第十話:乙、ふざける
仕切りなおしって大切だよね。うん、ほら、あれだ。過去に戻って色々と正したいと願う人が多いから、創作物でも仕切りなおし系が受けるんだと思う。タイムマシンで過去を変える、そんな奴ね。
今回調査部に投げられた妙な依頼、落ち着ける場所を探して欲しい……あのお話、無かったことにします。地味で、もやしっ子で、役に立ちそうも無い私めでございますが、エンキリという一族に生まれております。
「と、いうわけで今後青空千春先輩は登場しません。羽津学園には存在していますが、俺が調査部と青空先輩の縁を切りました」
話の広がらない登場人物を合法的に消せる能力、それがエンキリという能力である。
「この夏始まる異種能力者バトルにエンキリ能力で立候補します」
「いつからそんな大会が始まるんだよ。初耳だし、集まらないだろ」
そもそもエンキリって戦闘能力じゃないだろと突っ込まれた。その通りだけどさ。
「鬼瓦先輩はどんな能力が欲しいですか」
「指ぱっちんしたらライターみたいに火が出る能力」
「地味ですね」
「いやいや波崎ちゃん、それなりに格好いいと思うよ」
早百合は明日から戻ってくるらしい(未確定)ので今日まで三人である。本来は二人だけどな、紅蓮ももう、内縁の妻みたいな感じだし数に入れても大丈夫だろう。
「それで、真面目な話、縁を本当に全部切ったのか?」
「全部は切ってない。少しだけだよ。ほんの少しだけ……といっても、本人が関わろうと努力しないと正直厳しいレベルまで切ってやった」
ちょっと傷をつけた程度だったりするが二人には秘密である。
「全部切らなかったんですか?」
別に責めるような感じでもない。波崎の問いにどう答えたらいいだろうか。
「縁って言うものはほいほい切っていいものじゃないんだ」
「え?」
波崎が驚いたような顔をしている。
「乙先輩がシリアス顔をするなんて……」
「こほん、失礼だ」
俺だってシリアスな顔ぐらいするさ。間違えて女子の体操服もってかえった時とかさ。
「……さっきの話だけれど、時と場合によりけり。腐れ縁が実は運命の赤い糸だったり、すがってみたい蜘蛛の糸だったりね。切るとその後が変わってしまう縁だってあるわけで」
例えばそれはサッカー選手とサッカーの縁。他の縁が強ければまぁ、断ち切っても問題は少ないかもしれない。乗算を努力、加法が縁といったら想像しやすいかも知れない。
能力の値がマックスで十、それに努力を重ねて十倍とすると百になる。そこに縁が……例えば誰かの推薦、もしくは自分を売り込みに行って上手くいくといった感じだな。
縁を断ち切られると、全て上手くいかなくなる。中には縁が関係のない人も居るがそれこそ一握り。コーチや監督に嫌われて、チームメイトにも嫌われるのだ。能力はあるが、縁がなかったと言われて終わりだ。
エンキリの数が少ないのも、そういう理由かもしれない。目立つのに縁がないのだろう。ああ、ちなみにそういった能力関係の縁を切るのは基本的にご法度だ。もちろん、例外もあるけどね。
「乙、そういえばお前さんに縁を見てもらいたかったんだが」
「何だね、紅蓮君。友達である君には友情価格で見てやろうじゃないか」
この夏始まる友情割引。あなたのお知り合いのエンキリに是非お願いしてみてください。
「いくら? どうせふんだくるつもりだろ」
と、いいつつも財布を取り出す紅蓮。あれ、おかしいな。ものすごく財布が分厚く見えるんですけど。
「二十円でいいよ」
「安いですね」
「友情価格だから。ちなみに親友価格になると一回三万円になります」
「たかっ」
「仲の良い相手の縁を見るなんてあまりいいことは無いからさ」
「その理論は良く分かりませんが……つまり、鬼瓦先輩と乙先輩ってあまり仲の良い友達ではない?」
そうともいう。そうとも言うが……。
「おい紅蓮、波崎さんがあんなこと言ってるぞ。まるで俺たちの友情値が低いみたいな言い草だよ」
「おうとも、波崎ちゃんは失礼な奴だな」
「やっぱり仲がいいんですね」
「……お邪魔するわ」
けだるげに扉を開けたのは早百合……ではなく、頭にバケツを被った青空千春だった。誰も、その見た目に関しては突っ込まなかった。
「乙、タオル」
「ははっ、こちらに」
「瑠璃、お菓子」
「こ、ここにありまふっ」
「紅蓮、お茶」
「ラジャー、オーケー」
欲しいものを全て与えると静かになった。腹いっぱいになればライオンも他者を襲ったりしないのだろう。
さっきまでの和やかな雰囲気は一変した。適度な緊張感。食われる側の魚の水槽に、サメを入れるのと同じ感じだ。
「うん、落ち着く」
「乙先輩、断ち切ってくださいよ」
「そうだそうだ、落ち着くとか言って居座るつもりだぞ。俺達は落ち着かない」
「……それなりに努力してここまで来てるんだよ。被害が無ければいいんじゃないのか」
頭に絶対合格という鉢巻をつけて、ぐるぐる眼鏡を装着。そして勉強する受験生へと変身した。出会って間もないし、ろくなことも話していないけれどもあの先輩は俺の憧れと言っていい。
「花見月先輩が戻ってきたらどう説明するんですか」
「紅蓮がばっちり説明してやるさ。な、紅蓮」
「まかせろ」
さすが紅蓮、頼れる先輩第二位は素晴らしい。
「ただいまー。皆、あたしが居なくて寂しくなかった?」
その時、部室の引き戸が開けられた。
「げ、早百合」
「乙先輩……女子相手にげって酷くないですか」
「大丈夫、波崎さんには例えゾンビになっても言わないから。色んなところ噛んでもらう」
「お、乙先輩っ……」
「いや、波崎ちゃん、きゅんとするところじゃないからな」
「あれ? 新しい依頼主さ……ん?」
そこで止まった。
「千春?」
「花見月早百合。お久しぶりね」
二人はお知り合いらしい。しかも、その短いやり取りで結構仲が良さそうな感じがするのだ。
「乙先輩、ゾンビごっこやりましょ。私、ゾンビ役やります」
「そうか、んじゃ早速波崎さんをヘッドショットだな」
「さっきと言っていること違いませんか?」
「はは、波崎さんは甘いな。だから俺に騙されるんだ」
「それは言わない約束ですっ。がぶっ」
「ぎゃああっ、噛まれた。紅蓮、ワクチンをくれ」
「おめでとう、感染した君には弾丸をプレゼントだ」
「うっさい、静かにしなさいっ」
早百合に怒られ、俺達三人は正座することになった。まさか復帰祝いより先に怒られるとはな。俺に部長は無理のようだ。
「何であんた、バケツなんて被ってるの?」
「ここに来る途中に色々とあってね。誰かの意図を感じたわ」
「隠密行動ですか」
「なるほどな、面がばれなければ犯罪者も大手を振って歩けるよな」
紅蓮と波崎が俺に対して疑惑の眼差しを向けている。失礼な奴だな。俺がそんな事をするわけがない。
「縁だよ、縁の仕業だよ」
「都合が悪くなったらすぐそれか」
「この言い訳は生まれて初めて使ったってばよ」
「今いいわけって言いましたね」
「いってねぇよ。何月何日何時何分ナンプラー俺が言ったんだよ」
「鬼瓦先輩だって聞いています。ね、鬼瓦先輩」
「波崎ちゃん、ナンプラーって何だっけ? 魚の一種?」
「そう、良く知ってるな。魚のフィッシュだ」
「……うるさいっ」
重たい一撃が、机に当たる。鈍い音は調査部部室に響き渡った。
「魚っ(うおっ)」
「魚魚っ(ぎょぎょっ)」
「次騒いだら……おろすぞ」
青空先輩がそう叫ぶとうるさい雑魚共は静かになった。
「おい、紅蓮。絶対に騒ぐなよ……これは間違いなく、青空先輩からふられてるぞ。ここは芸人魂を見せてやれよ」
これ以上やること確実に青空先輩に嫌われてしまう。
「芸人魂? 俺芸人じゃないぜ。あーあ、乙がここで頑張ってくれると……」
「黙ってろって言ったろ」
一度にらまれました。もう絶対に騒ぎません。
「そんで、もう一度聞くけど何かの調査をお願いしにきたの?」
「別に、調査依頼じゃない。この部には友達が居るから来たまでよ」
「え、友達って……」
心底面白そうに早百合が笑っている。
「あんた、もう友達なんて作らないって言ってたじゃん」
「ちょっとした人間不信に陥っただけだもの。通常通りに戻れば、誰だって作ろうとするわ」
「そう、天下の新聞部部長が人間不信なんて世も末ね。それで、その友達とやらはどこに居るの? ああ、見えない友達ね。それってたまにあるわよね。自分の中で友達を作っちゃうのも別にあたしは悪くないと……」
早百合の言葉を無視して、青空先輩は俺を指差した。
「私の友達はあいつ、名前は縁切乙」
「へぇ……あれ、そんな生徒この部活に居たっけ、紅蓮君」
「いないな」
「すみません乙先輩、急に見えなくなりました」
「ここにいるよ!」
ひでぇ、俺たちは鋼の鎖で心が繋がれている仲間ではなかったのか。
「……でもこのノリには正直ついていけないかも」
「悪いのは全部奴です」
そういって紅蓮が俺を指差した。
「私がやりました」
「犯人も自供しています」
「どうしてやったんだ」
「金です。一時のお金欲しさにナンプラーを買い占めました……ちら」
俺は期待のこもった視線で、ぐるぐる眼鏡のほうを見る。
「青空先輩、友達なら、友達なら乙先輩に突っ込んであげてください」
波崎はこの部活に入って完全に染まっちまった。一体誰が責任を取るのだろうか。
「え?」
「ほら、早く!」
よく分からないだろうに、早百合も背中を押している。
「な、ナンプラーって一体何なんだよっ」
何と、突っ込みと拳が飛んできた。
「ナンプラーとは……えーと、たしか魚系の調味……ぐふっ」
「そして乙先輩も雑な説明しながら受け止めた」
受け止めていません。
そのまま机を吹き飛ばして俺は止められた。
「いやぁ、あれですね。漫画だと良くある光景ですが実際にぶっ飛ばしを体験してみると痛い痛い」
「私もちょっとやりすぎたかもしれない」
意外とこの先輩、謝れるんだな。謝れるのなら、友達だってやっていけるんだろう。




