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3.首吊り

 首切りが首のないニワトリたちを愛したように、彼と首締めを結びつけたのもまた親近感というものでした。自分と同じように他者によって殺害され、自分と同じように首にまつわる死を遂げた相手を、二人はお互い身近に感じたのです。

 彼と彼女が恋人同士になったのにはたったそれだけの理由しかありませんでしたが、もともと『それだけ』しかもっていなかった二人にとっては十分でした。

 首切りは首締めの無邪気なところが好きでした。少なくとも、首切りは首締めのことを無邪気な女の子だと思っていました。

 首締めは首切りの誠実なところが好きでした。少なくとも、首締めは首切りのことを誠実な男のひとだと思っていました。

 死人の恋路なんて、まずはじまるまえから終わっているものです。二人の恋は永久に、どこにも辿り着くことはありません。

 ですがそれでも、首切りと首締めはお互いを、まるで自らの分身ででもあるかのように大切にしていました。

 少なくとも、本人たちはそうしているつもりだったのです。


 ところで、実をいうと『町』にはもうひとり、首にまつわる死を遂げた死体が住んでおりました。

 彼はみんなから首吊りと呼ばれています。このことさえ明かしてしまえば、彼がどのような最期を遂げたのかは即座にしてご想像いただけるでしょう。彼の首にはくっきりとロープのあとが残されていました。

 自分たちと同じ部分に死の痕跡を残す首吊りを、しかし、首切りと首締めはあまり好いてはいませんでした。他人の手で理不尽に命を奪われた彼らにとってみれば、自分から死を選んだ首吊りは理解も共感も出来ない存在だったのです。

「あいつは僕らとは違う」と首切りは言いました。そして首締めの肩を抱き寄せます。

「あの人は私たちとは違うわ」と首締めは言いました。そして首切りの胸に身を預けます。

「ちょっと待ってくれよ」

 問題の首吊りはそんなふうに反論します。

「確かに僕は自殺者なのかもしれないよ。けど今となってはその記憶も残っていない。君たちと同じように、思い出を持たないひとりの死体じゃないか。それだってのに君たちは、今のこの僕までも差別するのかい?」

 首切りは腕組みをしてしばらく考え、それから、突き放すように首吊りに言いました。「でも本質的な君が自分で自分を殺すようなヤツだってことには変わりないよ」

 首締めは首切りと首吊りを交互に見比べると、恋人に追従するように言いました。

「そうよ。やっぱりあなたが私たちと違うってことには変わりないわ」

「なぁ、本当に、頼むからさ……」

 首吊りは弱り切った様子で頭を抱えると、そのまますっかり黙り込んでしまいました。

 そしてしばらくあってから、今度は閃いたとでもいう風に再び口を開きました。

「じゃあ、こうは考えられないかい? 本当は僕も君たちと同じように誰かに殺されたのかもしれないって。つまりこの縄あとは自分で首を括ったわけじゃなくて、たとえば首締めのように絞殺された――」

「それって」と、首吊りの言葉を遮るように首切りが言葉をかぶせました。「もしかして君は、何かとんでもない罪をおかして絞首刑にされた死刑囚なんじゃないか? 放火とか、強盗とか……あるいは、人殺しとか」

 首締めが悲鳴をあげて首切りにしがみつきました。そして、はっきりと拒絶するように鋭く叫びました。「やっぱりあなたは私たちとは違うわ! 全然違うわよ!」

 もはや二人に話を聞く態度はありませんでした。

 首吊りはひどく傷ついた様子でその場を立ち去り、首切りと首締めは彼の姿が見えなくなるまでその背中に敵意の眼差しを投げ続けました。そしてこれ以降、彼らのあいだには高い壁と深い溝がそれぞれ横たわったのです。

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