渡る。

「へぇ、さすが青空先輩」

「新聞部元部長だけに情報が早いですね」

「まぁね。知りたいことがあれば私に聞きなさい。この学園の七不思議から気になるあの子の思い出まで探ってあげるわ」

「よっ、青空日本一」

 紅蓮が無駄に持ち上げる。だったら乗るしかないだろうな。

「あーおぞらっ、あーおぞらっ!」

「凄いですっ、千春先輩っ」

「ふふん、この程度楽勝よ」

 意外と乗せられやすい性格をしているのだろうか。

「あーはいはい、一旦静かに。それで、その三枝日和さんは何のために調査部へ?」

 手を軽く叩いて早百合が調査部を静かにさせた。さすが部長である。

「監視よ、監視」

「監視?」

「そう、乙さんがエンキリとしてきちんと仕事をしているか監視をするのがわたしの役割なの」

 どこか誇らしげに胸を張った。張れる胸もないのに、よくやるぜ。しかも、上級生相手にタメ口とか……。

「青空、ここ教えてくれよ……ぎゃあああっ」

「何やってるんですか乙先輩」

「先輩後輩チェンジプレイをだな、ぐふぅ」

「うそつき」

 妙な俺のごまかしなんて、青空先輩には通用しないらしい。

「お前さんもエンキリなのかい?」

「ええ、一応ね」

 紅蓮の問いかけに首を縦に動かす。

 ふむ、紅蓮も別に気にしていないようだが……まぁ、俺の関係者っぽいししっかりさせねば。エンキリ全員が敬語も使えない糞○だと思われかねない。俺の関係者ならなおさらだ。おまえんとこの○共は敬語も使えないんか、あぁ? とか言われたら泣いちゃうぞ。

「三枝だっけ? 仮にも相手は上級生なんだから敬語を使いなさい」

 反発されるかな。

「わかりました」

「意外と素直」

「ま、まぁ、乙さんからの頼みですし?」

 結構信頼されているんだな、俺って。

 しかし、思い出せないぞ。

「あなたの苗字はエンキリじゃないのね」

「わたしの場合は分家ですからね」

 おい、俺を向いてどうです、わたしも敬語を使おうと思えば使えるんですよってドヤ顔やめろ。

「基本、本家筋の人間やその関係者がエンキリを名乗るんです。乙さんも元は摩周でしたが、後に母方の姓、縁切を名乗るようになりました。小学生最後の夏休み、乙さんはエンキリになるべくして本家筋の縁切夕霧さんの……」

 べらべらと俺の過去を喋りだす三枝日和。俺の知らないような過去も知っていそうだ。

「な、俺がいつか言っただろ。自分より自分のことを知っている人間がいるって」

「……初耳だな」

「覚悟してください、摩周乙さん。あのときの私だと思ったら大間違いですから」

 びしっと人差し指を俺に突きつけた三枝日和。だからといって、俺の脳内を刺激してくれるわけも無い。

「……三枝さん、だったかな? 実は俺ね、エンキリの修行を始めてすぐ、十三歳ぐらいかな。そのときに頭を打って記憶を失ってしまっているんだ」

 シリアスな表情を作るにはお尻に力を入れつつ、丹田の力を抜くといいと誰かが言っていた気がする。

「え? そ、そうなの? おかしいですね、私の情報ではそんなのありません……不幸はあったと聞いていますが、記憶喪失は……おかしいな、ちゃんと乙さんの関係者全員に当たって調べたはずなんだけど。乙ノートにも書いてないし」

 そして効果覿面である。凄く動揺していた。何だよ、乙ノートって。

「いや、記憶喪失は嘘だけどさ」

「嘘なのかよっ」

「信じて損したぁ」

「シリアスな顔見たから騙されたぁ」

 俺の表情は調査部面々も騙せていたらしい。自分で言っておいてなんだけれど、そんなに悲壮感丸出しだったろうか。

「はい、先生っ」

 何故かいきなり紅蓮が手をあげた。視線の先には三枝日和がいたりする。

「……何?」

「縁切乙君はエンキリ行為に対してあまり熱心に取り組んでいませんっ」

「そうなんですか?」

 俺に疑惑の視線を向けてきたちんちくりん。調査部の中にししんちゅうのむし……ではなく、獅子身中の虫がいたようだ。

「紅蓮、あんた酷いやつだなぁ。今度駅前にあるステーキのおいしい店、奢ってやる約束破るぞ」

「先生、乙君はエンキリにおいて非常に優秀な人物です」

 他人と仲良くなるにはやはり金である。友情? 何それおいしいの? お金の旨さを知ってしまうと友情なんて札束の厚みに負けるときがあるんだぜ。

「他の方はどうですか? 乙さんはちゃんとやっていますか」

「良くやってるわよ」

 早百合は間髪いれずに首を縦に動かしてくれた。さすが、部長だ。

「乙、今度ののの屋で何か奢ってね」

 綺麗なサムズアップ。

 ちなみにののの屋とは甘いものを売っているところだ。それ以上は知らん。何せ、行った事がないからな。

「何故、俺が奢らないといけないのか」

「乙は最悪ね。学園生活も真面目にやらないし、平均点は下げる。部活動もきちんと取り組まない」

「……わかった、奢るよ」

「ののの屋のDXパフェね。あ、DeluxeじゃなくてDouble Xだからね」

「じゃあXXでいいじゃんよ」

「ばかね、XXとDXの間には絶対に覆せないものがあるのよ」

 違いがわからんよ。

「……そっちは?」

 今度は波崎さんに視線を向ける。早百合の言葉は参考に出来ないと踏んだようだ。

「え、乙先輩ですか? 凄く頼りになりますよ……」

 そういって俺を見てきた。俺と波崎は目で通じ合える。そう、何が言いたいのかもわかっているつもりだ。

「……波崎さんは何が食べたい?」

「あ、私は駅前にできたスイーツ屋の杏仁豆腐で」

「……そっちのぐるぐるさんは何かありますか」

 最後に青空先輩に話を投げる。青空先輩に対してぐるぐる先輩なんてよくもまぁ、いえるもんだ。

「そうね、やっているかやっていないかで答えると……きちんとやっているわね。ああ、私の場合、他の二人と比べてかなり正直に答えたわ。昨日の今日といえど、しっかり勉強に取り組んでいるもの。乙、私はワンフロアもらっていくわね」

「俺の住居は今回進呈されませんよ」

 しかも、エンキリ関係ないし。というか、まだ狙っていたのか。

「えぇと、つまり乙さんはしっかりエンキリの仕事をやっていると?」

 三枝日和は信じるらしい、この嘘っぱちどもの言うことを。それでいいのかと問いたい。

「そうだな。何せ早百合以外はエンキリの能力を使って調査部に入部させているから」

 紅蓮はそういって活動日誌を眺めている。いつの間にそんなものを準備していたのだろうか。部外者の癖にまめである。

「言われてみれば……」

「エンキリ? 何それ」

 あれ、青空先輩にはちゃんと説明してなかったっけ。説明はまた今度でいいか。

 青空先輩のことは置いておくとして、確かに多少はエンキリの能力を使用した。

「私のときもエンキリとして依頼をこなしてくれたわ」

 早百合も手をあげてそんな事を言ってくれる。

「……今思えば全員、乙さんの身内です。身内の発言は、信用できません」

「ばぶぅ、乙兄ちゃんあそんでぇ」

 三枝の言葉に感化され、くそでかい赤ん坊が寄ってきた。

「波崎ちゃん、俺は赤ちゃんで行こうと思う。君は?」

 赤ん坊で通すのなら喋るなよ。

「あ、えーと、じゃあ私は乙先輩のお姉ちゃん役で……こほん、乙、避妊はちゃんとしないといけないっていつも言ってたでしょ」

「部長の私は乙のエロい血の繋がっていない姉で行くわ」

 何、その立ち位置。

「……」

 こ、ここまできたら青空先輩もちゃんとのってくれるよな。青空先輩は、一体どんな役を……これまで、紅蓮の母親役がいないってことは。

「安心して、乙。私もちゃんと役はやってあげるから」

「さすが青空先輩」

「じゃあ、お兄ちゃん役で」

「何故じゃあっ」

 そこは年上のお姉さん役でいいじゃんよ。早百合? あいつはヒロインじゃないだろ。

「まぁ、まて、憤るな兄弟」

「あんた今、俺の息子だろ」

「いや、可愛い娘役だ」

 どうしてこう、うちの部員はクロスチェンジ的なことが好きなのか。

「この可愛い娘役の母親役……まだ一人、余っている奴がいるだろ?」

 にやっとわらう我が娘。

「あ、えーと」

 数度、目を泳がせた後、三枝が手をあげた。

「あの、可愛い嫁役……で」

「つまり、自分は身内だと? さっき身内の言うことは信用できないって言ったよな」

 強引にそこへ戻すのか。ああ、せっかく名乗りを上げてくれた部員達もなんだ、そういうことかと現実に引き戻されてる。

「み、身内は身内ですっ。仲間を助けるのは当然の行為でしょう? あなたたちが乙さんを助けるのは友達として、当然の行為です。だから、わたしは信用しません」

「なるほど、通りね」

 似たようなことを体験したことがあるのか、青空先輩が頷いている。

 あの、友達だからとか抜かしてますけど、散々俺にたかろうとしていた友達はどこのどいつらでしょうか。

「んじゃ、納得してくれるには?」

「三日で結果を示してください……もちろん、身内以外ですよ」

 無茶言うねぇ、もうすぐ期末なのに。いがぐりはため息をついていた。

「で、乙、どうするんだ。こいつの言うことを大人しく聞くのか」

「よく言うぜ、勝手に話をすすめやがって」

「聞かなくても結構ですけど、その場合はランカーを要請します」

「……なるほど」

「ランカーって何ですか?」

 小首をかしげた波崎ちゃんが可愛かったから説明しようじゃないか。

「エンキリの実力で上から十番目までかな。能力以前に、肉体的な能力も高いからね。目を付けられると不思議なこともあるもので、一週間以内に行方不明さ」

 嘘か真か、他人との縁を断ち切られるらしい。そうなると、透明人間も同然……他人に認識されなくなるのだ。

「基本、ランカーは本家筋じゃないと入り込めないからね。しかも、今現在のランカーは全て本家の宗主とその家族で占められているといっていい」

「戦闘能力としては?」

「青空先輩四人分に匹敵するとか」

 いくら青空先輩が強かろうと、本家筋は生きている次元が違う。まぁ、縛りも大量にありいまだに許嫁制度が残っていたりするからな。基本、不細工と今生を共にする事になる。ほかにもいろいろと縛られているらしい。

「ま、三枝の言うことを聞くしかないってことだよ」

「そういうことです。乙さん、ちゃんと分かってくれていますね」

 他人のことなのにものすごく嬉しそうな顔をしている。

 まぁ、三枝日和には悪いが……期末テストを優先します。


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