91列車 車掌体験
今日僕はここの厳しさを思い知らされた気分だった。取るのは1000人。受けに来るのは3万人から5万人。よっぽどJRという巨漢に入りたいと志す人が多いということだ。
それだけではないさっきの注意配分力のテスト。そして、クレペリン検査。これらすべてをクリアしない限りなることはできない。憧れだけの世界はシビアな世界でしかないのだ。
「大体の話はこれくらいです。じゃあ、みなさんさっきから気になってるとは思いますが、後ろを見てください。」
難波さんに促されて後ろを見てみる。
そこには顔が321系に似ている電車の模型がある。ある場所は1枚目のドアとシート。後はマスコン、ブレーキハンドルの設備。簡単な電車の模型がそこにある。
「これは今年作ったものです。だからまだこの中がペンキくさいと思いますけど、どうぞ、中に入ってみてください。」
中に入ってみるととても簡単だが、車内はしっかりと作ってある。他にさっき見せてもらったが、車内販売で使われるカートもある。
「それじゃあ、さっき見せてもらったと思うけど、誰かこのレバーを下に引いてくれるかなぁ。」
「引いてみたいです。」
僕がまず名乗り出た。
「それじゃあ、永島君お願いします。」
そう言って僕はレバーに手を掻けようとした。
「レバーを引く前にちょっとこっちに来てくれないかなぁ。」
そういうので乗務員室扉を出て、車両の外に出た。
ここからドアの方向を見てみると上に黄色いランプがともっている信号らしきものと、車体に光っている赤いランプが見える。
「まず、「出発よし。」とあれを指差してください。」
さらに続けて、
「そしたら、「間もなくドアが閉まります。ご注意ください。」という感じでアナウンスをしてもらいます。そしたらドアを閉めてください。ドアが閉まったらあの赤いランプが消滅します。そしたら「消灯よし。」と言ってください。そしたら乗り込んで、乗務員扉を閉めて、窓を開けて、顔を出してください。そしたら、ここにベルがあります。これを2回押して、その上についている非常ブレーキレバーを握ってください。それで終了です。」
と説明された。
やろうとしていることは大体わかる。
「それじゃあ、お願いします。」
難波さんが促す。ちょっとみんなが見ているということが少し恥ずかしくも思えた。
やろうとすると、
「あっ。忘れてた。」
難波さんがつぶやいて、乗務員室の中に入っていく。戻ってくると、
「ちょっと制帽を作ってみました。ちゃんと社章は「笹子」のSになってます。」
(善知鳥先輩か・・・。)
その制帽をかぶって、
「出発よし。」
と言って黄色くともっている信号を人差し指と中指で指差す。
「あっ。JRは人差し指だけです。」
「・・・。」
遠江急行がそうなので、その癖が出た。
もう一度仕切り直しで、
「出発よし。」
乗務員室扉の左側にぶら下がっているマイクを持って、右側についているスイッチを押す。この頃これを押しながらでないとアナウンスできないということが分かった。
「間もなくドアが閉まります。ご注意ください。」
と言って、マイクをもとの位置にかける。乗降がない(あるはずはないが)ことを確認して、レバーを引いた。
ドアがゆっくり閉まる。
「消灯よし。」
閉まりきるとそれまでついていた赤色灯が消える。
乗り込んで、開いている乗務員室扉を閉める。肩くらいの高さについているベルに手をかけ、乗務員室扉の窓を下におろし、顔を出す。
「シャリン、シャリン。」
2回押す。
ベルの上についている赤い取っ手のついた箱に人差し指と中指をかける。右手は下ろした窓の縁に添えて、前を見た。
「結構上手ですねぇ。次、木ノ本さんか留萌さんどうぞ。」
褒められてもなぁ・・・。
萌は・・・、
「それではやってみてください。」
難波さんに促される。
なかなか行動に移せない。
「恥ずかしがることはないよ。ここにいるのはみんな女性ですから。彼氏がいるわけじゃないし、思いっきりやっちゃっていいですよ。」
と背中を押されて、
「・・・。出発よし。」
マイクに手をかけ、口元まで持ってくる。
「間もなくドアが閉まります。ご注意ください。・・・。ドア閉まります。」
2回目の「ドア閉まります」を手短に言ってレバーに手をかけ、下に引く。
「消灯よし。」
乗り込んで、乗務員室扉を閉める。ぎこちない動きで窓を下ろし、顔を出す。それと同時に掌の中にベルのスイッチを収める。
2回「シャリン、シャリン。」と鳴らし、指を上に持っていく。人差し指と中指を赤い取っ手にかけ、右腕を窓の縁に置いた。
(永島君のやり方に似てるなぁ・・・。)
まあ、これは半分マニュアル化しているようなものだし、だれがやっても同じ感じになるのがふつうである。
「それで終わり。」
模型から出てくるなり、そう言われた。
「今日は一人しかいないし、もっと遊んでいいよ。」
「・・・。」
模型を見てみる。
「・・・じゃあ・・・。」
頬が赤くなったことを自分で感じ取った。
一方・・・、
一通り車掌のアナウンスが終わると、
「みなさん本当に電車に詳しい人ばかりですごいですね。まぁ、そういう私もJR西日本と阪急電鉄ぐらいなら少しは知ってますが、」
独り言を言っていた。
「みなさんこれの意味は分かりますか。」
今度は321系の顔の近くに置いてあった信号機を手に取った。
今は真ん中に赤。
「停止。」
これは答えるまでもない。
「じゃあ、これは分かりますか。」
今度は一番上と下から2番目の黄色。が点灯する。
「警戒。」
声をそろえて答える。
「じゃあ、こうなったら注意ですね。」
上から2番目の黄色が点灯する。
「じゃあ、こうなったら。」
一番下の青と上から2番目の黄色が点灯する。
「減速。」
「残りは進行ですね。これの詳しい意味もここに入ってから教えます。」
結構もったいぶったような言い方をした。
萌のほうは・・・、
「これはどうですか。永島君は全部当てましたよ。」
(なんでナガシィのことしか・・・。そんなに顔つきって似てるのかなぁ・・・。)
「停止。」
言うと今度は表示が変わる。
「警戒・・・。注意・・・。減速・・・。進行。」
「これぐらいふつうっていうのがマニアのレベルですかねぇ。」
「さぁ、それはどうでしょうか・・・。」
語尾を濁らせた。確かに普通なのだが。というかこれが言えないとあんたはどういう人というレベルにしかならない。
難波さんは時計を見てみた。
「おお。もうこんな時間ですか。」
時計は15時45分を指していた。
「それじゃあ、さっき受付でもらった紙あると思うから、それに感想とか書いてください。」
と言って、さっき受付でもらった紙に感想を書く。
それを掻き終わったら入口のある2階に上がって、僕たちは一人ずつ封筒をもらった。名前の隣に10000円と書かれている。それをもらうと
「ありがとうございました。」
佐久間が言う。それにつられて、僕たちも頭を下げた。
すると難波さんが入口のほうに回って、ドアを開けてくれた。2回ぐらい「ありがとうございました」を言って、その場を後にする。
10000円の交通補助をもらうと、
「ありがとうございました。」
と頭を下げる。難波さんと同じ鉄道学科の人に見送られて、緑地公園のほうに歩いた。
「永島。どう思うここ。」
「うーん。見た中では一番だな。」
(そりゃ。まだオープンキャンパス行ったことないんだしな。)
「だろ。俺将来ここにしようかなぁって思ってる。」
「・・・。」
僕は木の陰になっている建物の方向を見た。
萌は木の陰になっている建物の方向を見た。
(俺がくるところは・・・。)
(ナガシィがくるところ。そして、私が来るところは・・・。)
心の声がそれ以上のことを言わなかった。
(ここしかない。)
今回は現在の高校1年生です。
柊木翼。描いてませんが天然です。
由来は上野~山形間の「特急つばさ」。
北石正斗。1年生の中ではしっかり者です。
由来は函館~札幌間の「特急北斗」。しっかりしすぎている感が鉄研の中にあるため、そうそうこの部活を遊び部と勘違いしたことがあります。
隼結香。VVVF専門の音鉄です。
由来は東京~西鹿児島間の「寝台特急はやぶさ」。電車に乗車する際VVVFインバーターの車両に乗った時はイヤホンを外します。なお、彼女はどれが動力車なのか分かっていません。
潮ノ谷あまぎ。一言で変わりものです。
由来は東京~伊豆急下田間の「特急あまぎ」(現「踊り子」)です。