95列車 お見舞い
11月22日。
「萌。ちょっと新聞持ってきてくれないか。」
拓真父さんに言われて、新聞を持ってくる自分にはそんな時間ないのだが・・・。
自分は新聞を持ってくる間にあることに気が付いた。
(キラキラ展・・・。)
「もしかしたら。」
ナガシィの家の方向を見てつぶやいた。
自転車に乗って、芝本駅に急いだ。今日はいつもより1分遅れている。さっき呼び止められたせいだ。チャリをいつもより少し早いスピードでこいで芝本に到着。ナイスパスのカード読み取り機にあてた時間は6時48分。何とか同じ時間に着いた。
「おはよう萌。」
そこにすでにいた薗田が話しかけてくる。
「あれ。今日は梓と一緒じゃないの。」
「梓カゼだって。迎え行ったら梓の母さんからそう言われた。」
「へぇ・・・。」
「今日お見舞い行ってあげないとなぁ・・・。」
「その前にどうするのよ。授業のノートとか。」
「そっちは大丈夫だよ。ふつうに夏紀に見せてもらうと思うから。」
「・・・。」
黒崎が言っていたが薗田の言うことはほとんどが当たっているらしい。そっちの心配する必要はないのだろうか・・・。だが、カゼとなるとカゼをひいているほうが心配である。
「なんでかなぁ。」
「このごろ一気に寒くなったからじゃない。梓の場合だったら夜遅くまで何かしてたんじゃないかなぁ。例えば鳥峨家君の似顔絵描いてたとか。」
「・・・。」
(なんで安希にはこういうこと分かるのかなぁ・・・。)
「いや、それないんじゃない。」
「そうか・・・。なんかありそうな気がするんだけどねぇ・・・。でも、梓がそういうことしてるの見たことないし、そうなのかなぁ・・・。」
自分は心の中で落ち着いた。
学校に行ってそのことを磯部と端岡に話す。
「えっ。梓今日休みなんだ。」
「・・・。」
「よし。学校終ったら全員でお見舞いに行くか。」
という話になったので、
「というわけで。」
「だから来たわけね。」
黒崎は迷惑そうな顔をしたが、
「でも、ありがとう。」
と言っていた。
「で、梓。突然ですが、国語から出されてた課題のほうを。」
薗田は自分のバッグの中から課題のプリントを出す。
「はぁ。安希がうらやましいわ。」
「・・・。それはあたしへの当てつけか。」
「安希は別に問題ないだろ。自分の勘があるんだからそっちで解けばいいじゃん。」
「・・・。そう言わずに解いてよ。」
「うるさい。」
「まぁまぁ、安希は梓に余計な手間かけさせない。」
「夏紀の言うとおりよ。」
薗田はそう言われると課題をやってもらおうというのはあきらめた。課題をバッグの中にしまう。
その頃私は本棚のほうに目を通していた。相変わらずサスペンスがぎっしりだ。
「梓って「西村京太郎」も読んでるんだ。」
「いや、ただサスペンスが好きなだけだよ。」
「萌だったらその中に出てくる電車全部理解できるよねぇ。」
磯部が言う。
「いや、全部わかるってわけじゃないけど・・・。でもだいたいは分かるね。」
「じゃあ、この車両なんて言うの。」
薗田が机の上に置いてあった単行本を手に取っている。
「あっ。それは583系だね。」
「よく、これだけでそれが分かるなぁ。」
「えっ。だって側面青だし、国鉄色だし。これくらいふつうだよねぇ。梓。」
(ふつうじゃないと思う・・・。)
「・・・。」
向こうは向こうで話に花が咲いている。
「あたしはあれも読むんだけど何が何だか分かんないんだよねぇ。ていうか、ふつう読んでてそういうこと気にしないと思うけど。」
「萌だから気になるんじゃないの。」
「・・・。」
「あれ読んでもあたしにはわかんないから。」
「こっちにはそれじゃなくてストーリーが通じてくればいいってことか。」
「まぁ、そういうこと。」
「梓ってギャグにはしないんだな。」
どういう意味という声がそろう。
「いや、電車にあるから「あずさ」って。」
「・・・。」
すぐにそういう意味かという言葉が出た。
それから数十分ぐらい黒崎の家にいて、家を出た。
「1時間ぐらいいたかなぁ。」
磯部が口を開く。
「1時間はいないんじゃないのか。」
端岡が答える。
遠州鉄道の踏切のところまで来ると警報機が鳴って遮断機が下りる。行く手をふさがれているので、踏切を見る。列車が行く方向は西鹿島方面を示している。
(向こうに行く列車か。なんだろう。)
その方向を見てみる。
するとこちらに近づいてくる見慣れた車両があった。番号はまだわからない。だが、シングルパンタグラフということは2000形4本のうちの1本か、1001号というのだけは分かる。
近づいてきて、ようやっとその車番が明らかになった。
「これに乗ってきた人死ねばいいのに。」
とつぶやいた。
「えっ。死にたくても死ねないよ。」
その言葉を聞いて磯部があわてる。
「・・・。」
「おいおい。逆にあれに乗るなというほうが無理だぞ。」
端岡が続ける。
(そりゃ。分かってるけどさぁ・・・。)
遮断機が上がって、せき止められていた車が動き出す。自分たちもそれにつられて自転車を進め始めた。
(今日は確か2003と2001が動いてたから、また無いじゃん・・・。)
それを考えるだけでなけてきた。今西鹿島に行ったのは2004。
11月24日。
「梓。おはよう。」
そこにはいつものように黒崎の姿があった。まだ完全に治ったという風ではなくマスクをしていた。
「よーす。元気になったみたいでよかったよ。」
「・・・。」
しばらくすると接近チャイムが流れて、電車がホームに入ってきた。
「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。ファァァァァァァァァァァァァ。」
前の1000形の音が高い声にかき消されていく。
(2000形。)
うれしかった。
来た車両は2002。昨日2001、2003、2004が動いていたからだろう。それを考えれば当然の車両が来たのだ。
「萌の言う2000形っていうやつか。」
薗田が聞いてくる。
「そうだよ。これに乗れば。いやでもこれに乗りたくなるよ。」
(そういう感じは相変わらずわかんないんだけど・・・。)
「反対列車到着までしばらくお待ちください。」
「・・・。」
(この人どうかしちゃったのかなぁ・・・。)
「失礼いたしました。ドアが閉まります。」
というとすぐにドアが閉まった。そして、カクっと揺れて、芝本を発車した。
萌はその車掌の後姿を見送っていると、
(プロでも間違うことあるんだ。超恥ずかしいけど。)
「どうかしたのか。」
相変わらずすごい勘の良さだ。
「えっ。さっきあの人間違えたからそういうこともあるんだなぁと思って。」
「どういうこと。」
「さっきのアナウンスで「反対列車到着までしばらくお待ちください」って言ったじゃない。」
(そう言ったの。)
(それがどうかしたのか。)
二人を見ているとどうもわからないという反応しか返ってきそうにない。
「どうかしたのか。」
首をかしげている二人にあきれるしかすることがない。
「あっ。」
薗田が小さく声を上げる。どうやら分かったみたいだ。
「反対列車が来ないのに、そう言っちゃったんだ。」
「成程。」
「そういうこと。あれて超恥ずかしいよねぇ・・・。」
「・・・。」
恥ずかしいといったこの意味は分からないわけではなかった。むしろどれほど恥ずかしいというのかは自分たちでも認識できたほどだった。
今回からの登場人物
坂口家の人々
坂口拓真
岸川学園の教師の由来。
安曇川正司。鉄道研究部顧問。登場時58歳。
由来は湖西線安曇川駅。
山科雄哉。鉄道研究部副顧問。登場時27歳。
由来は東海道本線山科駅。吹奏楽部も見ており顧問。
四ツ谷勘輔。1年5組担任。登場時42歳。
誕生日 1967年10月9日 血液型 O型 身長160cm
由来は中央線四ツ谷駅。担当クラスの生徒に大学ノート3ページをやらせる勉強熱血漢。
鳥栖和彦。2年6組担任。登場時43歳。
誕生日 1967年12月11日 血液型 B型 身長 171cm
由来は鹿児島本線鳥栖駅。基本放っておく主義。