96列車 ギャグ裁判
11月27日。
「永島君。ちょっと調べてほしいものがあるんです。」
アド先生は僕にそう持ちかけてきた。
(調べてほしいもの。なんだろうか・・・。)
アド先生の後についていく。アド先生は自習室1に来た。自習室1は学校の車両庫。つまり、調べてほしいものとは・・・。
「この中にある車両がちゃんと動くかどうか調べてほしいんです。」
「・・・。」
唖然とした。量が量ですごい。普段家で見ている量ほどではないが、自分も家にあるものすべてを動かしたことはない。これを今から全部動かせというのだ。
「アド先生。これを全部調べろと。」
「そうです。」
アド先生は分かっているじゃないかというようなそぶりをする。
「今回のキラキラ展は12月23日から26日までの長丁場なんです。それでもって言った車両が走らないということがあると困るんです。」
(確かに・・・。)
「だから、あらかじめ持っていく車両のほうを決めたいと思うんです。」
アド先生は続けた。
「永島君ならわかるでしょう。いつもバンに乗せていってますけど、車両を持っていくのにそんなにスペースがないでしょ。」
乗せているハイエースのことだ。確かに。普段他のところで展示をするというときバンの中はほとんどモジュールで埋め尽くしているため、車両ケースがそう大量に入るとは思えない。いや、思わない。
「それで君たちの私物も合わせれば、持っていく車両のほうを少しは削れると思ってねぇ・・・。」
とアド先生は言った。
「じゃあ、まずは、ここから運び出せってことですよねぇ。」
当然のことを聞いた。何をやるにしても、この部屋は狭い。部室よりも狭いのだ。
「そうですね。」
アド先生はそういうと部屋から出ていった。そうして、今日集まった留萌、潮ノ谷、空河、朝風を呼んできた。
僕はそうなるであろうということを見越して、車両ケースを出してきた。そして、
「留萌。ちょっとこれ運んでって。」
とすれ違おうとするときに留萌に持っていた車両ケースをパス。
「おい、こんなバケツリレーありか。」
「バケツじゃないけどな。」
留萌には文句があるみたいだった。だが、そんなの僕が知るはずはない。
すぐに自習室1に戻って、また箱を出す。
「永島さん。これ運んでけばいいんですか。」
空河が聞いてくる。
「うん。学習室1のほうに運んどいて。」
「はい。」
そういうと空河は1つ、朝風は2つ箱を持って学習室のほうへ行く。
(えっと。これもか・・・。)
「はっ。」
声を上げて2段ベッドの下の段に眠っているケースを問いだす。
「永島。私も手伝うか。」
留萌が戻ってきていた。
「いや、いいよ。これ運んで。」
僕は留萌に機関車などの単品が入った箱を渡す。
「ちょっとこれ重くないか。」
「そりゃそうさ。機関車とかしか入ってないもん。」
「・・・。」
「留萌さん。それ運びますか。」
「ありがとう。」
「えっ。ちょっと留萌さん。」
その声が廊下から聞こえてくる。
「留萌。元ソフト部だろ。」
「関係ないよ。この頃体力落ちてるの分かってるんだ。この前の体力テストこれまでBだったのがCに落ちたし。」
「知るか。俺のほうはずっとDしかとってないんだぞ。」
「それこそ知るか。」
少しばかり声を掛け合って、留萌はまた部屋を出ていく。
(これで何箱向こうに言ったんだ。・・・。それにしても、まだあるのかよ。)
家にあるのは30箱。ここにあるのを数えるのにはいい機会だと思った。
「よし、これで終わり。」
最後の一個は僕が運び出した。
「それで終わりですか。」
朝風が僕に聞く。
「うん。これで終わり。」
そう答えて、小走りで学習室1のほうへ向かった。
「1、2、3、4、・・・。」
学習室1のほうでは留萌が運ばれてきた箱の数を数えていた。
「何箱ある。」
すかさず聞く。
「17。17箱ある。」
(17かぁ・・・。うちより少ないな。)
「アド先生持ちすぎだろ。」
「・・・。」
「17かぁ。僕のほうはどれくらいあるのかなぁ・・・。」
空河がつぶやいている。
「・・・。」
しばらくそのままの姿勢でいるとアド先生が向こうから階段を上がってやってきた。テスト線を用意してきたのだ。
「じゃあ、お願いします。」
そういうとアド先生はテスト線を設置して、また来た方向に戻っていった。
「・・・。」
「じゃあ、やるかぁ・・・。」
僕はそう留萌たちに声をかけた。
それからというもの僕はこの中にある車両のことをチェックしていった。
(えーと。これは221系の箱だから中は当然221系なはず。)
と思って箱を開けてみた。
「・・・。」
中身は・・・。
「留萌。これ何だかわかる。」
すぐに留萌に振った。
「えっ。これ・・・。ああ、これはキハ55とかっていうやつだよ。」
「へぇ。・・・。」
そんな形式聞いたことがない。
「にしても、入ってる箱が違うじゃん。」
「中にはこういうのもあるのかもなぁ・・・。」
そう言って僕はほかの箱もすべて中身を調べてみた。案の定そういう箱が出てくるのだ。
「おいおい。これはオハ35じゃん。」
「オハ35に交じって10系も入ってる。」
「・・・。」
「これは一般客車でまとめちゃっていいかなぁ・・・。」
「いいんじゃないか・・・。」
触れてはいなかったが、どの箱に何が入っているのかはっきりさせてくれというのもアド先生の指示だ。
「じゃあ、そういうことにしとくわ。」
一方、空河、朝風のほうは走る車両とは知らない車両のほうを調べている。
「ゲホ。ゲホ。ゲホ。」
「どうした。空河。なんか吐き気がするものでも引き当てちゃったか。」
「ああ。見てみるか。お前にこの吐き気移してやろうか。」
「はっ。移してくれなくて結構。」
「見てみやがれ。これで吐き気がしないほうがおかしいぞ。」
「・・・。」
自然とその中身が気になる。その箱をのぞいてみると、
「いやな貧乏くじ引いたな。」
「留萌これ分かるのか。」
「分かるわけないだろ。この水色のイモムシ。」
「・・・。」
「留萌さんでも分かんないって相当上イッテますねぇ・・・。」
「ナヨロン先輩だったら分かるかも。」
「あの人かぁ。あの人なら。」
まぁ、ナヨロン先輩でなければわからないようなものまで中にはある。
「・・・。」
「動くなー。」
空河はその水色の車両に向かっていう。
「ジジジジジジジ。」
水色の車両は声を上げて、ゆっくり動き出した。
「死ねー。」
空河は運転席から立ち上がり、それに凸ピンを食らわせる。するとその車両は横に倒れて、動かなくなる。線路から外れて、電気がもらえなくなるからだ。
「はっ。ザマァ。」
「おい。ふざけるな。」
朝風が声を上げると、朝風のほうで走らせていた車両がそれにツッコんだ。
「はっ。ザマァ。」
「おい、こら直せ。」
「いいだろ。ゴミはそこでふんぞり返ってれば。」
「・・・。」
「おい。空河これはゴミなんかじゃないぞ。くそゴミだ。」
「くそゴミは死ねー。」
「・・・。」
「おい。空河。くそゴミのほうはそこまででいいからこっちも調べてくれ。」
「はい。」
空河にその車両を渡す。中身は・・・。
「死ねー。」
開けたと思われた。その直後にすぐにこの声。空河からしてみればくそゴミ以外の何物でもないのだろう。
「永島さん。この「ハイパーに問題を起こす子」動いてくれません。」
「おいおい。名前は冗談じゃないのか。本当に「ハイパーに今問題を起こしてどうするんだよ」。」
「・・・。レールクリーナーやっったほうがいいんじゃないか。」
「空河。お酒よこせ。」
「朝風。酒癖が悪いぞ。」
その時、潮ノ谷はこのやり取りを唖然とした顔で見ていた。
「あの。留萌先輩。みんないつもこういう感じなんですか。」
「まぁね。ていうか、今まで展示とか言ってたんだし、知ってるだろ。」
「永島先輩が時々ああなるのは知ってましたけど、空河たちがああなるのは知りませんでした。」
「・・・。」
「ハイパーに問題起こしてんじゃねぇよ。バーカ。行けー。」
朝風が声を上げても783系は動いてくれない。
「留萌。こいつ死刑でいいよな。」
「死刑はよくないと思います。せめて無期懲役にするべきです。」
潮ノ谷が話に入ってきた。
(なんだよ。さっきまでついていけないみたいなこと言っといて・・・。)
「だって、無期懲役でも動いてくれなかったら無期懲役にする必要がないだろ。」
「じゃあ、無期禁固の刑にすればいいと思います。」
「無期禁固って。」
「潮ノ谷さん。禁固は面白くないから今この場で殺すべきです。」
空河は禁固に反対のようだ。
「分かった。」
ちょっと全員が言いたいというようになるのを抑えてから、
「よし、今から「ハイパーに問題を起こす子」に対する動いてくれないか裁判を始める。」
「なんですか。そのギャグ漫画的な裁判は・・・。」
潮ノ谷が声を上げる。
「弁護人静かに。」
「俺はいつ弁護人になった。」
「さっき。」
(いい加減だな・・・。)
「裁判長。この「ハイパーに問題を起こす子」は幾度の展示で動いてくれなかったそうです。検察側として、死刑を求刑します。」
留萌が言う。
「それに異議はありません。」
空河の声が聞こえる。
「同感です。レールクリーナーをぶちまけても動いてくれないなら、そうするべきです。」
「・・・。」
「静粛に。」
手をたたく。
「意見を言いたいようだが、ここは弁護側、検察側の意見は省略いたします。」
「その時点で裁判になってねぇよ。」
潮ノ谷のツッコミが飛ぶと、
「朝風。これあの箱の中ツッコんどけ。」
「はい。」
「先輩たちはいったい何がしたかったんですか。」
「何も。」
僕、留萌、空河、朝風の声がそろう。
「・・・。」
永島家の人々。関係する人々。
永島宗一。祖父。79歳(2008年当時)。
遠江急行4代目社長。2010年3月31日付で、すべての経営を隆則に譲っている。
永島香奈枝。祖母。76歳(2008年当時)。
永島隆則。父。49歳(2008年当時)。宗一の三男。
2010年4月1日から遠江急行5代目社長。
永島和。母。45歳(2008年当時)。
南駿。隆則の姉雅美の息子。25歳(2008年当時)。
幼少期の遊び相手。幼稚園に通っていた時、駿とほぼ鉄道のことしか話していなかったため、小学校の時の閉じこもる原因を作ってしまう。