98列車 エントリー
昼休み。僕はここに出されているすべての車両のことをチェックしてみた。すると1年生に文化祭以来姿を見ることのなかった「ゆぅトピア和倉」があることを確認したり、これまで見ることがなかった「ゆふいんの森」を見たりと発見がいろいろあった。
(なんだよ。うちにあるものとほとんどかぶってるじゃないか・・・。まぁ、30箱のうちかぶらないほうが少ないのはふつうか・・・。)
と考えている。
「えっ。永島。こんなことってありえたのか。」
隣で木ノ本がその箱の中を見ている。手に取っていたのは「ゆぅトピア和倉」のキロ65が入った「特急雷鳥」セット。
「あったらしいよ。七尾線が電化されてなかったから。」
と説明すると、
「らしいいらないんじゃないのか。」
留萌にツッコまれた。
確かにらしい入らない。能登半島の方へのびている七尾線という路線は当初電化されておらず、大阪からの所要時間はとても長かったのである。それを特急列車に牽引させて、到達時分を短縮しようとしたのがこのような車両を生んだ理由である。
「へぇ、そんなことでこれ作ったのか。」
「まぁ、理由なんてゴロゴロしてるよ。車両新製しなかった理由は国鉄が当時赤字で新製車なんて作れる余裕がなかったから。だからキハ65を流用してそれ作ったんだよ。」
「・・・。」
「って言っても榛名には理解できないかぁ。」
「そんなに人をバカにするな・・・。」
「まぁ、まぁ。」
この中を仲裁する。それからほかの箱を調べていったが、
(カラ。)
箱の表にそう書かれているだけの箱を見つける。背表紙には何と書いてあるかというと「キハ181系一般色」となっている。表にそう書いてあるわりには重量があって、中には何か入っている感じがする。その箱を開けてみると、
(なんだよ。この黒いワムの集まり・・・。)
中は見るものではないと思った。だからすぐに箱のふたは閉じた。
これは見ただけでなんだかわかる。昔いたるところを走っていた国鉄貨車だ。ほとんどの車両は2軸(乗用車と同じ状態)しかない貨車たちだ。これを40両以上つなげて貨物列車というものを走らせていたが、遅いというレッテルを貼られてしまっていた。では、今の貨物列車はどのくらいのスピードで走っているかというと100km/hぐらいがふつうになっている。なお、これはコキ100形などの水準で、「スーパーレールカーゴ」のような特急貨物電車にはこれは当てはまらない。
この箱はすぐに忘れ、他の箱に移る。
(他には・・・。おっ。「ネックス」。)
253(もちろん数字だけではない)と背表紙に書かれている箱を見つける。その中を開けると1両足りない。それも大事な1両が欠けているのだ。これもすぐにふたを閉じた。
13時00分。作業再開の時間になったので作業を再開する。
「永島さん。この「ネックス」死んだほうがいいですね。」
空河がそう言った。理由はすぐに分かった。
「そうだな。走らないほうにツッコんどけ。頭から。」
「了解です。」
すると今度は潮ノ谷が・・・、
「なんだよ。これ。カラじゃねぇ。・・・。そして、入ってるもの違う。」
「うわぁ。すごいなぁ。よく集めたな黒ワムだけ。・・。ああ。だけじゃないなぁ。トラもいるし、コムもいる。」
「この編成並べてみたくない。」
この反応はどうしたらいいものか・・・。
そんな感じでずっと調べていってみた。
「永島。このキハ75どうなってるんだ。」
留萌がGREEN MAXの箱を僕に渡してきた。
「どうなってるってどういうこと。」
聞き返してみたら、
「中見ればわかるよ。」
と言われた。中を見てみれば、簡単に分かる。これは・・・。壊れていると一言でくくってしまっていいものなのだろうか・・・。鉄研部にまつわることから言えば迷ったら自分の信じたほうを信じればいいので、これは壊れているということになる。
「直してみるわ。」
僕は一言そう言った。
箱を開けて中身を取り出す。すると片側に3枚の両開きドアを持った気動車が2両出てきた。このうち1両はMが入っている。それは床下を横から見ればすぐに分かる。その車両は窓ははまっているが、運転室の窓がない状態になっている。
さらに下にひっくり返してみてみれば、変なことに気付いた。ギア台車が変に動いるのだ。はまっているのではあろうが、はまっている位置が明らかにおかしい。車体の中央のほうへ目線を動かしてみると白い棒が飛び出てきているのが確認できた。
そのギア台車をとって中を見てみた。そうするともぬけの殻。ここには何もない。あるはずのものがないから動いているのだ。これで納得できた。
(・・・ウォームアップギアがない。これじゃあ走れんだろ・・・。)
「留萌。もう1個これある。」
「えっ。あるよ。」
「それも持ってきて。」
持ってきてもらったのは増結セットとなっていた。これでは意味がない。
「留萌。これもう1こない。」
「もう1個。」
留萌は聞き返してきたが、親切にもそのもう1個を探し出してくれた。これで何とかなる。
「よし。」
まずは簡単にMの床下を取り換えて見た。それで空河に頼み、テストしてと言った。その結果は走らない。その次に取り換えた床下を再び元に戻し、走らなかった方に入っているウォームアップギアを移し、シャフトをウォームアップギアに収め、普段はまっているようにギア台車を戻した。
「空河。これでもう一度テストしてみて。」
と頼む。
「永島さん。走ったよ。」
空河から結果報告がくる。よしと心の中で思った。
「何。キラキラ展の時に「快速みえ」でも走らせる気か。」
留萌が聞いた。
「まぁ、そんなところ。」
「走らせるのはいいけど、ネタに困るんだよなぁ。「南紀」でも横に走らせればいいけど・・・。」
「えっ。313系じゃダメなのか。」
木ノ本が問う。
「あっ。313系かぁ・・・。でも、それって3000番台でなきゃダメだよねぇ・・・。関西本線だし。」
「何か問題でもあるの。」
「いや、無いわけじゃないけど、あくまで「みえ」を走らせるなら、その隣は3000番台のほうがいいだけという話。」
「いいんじゃない。そこまでこだわらなくても。ていうか3000番台が模型になってないかもしれないじゃん。」
「模型になってるよ。ダブパンかどうか知らないけど、出てる。」
「えっ。そうなんだ・・・。」
「でも、学校になかったら話にならないだろ。」
「大丈夫。うちにあるから。」
「・・・。」
満面の笑みで回答した僕を二人は唖然とした顔で見ている。
「永島って一体いくつ模型持ってるんだよ。まず223系の1000番台だろ。それと313系の3000番台だって。」
留萌が指を追って数え始める。だが、留萌はそれ以上知るものがないので、そこで止まってしまう。だが、今留萌が言った中で自分のものはない。
「俺が持ってるのは・・・。」
手を体の前に持って行って、自分がある車両を言っていってみる。
「まず「あさかぜ」牽引のEF66だろ。それと「はやぶさ」と「富士」と「さくら」と「みずほ」の66もあるだろ。その次に「出雲」と「瀬戸」と「あかつき」と「なは」と「彗星」と「明星」のEF65があるだろ。あと「あさかぜ」と「はやぶさ」と「富士」と「さくら」と「みずほ」と「あかつき」と「なは」と「彗星」と「明星」のED76があるだろ。それプラス「カシオペア」と「北斗星」と「はくつる」と「あけぼの」と「鳥海」と「ゆうづる」と「日本海」と「北陸」と「出羽」と「エルム」と「トワイライト」のEF81と「カシオペア」と「北斗星」のEF510もあるし、「ゆうづる」の牽引でED75の重連もあるし、「北陸」と「あけぼの」と「出羽」ようでEF64もあったなぁ・・・。それとDD51の「北斗星カラー」の重連が「カシオペア」分と「北斗星」分と「エルム」分と「トワイライト」分あるら、オレンジのDD51が「出雲」の重連分ある・・・。それに「あさかぜ」とかの使用の24系と「はやぶさ」仕様の24系と「さくら」仕様の14系と「あかつき」仕様の14系と「彗星」仕様の14系と「トワイライト」仕様の24系と「カシオペア」のE26と・・・。」
「あんたいくつ持ってるのよ。」
留萌が僕の言葉を遮る。
「さぁ。自分でも数えたことないから。」
「あんた暇なんでしょ。だったら数えなさいよ。機関車だけでも持ちすぎ。」
「永島さんだったらまだいい方じゃないですか。」
空河が口を開いた。
「僕なんか持っている模型なんだかわからなくなってるくらいですよ。」
「だから、いくつ持ってるのよ。」
「空河って「青大将」持ってたよなぁ。」
「ああ。はい。それと「はるか」ちゃんと「シーサイドライナー」と「ゆふいんの森」とキハ40と・・・。」
「意外と持ってるじゃん。それ聞いてるとあたしが寂しくなってくるわ。私なんか1個だよ。1個。」
と言ったのは木ノ本。持っているのはEF510の500番台。
この話をしている間に僕はあることを思い出した。
「あっ。そういえば、みんな何持ってくるんだ。」
全員のほうを見て聞いてみる。
「まず、永島さんが、何持ってくるんですか。」
「・・・。まずそこかぁ・・・。」
ここにある黒板のチョーク受けにあるチョークをとって、書いてみた。
「せっかくだし、寝台特急は全部エントリーするかなぁ・・・。」
「あんなにいっぱい全部持ってくるのか。」
「うん。家からはおそらく車だから。」
「おい。普段車死ねって言っている人はこういうときに限って車使うのか。」
「だって。電車じゃあ方向違いだし。」
(確かに・・・。)
黒板に書きだしていくときりがないようにも思えてきた。何と言ったって量が多い。こんなにコンプリートして何の意味があるのか。本当を言うと無いのだが、こっちとしてはなんか楽しい。
「で、空河って「青大将」持ってくる。」
「必要なら持ってきます。」
「朝風はEF81のカシカマ持ってたよなぁ・・・。」
「はい。ああ、あと223系のほうも買いましたから必要なら、それも・・・。」
「・・・。」
それを受けて、黒板に書く。
「空河。お前、諫早が何持ってくるか聞いてる。」
「いえ。聞いてませんけど、諫早なら網干・宮原の6000番じゃないんですか。」
「・・・。」
確かに。よく持ってきているから今回も持ってくると考えてふつうだろう。
「というか。永島がこんなにたくさん持ってくるんじゃあ、学校の寝台特急出す必要がないじゃん。カマがない「トワイライト」まであるんだろ。」
「まぁ・・・。他にも「ネックス」とか1000番台(223系)とか持ってくるけど。」
「あんただけで4日全部まわりそうで怖いわ・・・。」
留萌のつぶやく声が聞こえた。
「あと、木ノ本のEF510もエントリーだな。」
「あっ。よろしく。」
(これで家から「カシオペア」の牽引機を持ってくる必要はないけど・・・。)
ちょっと考える。
「なぁ、木ノ本。それで貨物やってもいい。」
「えっ。貨物って。こいつ貨物引くことあるの。」
「あるよ。常磐線で「安中貨物」だったかなぁ。確か、その仕業に就いてるよ。」
「・・・。やめて。」
という声が耳に入ってくる。
(萌だったらやめてじゃなくて、空コキ増やすなって言うなぁ・・・。)
ということから明らかだ。EF510-500番台で貨物仕業を行うなら、自分のもので行うしかない。だったら持ってくる必要があるか・・・。
「貨物やるって言うなら。学校のコキ350000持ってく必要が・・・。」
「いや、万が一のために入れといて。あのコキ俺のじゃないから。」
「・・・。」
結局この後はこういう話になってしまい、作業を進めるどころではなくなってしまった。
この後さらに掘り込んだことを決めていくことになる。
鉄道会社関係者。
木ノ本奈々恵。榛名の母。41歳(2008年当時)。1967年生まれ。
東海旅客鉄道浜松運輸区所属。運転手歴15年。
留萌寛太。さくらの父。45歳(2008年当時)。1963年生まれ。
東海旅客鉄道浜松運輸区所属。運転手歴21年。
隼隼輔。結香の父。45歳(2008年当時)。1963年生まれ。
遠江急行鉄道運輸部車掌(2009年以降)。運転手歴21年。
難波佐紀。笹子観光外国語専門学校鉄道学科講師。登場当初40歳。
元阪急電鉄社員。車掌歴15年。講師歴2年。
稲沢直人。岸川高等学校出身。25歳(2008年当時)。
日本貨物鉄道静岡運輸部所属。同級生の南は遠江急行鉄道運輸部車掌。彼の車掌歴は2年(現時点で)。