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エンキリZ  作者: 雨月
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第十一話:乙、失敗する

 調査部、現在四名。花見月早百合、縁切乙、波崎瑠璃、そしてこの前入った青空千春だ。そういえば水泳が始まったから戦力を比較してきた。火力的に言うと青空先輩、あと越えられない壁、早百合、波崎だった。胸囲で優越決めるのなら紅蓮がまさかの一位かもしれない。

「あれ、何気に女子率高いな」

「おいおい乙、俺は男だぜ? お前さんと同じであれがついてるからな。標準装備だ」

 昼飯、部室で食うのもあれなので(部の女子が居ついている)、教室で食べていた。馬鹿話をするなら部室よりも教室だ。同じ部の連中から乙君きもいと言われたくないからな。

「紅蓮が男って事は知ってるよ」

 訝しげな紅蓮の視線にいらっとくるのはいつものことだ。そもそもあんた、調査部じゃないぞ。

「本当に分かっているのか、俺がテストしてやるよ」

「ああ、金的を蹴って欲しいんだな? 任せろよ、女にしてやる」

「おい、やめろ……こほん、普通の問題だ。乙にはあるが、早百合にはない」

「ふむ」

「息子にあるが、娘にはない」

「ほぅ」

「鬼瓦にはあって、波崎にはない。さて何がない?」

「おちんち……今のなし」

 しばらく考えてみよう。安易な答えは間違いの元である。

「……ああ、わかった。早百合と波崎さんと娘に無いのは母音だ。母音のオーだ」

「乙、この場に波崎ちゃんと早百合が居なくて良かったな」

「全くだ」

 紅蓮とのクイズ勝負に勝ったが昼休みからボインと叫んだ俺には冷たい視線が向けられている。いつだって勝利には何かを失うのが常である。

「紅蓮、俺もある問題を思いついたんだ」

「あぁ? どうせつまらん問題だろ」

「まぁそういうなっての。問題でもなんでもないけど、青空先輩のいいところを順番に言っていこうぜ。じゃあ、まず俺から。顔が可愛い」

 よし、俺の勝ちだな。紅蓮の奴もう手も足も出ないで苦しんでるに違いないね。

「おっぱ……胸部が大きい」

「え、嘘。いいところ出ちゃうのかよ」

「お前さん相変わらず酷いな。あ、負けたら素直に青空先輩に謝りに行けよ」

「……わかったよ。腕っ節が強い」

「頭がいい」

「……」

「乙、あと三秒だぜ」

 おいおい、仮にも俺はあの人の友達だろ? いいところが全然浮かばないだなんて失礼以前に自分が相手のことを見ていないみたいじゃないか。

 まずは落ち着けよ、縁切乙。こんなところで終わるタマじゃないだろっ。

「……おーい、乙」

「何だよ。今一生懸命いいところ、考えてるんだ。邪魔しないでくれ」

「時間過ぎたぞ。あと、後ろに青空先輩居るぞ」

「またまたぁ、そんなベタこと言いやがって。言っておくがな、紅蓮。俺はそんなことでびびらんよ」

 後ろを振り返った。居た。

 幽霊かもしれないのでほっぺたを触ってみた。ふむ、深夜までの勉強が祟っているのか、お肌が若干荒れている。お肌って年齢の積み重ねだからな。やっぱり、この時期から手入れしておかないと二十後半からの落ち込みが半端ない。

 若い頃はいいけど、そのうち後悔することになる。いや、後悔どころじゃないな。何故、荒れてしまったのか分からずに人生を終えてしまうかもしれない。

「青空先輩、いきなり来るなんて驚きますよ!」

「私のほうが驚いてるよ。いきなりほっぺ触ってくるなんてどういうつもり?」

「青空先輩がほっぺって発言するなんて、やん、可愛……うがっ」

 拳っておなかにめり込むためにあるんじゃないと思う。そう、他人の手当てのためにあると思うんだよね。

 見て、先輩。クラスメート達が俺たちのこと見てるよ。全員が共学しているけれども、あれはきっと俺と先輩が仲良いから驚いていると思うんだ。

「……私を怒らせた罰だ。今日の放課後、一人で部室の掃除決定」

 そして彼女はあくどい表情になった。スイッチが入ったらしい。沸点が低い。

 我々、調査部の部室は旧校舎の空き教室を使用している。つまり、広い。掃除する箇所も当然多い。

「お、俺一人であそこを掃除っすか……」

 血も涙も無い冷徹美人め。生まれ変わったら絶対に悪口言ってやる。ふはは、悪口を言われても青空千春は俺を叩けに来られないぞ。完全な勝ち逃げ。小さい仕返しながら俺の心はすっきりする。

「嫌なら免除してやってもいい」

「ぜ、是非お願いしやすっ」

「じゃあお前はサンドバックだな。紅蓮が部室の掃除、一人でな」

「青空先輩、俺に掃除を、もう一度だけチャンスを……どうか、どうかこの通りです」

 まるでヒーローを倒すのに失敗した悪の怪人みたいだ。呆れ顔の紅蓮に言われても気にしないぜ。プライド? そんなのは捨てるためにあるのさ。DTと一緒で持っていても価値はない。

「よし、掃除をやれ」

「ラジャーっす」

「よかったな乙」

「ぐへへ、鬼瓦紅蓮、余裕こいているが……これであんたは破滅だな。サンドバックでパーセント溜めからのキロメートルだ」

 新たな趣味に目覚めるかもしれない。昨日までの紅蓮はもういなくなるのである。青空先輩との触れ合いなら俺ももろ手を上げるが……さすがに肉体言語を交わしたくはない。それから始まる恋もあるだろう……絶対にアブノーマルだから遠慮したい。

「紅蓮は部室の近くにトイレあったろ? そこのトイレ掃除やれ」

「わかりました」

「……あれ?」

 対応、違いませんか。

 直談判なんて出来るわけもない。放課後、部室に行くまでに他部員からも別の場所を掃除すると連絡をもらった。

「遅いわよ、乙」

「すみません」

 一人で、といったのは冗談だったのだろう。先輩は率先して体操服姿で床を掃いている。

「……」

 裏だと青空先輩に対してあまりいい噂は聞かない。根幹となる事実は確かにあったのだろうが、今では尾ひれ胸鰭完全武装状態だ。そんな噂を聞いたところで、彼女のことを知ることは出来ない。

「ふぅ」

 噂はいつか聞いて周ろう。今は、目の前のことに集中が必要だ。暑いからじっとりと汗ばんだ感じや、自己主張の激しいあれを拝めるのは役得だからな。

「……ふむ、サンドバックを選ばなくてよかった」

「馬鹿言ってないでさっさと手を動かしなさい。じゃないと私が手を動かすわよ」

「あ、先輩が全部やってくれるんですね。後よろしくお願い……」

 青空先輩が無言で何かを殴る真似をする。蹴りは重点的に股間を狙っているようだ。

「ちょっとしたお茶目です」

「お茶目もいいけど、ちゃんとやりなさい」

「はい」

 それからきゃっきゃうふふな展開も無く、俺と先輩は真面目に責務を全うした。何、この程度今の俺(お真面目乙君)にとってはちょろい仕事である。

 そのまま解散という流れを調査部全員にケータイで伝え、俺と先輩も帰る準備を始める。

「乙、着替えるから廊下に出ていて」

「わかりました」

「え?」

「え? 何か変なこと言いました?」

 絶対に聞き返される場面じゃなかったはずだ。

「何か変なことを言うと思ったから……着替えを見たいとかなんとか」

 それは余りにも馬鹿である。見せてくれなんて言わないさ、勝手に見るから。

「え、そんなこと言うなんて見ていいんですか?」

「あなたが見たいならね」

 罠だ。

 間違いなく、罠だ。これで俺がはまったところを言葉じゃ言い表せないコンボ攻撃(Hit数カンスト)の後、始末する口実だ。

 しかして、それは男として惜しくないか? 下着姿の青空先輩なんてこれから拝むチャンスなんて絶対に訪れないぞ? でも、俺ってば身体が強いほうじゃないからな。

「……今回は大人しく待っています」

「そう? 残念ね」

 俺は大人しく廊下で待つことにした。へたれではない、英断だ。覗きは犯罪だからな、うん。

「……きっと今覗いたら扉の隙間からマイナスドライバーがガガガッみたいな感じで出てくるに違いないね」

 反応、あまり高くないから避ける自信が無いんだよね。これが本家のエンキリならそうでもないんだろうが。

「終わったわ」

「あ、はい」

 しかしまぁ、青空先輩も数分で出てきてしまった。女性の着替えは十分程度掛かると思っていたのに実際はそんなものか。

 二人で旧校舎内を歩く。熱いけれど、何だか青春だと思えた。

「くんくん」

「どうかしました?」

「乙、ねぇ、くさくない?」

 軽く、ショックを受けてしまった。青春だと思っていたのは俺だけで、先輩は俺の汗の臭いに耐えていたというのかっ。

「あ、すみません。俺のほうは制服のままで掃除してそのままですから汗臭いかもしれません。えと、あの、マジすみません。ゴミ箱に入ってます」

 よいにほいのするスプレー、今日は持ってきてないからな。

「乙じゃなくて、私よ、私。ちょっと嗅いでみて」

 身体を近づけてきたので、俺も顔を近づけて匂いをかいでみる。

「……くさくは無いです。普通に、いい匂いですよ」

「そう、ならよかった」

 満足そうに笑う青空先輩の表情を純粋に可愛いと思ってしまった。普段も可愛いと思っているんだけどね、あれだ。暴力的なイメージがあるからだな。

 こんな、表情も出来るんだなぁって。あれだからな。不良が雨にぬれた子犬をかばっているだけのやさしさというか何と言うかっ。素直に可愛いと認められないのはなんでなんだっ。

「今日は真面目に出来たわね。感心するわ」

「は、はぁ、それはどうも」

 何だか、青空先輩が普通の良い先輩に見えてしまう。それに何だか普通すぎて居心地が悪いぞ。いつもは馬鹿ばっかりやってるからな。

「あのっ、青空先輩」

「何?」

「スリーサイズと今日の下着の色、教えてくださいっ」

「乙……」

 凄く残念そうな顔を向けられた。そうそう、これである。このあとぼこられていつものなんでもない空気に……。

「私がそっちの空気に慣れるのも必要だけれど、乙もたまには違う空気を知っておくべきよ」

「え?」

「乙が馬鹿なことをやるのを見ているのは嫌いじゃないけど、私と二人の時ぐらいは大人しくなさい」

 そういって額を突かれた。

「返事は?」

「わ、わかりました」

 それから俺は青空先輩と帰宅した。何か特別なことが起こることも無く、ぽつりぽつりと会話する程度で、途中、沈黙が挟まることもあった。それでも、悪くない沈黙だった。

「じゃ、またね」

「あ、はい」

 こうして何事も無く、その日は終わってしまうのだった。

「何事もなく、ってわけじゃないな」

 青空先輩って……変わってるよな。今日は貴重な一面を見ることが出来たと思おう。


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