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桂かすが短篇集

ウーパールーパーになった佐藤

作者: 桂かすが

「ウーパー(飼ってるウーパールーパーの名前)は楽そうでいいな。お前と代わって欲しいよ」


 大切に飼ってるウーパールーパーにエサをやりながら佐藤はしみじみとつぶやいた。

 本気でそう思ってたわけではない。仕事で疲れていただけだったんだ。


(――その願い、叶えてやるのじゃー)


 それをどこかでのじゃーさんが聞いていたらしい。佐藤はウーパールーパーになった。

 のじゃーさんそりゃないよ!って思ったが、なってしまったものはしょうがないと佐藤は割り切った。

 またのじゃーさんに頼めば戻してもらえそうと思ったのもあった。


 アクアリストである佐藤が作り上げたウーパールーパー水槽は広く、とても快適だった。

 鑑賞用としてだけではなく、ウーパールーパーにとって快適な生活を作り上げるべく腐心した結果できあがった完璧な空間である。

 実際住んでみてその出来栄えは十二分に満足できるものだった。佐藤は昔の自分に感謝した。

 エサも栄養バランスとウーパーの食い付きの良さを見て、数十種類から厳選したものが用意してあった。

 赤虫に配合飼料、干しエビや時にはマグロなんかももらえて食生活にも不満はなかった。

 

 TVも見れる。佐藤の飼い主はTVが大好きらしく、家事やウーパー(佐藤)の相手をしていない時は日がな一日TVを見ている。佐藤もそれを一緒に見る。番組の好みも似ているらしく、選局にも不満はない。

 エサを食ってぼーっとして、TVを見る。大変優雅生活を佐藤は満喫していた。

 

 ウーパールーパーになった佐藤が暮らしているのはウーパーがいた水槽である。ではウーパーはどこに行ったのか?

 人間になっていた。しかも結構な美少女だ。ウーパーは女の子だったらしい。しかも佐藤の部屋で入れ替わるようにして暮らしている。

 人間になったウーパーが語ったところによると、ウーパーは人間になりたかったという。利害の一致だ。

 

 ウーパーさんは最初はオタオタしていたものの、すぐに人間の生活にも慣れたようで、佐藤の世話をちゃんとして仕事にもでかけるようになった。

 佐藤の働いていた職場にそのまま潜り込んだらしい。先輩たちには可愛がられてなんとかやっていけてるようだ。ウーパーさんが色々話してくれた。

 周りが疑問に思わないのかと少しは思ったが、こうやって人間とウーパールーパーが交代するんだ。その程度はなんともないんだろう。それとものじゃーさんが何かやってくれたのかもしれない。

 美少女であるウーパーさんは佐藤の水槽の前で無防備にお着替えをする。お風呂から裸で出てくる。眼福である。

 佐藤も人間時代、ウーパーさんの前であんな姿やこんな姿を散々披露したことであるしお互い様だろう。

 触れられないのが残念であるが、ウーパールーパーになって性欲もどこかにおいてきたらしい。欲求不満などなかった。

 平穏でゆったりとした時間が流れた。


 10年がすぎた。どうやら寿命が来たようだ。佐藤はここのところ体の調子がめっきり悪くなった。

 ウーパーさんは手を尽くしてくれたが、ウーパールーパーにしてみれば10年は長寿なほうだ。

 幸せな人生だった。生きるためにあくせくしていた人間だった時は考えられない、平穏なウーパー生だった。

 のじゃーさんにまたお願いしようってウーパーさんは言ってくれたが、佐藤は断った。今更交代しても人間として生きていけそうにない。

 だからそんなに泣かなくてもいいよ、ウーパーさん。


 こうして佐藤は平穏でウーパールーパーな生涯の幕を閉じた。

 ウーパーさんがその後どうなったかは佐藤にはあずかり知らぬことである。

お題「ウーパールーパー」で書いた短編です

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかウーパールーパーの話で感動することになるとは……
[一言] 感動する作品でした。 最後にどっちも人間になるようお願いしたらいいんじゃね。って思ってしまった自分が残念です。
[一言] えっ? 何でこの題材で、この文字数なのにきれいにまとめて感動できる作品に出来るの? 良い作品でした
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