割れた卵
さっき、すりむいた膝にお湯が沁みる。
転んだのだ。
いや、転んだというより、こけた。
さっき、といっても数時間前、私はお母さんに頼まれた、買い物の帰りに公園の横の道を歩いていた。
夕暮れで辺りは薄暗く、スーパーから家への近道だが、街灯の少ない場所だった。
本当のことを言うとあまり、その道は使いたくなかったが、どうしても見たいテレビがあったのでショートカットを選んだ。
今日の夕飯の材料が入ったエコバックに、財布の入った鞄。
あ、後ろから自転車が来てる。と思って道の隅っこに寄った。
あれ?と思った瞬間にグイッと引っ張られ、こけた。
エコバックに入った卵が潰れる音と、それと同時にこけた衝撃の痛み。
すぐに前を見た。
謝れ、自転車め!と思うと、自転車の人が私の鞄を持っているのが見えた。
私は頭に血が上るのを感じた。
「この引ったくりー!!待て自転車ッ!!」
叫べるだけ叫んで、すぐさま走り出した。
けど、自転車と普通の女子高生。
追いつくはずも無く、私の鞄を持った自転車は、道を曲がっていった。
もうだめだ。
所持金五千円程度しか入ってなかったが、なんだか悔しい。
ガシャーン、と自転車が曲がっていった道から音がした。
諦めかけていた足を、急いで音のした方へと向かわせた。
「自分何したか、分かっとんの?」
目に飛び込んだのは、倒れた自転車、鞄を引ったくった人、そして街灯で照らされた金髪。
金髪の人が、引ったくり犯に馬乗りになって、拳を振り上げていた。
うわ、殴るっ。その瞬間だけ、目を瞑った。
目を開けば、伸された引ったくり犯。
金髪の人は、立ち上がって私の鞄を手に取った。
「これ、自分のやろ?」
ぽーんと無造作に投げられた、自分の鞄を慌ててキャッチする。
聞きなれないが、関西弁なのは分かった。
「あ、あの、ありがとうございます」
まさかこんな風に引ったくり犯を捕まえてくれる人が、現れるとは思ってもみなかった。
「ごめんやけど、ちょっと待ってな」
そう言って金髪の人は何やら携帯で電話をし始めた。
しばらくして、警察が来て、金髪の人は警察の人と馴れ馴れしく話し出した。
「いやいや、俺は一発殴っただけやって!」
「普通、一発で犯人を伸すか?」
呆れた警察官が、深い溜め息を吐いた。
「ま、とりあえず、ご協力ありがとうございました。はい、帰っていいから」
しっしと手を払って金髪の人を帰す。どうやら知り合いらしい。
「自分、気付けなアカンで!」
金髪の人は手を一振りして、私に大きな声で叫んだ。
「はいっ、ありがとうございました!」
私は慌ててぺコッと頭を下げた。
「君は大丈夫だった?」
警察官がこちらを向いた。
その後は事情を聞かれ、お母さんに連絡をして迎えに来て貰った。
なんだかやっぱり、引ったくられたのや、お母さんに迎えに来てもらったり、警察のお世話(被害者だけども)になったのが、ちょっと恥ずかしかった。
そんなことがあった。
湯船に浸かりながら、私は沁みる膝を見つめて、溜め息を吐いた。
はじめまして。
睦月ましろです。
これからこそこそと書いていきたいと思います。
関西弁、似非なので、おかしかったらゴメンナサイ。