93列車 遠鉄フェスタ
モーターの音がする方向。それはバンが止まっている方向だ。
いきなり、暗赤色の車体が姿を現す。その車体には横に白い帯が入っており、その帯の上は黒くくりぬかれている。そのくりぬかれた向こうに赤と緑で「新浜松行きです。」の文字が見える。
ゆっくりそれが通り過ぎる。車体の一番下はバンの運転台の位置。座席があると思われる部分はバンの屋根。
2103の数が通り過ぎるのが見えた。
「ファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ。キィ。」
小さい音を立てて2003がバンの前に立ちはだかった。
こうしてみると車などいかに小さな存在かわかる。電車と車が衝突するというのは今あまり見られなくなったことだが・・・。
車が電車と衝突する時僕は今までヘッドライトのあたりまで車の高さがあるから、電車のほうも被害も受けるのかと思っていた。だが、それは違うというのがここではっきりする。電車が車に激突するとき車が当たっているのはバンパーで車体ではない。バンパーには当然のことだが連結器がついている(隠している場合もある)。つまり電車は連結器が車にめり込んでいるだけでほとんど被害を受けないのだ。
そして、当の車のほうはというとそのまま電車に押される状態で移動する。そのため、電車が止まった時には車はちょうどいいくらいのミンチになるのだ。
「こうしてみるとでかいですね。」
潮ノ谷がぽつりと言う。
「そうだな。」
僕がそれにこたえる。
(電車ってこんなに大きかったっけ。)
ふとそんなことを思った。僕たちが見ている車体はいつもホームの上からとほとんど決まっている。その時には電車がこんなに大きなものだとは感じない。しかし、下から見ると大きいものだ。恐らくホームで見る大きさが「ホオジロザメ」なら、ホームなしで見ている大きさは「シロナガスクジラ」を見ているようなものだろう。
とまぁ、どうでもいい話。
「普段見てるホームからじゃこんなに大きいなんて思わないなぁ・・・。」
木ノ本がつぶやく。
「ほとんどの電車の身長が4メートルくらいだからなぁ。実際見ると実感できるわ。」
留萌が続ける。
「おい。浸っているとこわるいんだけど、自分の仕事やってくんない。」
箕島が言う。その声で全員仕事に戻った。
設営が完了したのは6時30分ごろだった。
「みなさんお疲れ様です。」
設営終了がしたことをアド先生が告げる。
「それでは今日の部活は終了したいと思います。私のウィッシュ出来た人はウィッシュのほうへどうぞ。それとバンのほうも少し乗れるので、乗りたい人は乗ってください。」
そう言ってからアド先生は僕のほうを向いて、
「永島君は、ここで解散でいいかなぁ。」
「はい。」
「じゃあ、当日よろしくお願いします。」
アド先生は僕にそう言った。
僕はその声を聞き終ると、シナ先生たちに声をかけて、ホームのほうに向かった。
今は18時36分。この時間に発車する列車はもうすでにはシャして閉まっている。次の18時48分の列車で芝本まで帰るのだ。
(えーと2004は16時48分ここ発だから。)
自分の頭の中に時刻表を広げる。
(だから次の折り返しは18時かぁ。だから次のるのは2004じゃない。2004の4本あとで2本前・・・。)
浜北で入れ替えた車両を思い浮かべる。
(2001.)
ということは今日は大儲けした日だ。いつも遠江急行のほうにチャリをまわすが、今日は遠州鉄道のほうにチャリをまわしている。最初に乗った車両は2002で、次が2004、最後が2001。3回連続で2000形に乗れるというのはめったにない。
18時38分。その2001が入線する。・・・はずだった。
来た車両は1007号と1002号。ちょっとグロテスクな組み合わせだ。
(待てよ。これって・・・。)
と思って携帯を取り出す。これ以降に夕方の4連はない。つまりこれは・・・。
(萌のやつ最悪だな・・・。)
共感できる。入ってきた順番は1007で1002。1007のほうが西鹿島側についていた。
「明日は1002+1007だよ。」
とメールを打った。
返信は、
「死ねばいいね。それ。」
「おいおい。でも、分かんないわけじゃないんだけどね。」
「ナガシィは今日遠鉄で行ったって言ったよねぇ。何乗った。」
「聞かないほうがいいよ。」
「ウソ。100回死んで。」
「体が持たない。」
「死んでは冗談だから安心して。それにしても何2004なんか乗ってるのよ。」
「しょうがないだろ。来たのが2004だったんだから。」
「今日は1001と2004と1006と1004と1007と2001が動いてたよ。運いいね。」
「確かにそうですね。最初の4連は1006+1003だった。」
「てことは残りは1005以外の1000形か2003+1004?」
「2003はない。ずっと西鹿島にいたから。」
「あっ。今日遠鉄のほうに運び込んだんだ。・・・。やっぱり今日のナガシィむかつく。」
(ハハハ。)
心の中で笑った。ここで朝は2002に乗ったなんて言ったら萌はなんていうだろうか。それを思いながら1002に揺られた。
11月7日。遠鉄フェスタ当日。僕は電車で会場まで向かった。そのほうが近い。
「ファァァァァァァァ。」
という音を立てて2004がホームに入ってくる。隣に入ってきたものは1006。一本ずれてればこれにあたるところだった。それに感謝して乗り込む。乗りこんでみるといつもの席には先客がいる。座っているならあきらめるかと思いその前に荷物を下ろした。
「おい。」
声をかけられる。音源はその人だった。
「何ボーっと突っ立ってるのよ。気づかなかったわけ。」
その人は顔を上げる蒲谷だ。
「蒲谷。」
「遠鉄フェスタ岸川も出るって萌から聞いてさぁ。」
(成程。)
「ていうか。お前なんで最初から座ってたんだよ。」
僕はそっちの方が気になった。
「何、分からない。」
そのあと蒲谷は自分が座っているところの上を指差した。そこにはバッグがある。ちょうど運動部が使っているようなバッグだ。
「今日は久しぶりに安井だったからさぁ、昨日から徹夜して、寝台特急撮ってた。」
「お前もやってるんだ。」
「・・・。あたし持ってどういうこと。鉄研にもそう言う人いるわけ。」
キョトンとした顔になる。
「うん。そんなとこ。」
そのあとはお互い何も話するようなことがなくなったみたいに話さなくなった。二人で前を見て楽しんでいたのだ。時折蒲谷は左手を信号に向けて指差していた。
西鹿島に着くと僕は蒲谷と別れ、展示場のほうへ急いだ。だが、その蒲谷も僕の後は追いかけてきたのか後ろを見てみれば、入り口の近くにその姿があった。
僕が付いた時そこには箕島と朝風と空河と留萌の姿が見えた。木ノ本は今日いないのかと留萌に尋ねてみると、
「いるよ。あすこで「団体」っていうの撮ってる。」
「・・・。」
(確かに。めったに見られるようなもんじゃないしな・・・。)
撮りたい気持ちは分からないわけはない。
その頃・・・、
「おっ。どっかであったりしなかった。」
蒲谷は見覚えのある人に話しかけてみた。
「えっ。」
木ノ本は振り向いてその人を見てみるが、見覚えがない。
「・・・。」
(どういったらわかりやすいかなぁ・・・。)
「よく「さくら」写真撮ってる。」
聞いてみた。
「いや、よくは撮ってないけど。」
(あれ人違いかなぁ・・・。)
「・・・。」
話までは聞こえないが、僕はそれを見ていた。
10時。遠鉄フェスタが始まる。ポツリポツリと客は来ていたが、この時間を気に一気に人が増える。
始まるとすぐに蒲谷は寄ってきて、
「これが岸川のモジュールかぁ。すごいなぁ。」
と言った。
「ナガシィ君が作ったのってある。」
興味ありげに聞いてくる。
「いや、俺が作ったのは今日は持ってきてないから。」
「えっ。そうなんだ。見たかったのになぁ・・・。」
「いや。うちにくればこれよりでっかいのが見られるから。」
「いや、それって萌に失礼じゃない。勝手に彼氏のうちに上がりこんだりしたっていいのかなぁ。」
「・・・。」
「でも、それはいいよ。あたしはこっちより洗車機のほうが興味あるから。終わったらまた来るね。」
と言って外のほうへ歩いて行った。
(洗車機かぁ・・・。)
洗車機と言えば思い出すものがある。昔、遠江急行の車両基地に連れて行ってもらった時だった。その時はお父さんとだったので、いろんなことをして遊んだと思う。その中で一番印象に残っているのが洗車機だ。
洗車機に侵入すると窓全体がまず水でぬれ、外の景色がぼやけて見えるようになる。するとそのぼやけた外から青色のブラシが寄ってくる。それが見えなくなったら洗車機を通過したということになる。このときはまだ幼稚園の時の話しだったので萌とも蒲谷とも巡り会っていない。
「・・・。」
「ナガシィ先輩。」
ちょっと遅れて柊木と北石がやってくる。今日はこれで集合は終了だ。
「永島先輩。キハ22行ってください。」
「おい。いきなりそんなの言っちゃうのか。」
留萌がツッコんだ。
「別にいいでしょ。その隣にキハ56を走らせれば、お互い極寒地仕様で何の問題もありません。」
「・・・。」
「極寒地仕様は今はいいだろ。ていうかなんで極寒地仕様にこだわる。」
「何となくです。極寒地仕様がダメならちょっと緩くしてキハ47とキハ58にしときますけど。」
「いや、だからなんでそんなに国鉄にこだわる。」
「いいじゃないですか。」
「別に悪いとは言ってないって。」
「・・・。」
「分かりました。我慢します。じゃあ、午後は赤いものが飛び散るぐらいにお祭りやっていいですね。」
(それは血祭りっていうのでは・・・。)
そんな感じで展示をやった。数十分すると蒲谷が戻ってきて、僕と話をする。
「今日萌きた。」
「今日はオープンキャンパスに行くってメールがあったから。多分今学校のほうに行ってるが説明聞いてるんじゃない。」
「今から進路の話。早くない。」
「別に早くはないと思うけど。」
「・・・。そうかなぁ。あたしがのんびりしてるだけかぁ。」
「そうじゃないんじゃない。こっちの気が早いだけだと思うけど・・・。俺も一週間前にオープンキャンパスに行ったばっかだし。」
「へぇ・・・。」
(萌ってまさか・・・。)
「どこの学校。」
「笹子観光っていうとこ。」
「聞いたことないんですけど。」
「うん。俺も初めて知った。」
蒲谷とは進路のこととかこの車両はなんなのかとか、ここでとめてなどと蒲谷からの要望を聞きながらで展示をやった。
「蒲谷。あまり止めてって言うのやめてくれよ。」
「あっ。ごめん。つい、ナガシィ君のうちと同じ感覚でいちゃった。」
「・・・。」
そんな感じだった。
それから何時間語って遠鉄フェスタは終了。
僕たちは持ってきたモジュールをバンの中に詰めて、向こうに行く人とここで解散する人にまた別れてここを去った。
僕たちがここから離れるときには朝見た光景はすでになくなっていた。
今回は宗谷学園のほうを・・・。
磯部綾。坂口・端岡の同級生。
由来は山陰本線綾部駅。これは最初由来がないはずでしたが、名前を見たらそうなっていたという裏話あり。
端岡夏紀。
由来は予讃線端岡駅。
黒崎梓。
由来は新宿~松本間の「特急あずさ」。半分薗田のおもちゃ状態です。
薗田安希。
由来は登場時も記載しましたが、東京~広島間の「寝台特急安芸」です。
鳥峨家大希。永島と瓜二つですが親戚同士でも何でもありません。
由来は東京~名古屋間の「特急おおとり」です。