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エンキリZ  作者: 雨月
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第九話:乙、告白する?

 紅蓮と波崎に出してもらった落ち着けそうな場所は以下の通りだ。

 まず、自室、トイレ(個室)、誰も居ない教室、布団、ベッドの中、ベッドの下、夢の国、など等。

「ではこれからいけそうなところに全部向かいます。まず、波崎の部屋」

「え? 何故ですか」

 きょとんとしている。うむ、可愛い。やっぱり部活に入るなら女の子がいる部活だよな。

「実際に行ってみないとわからないからな」

「でも、自室ですよ?」

「ああ、波崎の自室だ。きっと波崎の部屋は落ち着き成分が出ているに違いないね」

「女の子の自室か……悪くないな」

 紅蓮の奴も乗り気である。

「嫌です」

 当然、波崎は拒絶間丸出し。別に友達が来るぐらい問題ないような気がするんだけど違うのだろうか。

「ほんのちょっと、さきっちょだけ」

「乙先輩のこと、嫌いになっちゃいますよ」

「紅蓮、いくのやめよう。嫌いって言われた」

「俺は乙が嫌われても別にいい。乙が絶交されても強行してもいいだぜ」

 なんという奴だ。ここまで言い切るなんて凄い。俺のことだけどさ。

「きっと紅蓮が頼めば許してくれるさ」

「だ、そうだ。波崎ちゃん、駄目か」

 俺の言葉に紅蓮が交渉に名乗り出てくれた。

「もし、鬼瓦先輩が来たら本当に乙先輩を嫌いになりますっ」

「紅蓮……残念だが紅蓮の部屋に行こう。一生のお願い」

「俺の部屋? 別にいいけど

 と、言うわけで紅蓮の部屋へ向かう……というわけにも行かない。

「紅蓮、電車通学だろ」

「そうだな」

「時間も金ももったいないので却下だ……」

 ふざけて行くには距離があり、時間も掛かりそうだ。

「そうだ、乙先輩の部屋に行きましょう」

「俺の部屋……?」

「はい、いいですよね?」

 年下からの無言の圧力。

「おいおい、波崎さん。俺がすぐに首をうんと動かすわけ無いだろ。君だって渋ったんだからな」

「波崎ちゃん、乙の部屋にはそりゃもう、あーんな本やこーんな本がせっせとベッドの下に詰められているんだ。ベッド下男さんもびっくりなぐらいにな」

「鬼瓦先輩、乙先輩の首を縦に動かしてください」

「わかった」

「いや、わかったじゃねぇよ。何紅蓮もあっさりと頷いて……あががががっ」

 無理やり紅蓮に首を縦に動かされ、結局俺の部屋に行くことが決まってしまった。

「それで、行く場所決まったの?」

 そして、良い場所があったらそこに移住してもらうために青空千春を部室前に呼んでいたりする。今更拒否権を発動させるわけにも行かず(いがぐりマッチョとそれを凌ぐ化け物に可愛い年下を相手に出来るわけがない)、何も起こらないようにとただただ祈るばかりである。

「あ、先に言っておくぞ。俺の部屋は超普通だからな。間違ってもベッドの下に手を伸ばしたりするなよ」

 いやぁ、友達に棚ごと大人の円盤を渡しておいて正解だったぜ。

「御託はいいから、さっさと開けなさい」

「了解しましたっ」

 それではゆとりと安寧をもたらすリバーサイド満開一○六号室へご案内。

「普通だな」

「というか……家具がありませんね」

 まぁ、こっちに引っ越してから特に何も買ってないからな。小学校卒業後、ずっと師匠の下でエンキリの修行をしていたのだ。理由はそれだけじゃないけどさ。

「リビングにはテーブルと、テレビだけ」

「こっちの寝室にはベッドは愚か……寝袋しか置いてません」

 一体どこにいかがわしい本を隠しているんですかと睨まれた。ああ、あの頃君は職業フォルダとか勘違いしていたのに……早百合と馬鹿が余計なことを吹き込んだからだ。

「家具がないって……一応衣装ケースやラジオもあるからね」

 良く探すとノートパソコンも置いてあるよ。ちゃんとロックしてあるからそっちは大丈夫だ。

「掃除はどうしてるんだ? 円盤か?」

 紅蓮はどうやら掃除機を探しているらしい。こいつ、今円盤って言ったか。円盤でどうやって掃除するんだよ。

「ほうきとちりとり、あと雑巾による水拭き」

「なんだ、ルン○じゃないのか。あれ、UFOみたいでぐっと来るのにな」

 見た目が同じだとしても、天と地ほど違うと思う。

「よし決めた、この物件にする」

「お目が高い」

 決めるといった青空千春に紅蓮が続ける。

「今ならあなたの生活をサポートする男が一人ついてきます」

「いやいやいや、冗談じゃあない」

 俺は見えない小太刀を取り出して最後通達を出した。とは言っても、単なる脅した。

「縁を切るぞ、本当だぞ」

「む、お前さんそれ卑怯じゃないか」

 いがぐり頭め。抜け目無い虎(見た目はわりとタイプだが)と同居できるわけないだろ。虎が人間と仲良くなるのは肉塊になったときだけだ。

「乙先輩、そんな特殊能力無くても人間仲良く生きていけますよ」

「波崎さんよぉ、根拠がないと信用できないねぇ」

「後輩相手に悪い顔。この男、ワルである。」

 ごめんな波崎、あんたは可愛いと思うが俺の中では可愛いからといって何でも許されるわけじゃないんだ。自分に火の粉が降りかかってくるのならよぼよぼの老人や年端も無い子どもを使ってガードしてやるね。まぁ、ちょっとは一緒に生活してみたいかもって思ったけどさ。

「根拠はありますっ」

「よし、波崎ちゃん言ってやれ。悪に染まった乙を救ってやるんだ」

 任せてください。自慢げに未発達の胸を叩いてみせた。

「乙先輩は、私のために色々としてくれました。他の人はいざ知らず、乙先輩ならやってくれると思ってますから」

 波崎が輝いて見える。

「う、まぶしい……浄化されそうな後光だ」

「身体がっ、身体が溶けるぅ……誰かあの眼差しを止めてくれぇぇ」

 紅蓮、お前もか。

「何この茶番」

 青空千春め、白々しそうな視線を向けるんじゃないよ、全く。

「心が洗われました」

 手を合わせて波崎を拝んでおいた。

「年上も悪かないが、年下でもいけるな……おかずはどこかなぁと」

「紅蓮の心が、現れました……さて、馬鹿は放っておいて青空先輩。俺の部屋に住むのなら覚悟が必要ですよ」

「覚悟? 一体どんな」

 眉根をひそめた青空千春に俺は続ける。本当の友達なら、俺が気持ち悪くても受け止めてくれるさ。受け止めてくれない奴なんて、友達じゃないね。

 割とタイプな相手に対して、わざと嫌われるような真似は極力仕方がないが……あれだ、青空千春は悪女だと思って接しなければならない。くっ、未練が……未練を振り切るんだ縁切乙っ。

「……俺、射程圏内に女の子が居たら確実に寝込みを襲いますもん。約一年後に祝、ご懐妊になったら恐らく噂になりますよ」

「友達やめていいですか」

「後輩関係断ってもいいですか」

 ケダモノでも見るような目で俺の事を見る紅蓮と波崎さん。いいかね、諸君。獣を追っ払うにはケダモノにでもならないと駄目なのだ。狩りを楽しむ人は獣の素質があるといえる。

 あ、先に言っておくけど俺って人の悪意に弱いからね? 憎悪の対象として見られた日には逃げ出す覚悟があるからそこのところ、よろしくお願いしますよ。

「この容姿で欲情するの?」

 先輩はちょっと理解できないといった感じで自身を指差していた。

「青空先輩、ぐるぐる眼鏡かけていても俺の好みです。いわば、ドストライク。思わずワンストライクのところを審判権限でツゥストライクにしたいところです」

 俺の後ろで紅蓮が両手を忙しなく動かしながらスットゥライィィクと叫んでいた。稀に見かけるうざい審判だな。

「……そう、あなた、私の事が好きなの?」

「見た目は!」

 力説。これは嘘ではない。性格は見た目に影響されないから男は騙されるのである。騙そうとする女が悪いのか、それとも騙された男が悪いのか……答えは簡単だ。

「誰も悪くない。そういう運命だったのだ」

「運命なんて言葉、リアルで使う奴引くわぁ」

「私はそう思いませんけど……使う場面は考えて欲しいですね」

「あんた、変な奴ね」

 青空千春に外野の声は届いていないらしい。

「自分が変だと、自覚はありません」

「末期ですね」

「手遅れだな」

 何か言いたげな二人の視線を無視して進める。

 敵と戦うにはぶれちゃ駄目だ。信念を貫き通す必要がある。

 簡潔に、分かりやすいことをまとめて伝えてしまえばいい。よく言うじゃないか。高度な嘘をつくには真実をいくつか混ぜたほうがいいってさ。

「あ、先に言っておきますけど、脅しじゃありませんからね。やめておくのなら今のうちですよ。別に一緒に住むのが嫌だって言っているわけじゃないです。ええ、青空先輩に対してそんな恐れ多い。でも、一般的に考えて変な奴の、しかも男子生徒の、青春、いえ、性春まっさかりの家は危険ですよね。ほら、一つ屋根の下で男子と共同生活なんて自分の見られたくない姿や、相手の見たくない姿を見てしまう恐れってありますよねぇ。さっきも言ったとおり、青空先輩は見た目でストライクです。ええ、襲ってやりますとも……でも、どうだろ、そのときになって見ないとわからないなぁ」

 日本人の気質。察してください。僕の精一杯のサイン、見逃さないで下さいね。

 でも、大丈夫。青空先輩は俺が心の中で拒否していることを見抜いてくれるさ。

「はっきりしない奴だな」

「本当、男らしくないですね」

 ギャラリーが何と言おうと、なりふり構っていられない。

 本当は青空千春を諦めさせるのにこんな強引な手法をとるつもりは全くなかった。波崎のお家に入ってひとしきりうはうはした後、青空千春を押し付けようとした俺に罰が下ったのだろうな。

「それで、あんた何が言いたいの?」

「察していただけなかった……くすん」

「これまでの事を要約すると、だ」

 俺では話を進められないと思ったのだろう。さすが、紅蓮。まとめにかかってくれた。部長不在のときは部員全員がぼけ続けてはならない。

「乙は青空先輩と一緒に住んでもいいと思っている」

「……まぁ、言ったな」

 全部ってわけじゃないけどな。もし一緒に住めるようになったら下心全開だろうって? あるけどねぇよ。絶対もがれるね。一度息子もがれたらイモリやヤモリじゃないんだから生えてくるわけ無いだろ。取られたら下心最前線がなくなるわけで、メリットないじゃん。

 あ、細胞を移植してもらえれば生えるかも。

「見た目も気に入ってると……そして、青空先輩のほうもまぁ、実は嫌いではない?」

「そうね。大好きでもないけどね」

「つまり、だ。乙、これから先はお前さんが一番分かるだろ?」

「ああ、俺は客観的に物事を捉えられる男。お友達から始めましょうだろ?」

「うん、正解だ。青空先輩、それでいいですか」

「ええ、いいわよ」

 わぁっと全員が拍手した。

 話が落ちているようで、実際は落ちていないこの状況。今後どうするつもりだろうか。


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