90列車 本性の刃
初連載がここまで続くなんて・・・。自分でも思ってもみなかったです。この先にさらに続きがあるなんて・・・。気が遠くなる。
地下鉄御堂筋線という路線に乗っていく。御堂筋線を走っている車両はほとんどが千里中央というところまで行っているが、御堂筋線の終点は江坂で千里中央ではない。江坂から先は北大阪急行という社名の路線に変わるそうだ。なので、江坂で乗務員の交代もある。その江坂を越えて一駅目緑地公園というところで降りた。
「佐久間。ここから近いのか。」
「ああ。歩いて一分もないところにあるぜ。」
さすがにこれは冗談だと思ったが・・・、
「ここがそれさ。」
改札を出て、その先に延びている通路を通って、自動ドアの入り口を出て、ちょっとトンネルぽくなっているところを出ると佐久間が右を指差した。そこの茶色い建物がそうらしい。
(本当に一分も歩かないところにあった。)
心の中の声がそう言う。
その方向に歩いていくと前に道が広がった。ここはふつうの車道で、時折車が走っていく。だが、向こうの混まない脇道ほどの交通量なので、そんなに危険ではない。道に出たところからちょっと右に歩いていくと誰かが建物の前に立っている。
「こんにちは。」
その人は僕たちに挨拶して、学校のドアを開けた。
中に入ると、ここはホテルかと勘違いするほどの作りだった。上の階までの吹き抜けになっている。だが、目線を落とせばここがホテルでないことはすぐに分かる。この部屋の真ん中ぐらいのところにおいてある机に受け付けを済ませる。そこで、2枚の紙をもらって、入り口(僕たちが入ってきた側)から見て右にある机でここの名前・住所などを書いて、学校の人に渡す。今はどこの専門学校でもこういうことをやっているのか。全員が描き終わるのを待って上に案内される。5階に着くとそこのフロアにいた人に案内され、いちばん近い部屋に入った。
部屋に入ってみると男子が一人もいなかった。
萌は・・・、
(緑地公園から歩いてすぐって書いてあるけど、こんな近いとはなぁ・・・。)
駅出てすぐのところでそう思った。徒歩一分を徒歩30秒に改めればいいのではないかと思う。
学校の建物のほうに向かって歩いていくと学校の生徒がいる。その人に案内されるような形で、学校の中に入り受付を済ませる。もらった紙に名前を書いていると、
「君も静岡なんだねぇ。」
その紙を受け取った人がつぶやいた。
「ひょっとして、佐久間君とか知ってる。」
誰のことだろうか。岸川の鉄研の人たちのことだろうか。
「佐久間君は知らないですけど。」
そう答えると、
「じゃあ、永島君の知り合いかなぁ。」
相手は別の選択肢をすぐに用意した。これには小さくうなづいた。
「そうだよねぇ。永島君とすごく似てるもんね。」
相手は笑いながら、エレベーターのほうに案内した。
5階エレベーターで上がり、案内された部屋に入ると、ものの見事に女子しかいなかった。
この学校がどういうものか。そういう説明を聞いてから学校内の説明し入る。
僕たち(萌)が集合した部屋から出て、左に進路をとり、いちばん向こうの部屋。ここにはエアラインの教室がある。ここには使われていた旅客機の座席を使って飛行機の中が再現されており、頭上にある荷物棚はもちろん開閉できる。その隣にある部屋がカウンターサービスの教室。その隣は同じカウンターの教室だが、使うのはホテル学科の人たち。だから、作りはホテルのロビーそのものになっている。その隣はホテルの部屋そのもの。ベッドは学生の人たちがお客様が入る前の状態にしているそうだ。そして、集合した部屋の後ろにある部屋。そこは空港のグランドスタッフ養成の教室だった。
階を上がって最上階にあるのが模擬結婚式を行える部屋と全員が共同で使う部屋。いわゆる食堂っぽいところ。表現しずらい・・・。外に出て、中に畳が引かれているのが茶室だそうだ。
階を降りて、1階ここにはパソコン室や英語検定などの対策をとることのできる教室がある。当然どの部屋もパソコンがびっしりとおかれている。この中で発音の検定を対策するところはちゃんと発音しないと次に進めないというシステムをとっているらしく、嫌でも上達するらしい。なお、ここには鉄道学科が使う部屋もある。それはあとで説明することにしよう。
なお、ここの専門学校は1階には入口はなく2階に入り口がある。ここに案内される間にそう教えられた。
学校の中を一回りしたところでさっきの部屋に戻ってくる。ここからはそれぞれの学科に分かれて、模擬授業がある。
「鉄道学科を希望される方。ご案内いたします。」
さっき入口で迎えた人とは別の人が部屋の入り口に立った。その声と同時に僕たちは立ち上がって、それについて行った。
萌は・・・、
「鉄道学科を希望される方。ご案内いたします。」
その声につられて立ち上がる。
(えっ。鉄道学科希望私だけ。・・・。超恥ずかしい。)
こっちを見る目線が少し痛い。
足早に部屋を出た。
「恥ずかしいの。」
案内している学生が話しかけてきた。ちょうどその人も女性ということが救いだった気がする。
「はい。」
「それは鉄道学科で女の子って少ないからね。あたしの時もそうだった。気にすることないよ。」
相手はそういう気持ちを和らげてくれるような笑顔だ。次第にそういう気も薄れていった。
僕たちは・・・、
さっき案内された部屋に着く。この部屋に入って、右側には電車のイラストや写真が飾られている。入って順番に151系のイラスト。その次は300系・700系・N700系・「ドクターイエロー」が写った写真。EH500(金太郎)のコンピューターグラフィック。そして、この飾ってあるものが終わろうとしているとき、前に人がるのは3列に並んだ机。それぞれには3人ずつ座ることができるようだ。その中の真ん中の席に腰掛けた。
「はい。佐久間君。お久しぶりです。」
教卓の向こうに立っていた講師らしき人が話を始める。
「で、永島君。木ノ本さん。留萌さんは初めましてということで。」
その人は一呼吸おいて、
「この子たちはみんな鉄道研究部の仲間ですか。」
と佐久間に振る。佐久間はそうですと答えて、
「そうなんだ。今日はみんな佐久間君に連れられてきたってことだな。」
(いや、それは違うような気が・・・。)
「と、まだ私の名前を言ってませんでした。名前は難波佐紀と言います。どうぞよろしくお願いします。」
難波さんはそういうとまた話し始める。
「えー、私はほんのちょっと前まで阪急電鉄のほうに勤めていました。ちょうどその阪急電鉄のほうをクビになった。ああ、クビになったじゃなくて、退職しまして、そしたら、こっちで働いてくれませんかという風に声をかけられたので、こうして講師をやっております。佐久間君には前はなしましたから、覚えてますよねぇ。」
「あー。」
「忘れちゃったかなぁ。どうでもいい話でした。・・・。」
そういうとさらに続けた。
萌は・・・、
「坂口さん。初めまして。私、難波佐紀と言います。どうぞよろしくお願いします。」
と言ったら、
「坂口さんって、永島君の知り合いですか。」
「えっ。」
いきなりこう質問されるとは思ってなかった。難波さんはどうもこの反応は本当らしいと思ったようで、
「そうだよなぁ。いとことかそういう関係だろうねぇ。顔つき似てるもんなぁ。」
と言っていた。
こっちの話はこれぐらいで切り上げ、あとは自分の話になっていった。
「ところでこれ知ってるかなぁ。」
難波さんは僕たち(萌)の前で円グラフを書き始めた。それをはず半分。そして半分に区切った左側をさらに区切る。とてもきれいに切ったケーキではない。そして区切られた円グラフに5、10、25、50という数字を書いた。円グラフの隣には書類、適性、面接、筆記と書いた。
「多分皆さんJRに入りたいと思ってると思うんで、JRで話しを進めさしてもらいます。この書類、適性、面接、筆記。どれが当てはまると思いますか。」
こんなこと聞かれても分かるはずがない。
「間で答えてくれて結構ですよ。永島君はこれどう思うかなぁ。」
まずは僕に振った。数字の小さい順に書類、筆記、適性、面接。
次は留萌に振り、数字の小さい順に書類、筆記、面接、適性。木ノ本は書類、面接、筆記、適性。
萌は数字の小さい順に書類、筆記、面接、適性。
「この中でこれ全部当てた人がいます。」
全員が答え終わったところで難波さんはそう言った。
「全部当てたのは留萌さんです。」
「おお。留萌スゲェ。」
「だって聞いたことあるもん。」
「つかぬ事を聞きますが、留萌さんのお父さんかお母さんJRで働いてませんか。」
「はい。父が・・・。」
「そうかぁ。じゃあ、他にこれが必要だってこと聞いたことない。」
他に聞いたこと。いったいなんなのだろう。
(クレペリン検査。)
頭の中にそれが浮かんでくる。とっさに、
「クレペリン検査。」
と言った。
「クレペリン検査かぁ。確かにそれもあるけど、まずはこっちもみんなにやってもらいます。」
と言い、紙が配られる。これには0から48まで数字が入っている。数字は0が真ん中に置いてあり、他の数字は何の規則性もなくただ埋まっている。これは・・・。
「これから皆さんにはこの0から48までの数字を指でさしながら、1、2、3、4、と言ってってもらいます。時間は私が計りますんで、しっかりと大きな声で言ってってください。」
と言われた。難波さんのスタートという声で始める。見かけに騙されるなとはこのことだ。探し始めると次にある数字がどこかわからなくなる。何とか48まで言い切ると、
「やっぱりJRの人が親だとちがうねぇ。留萌さんは2分03秒。木ノ本さんが2分54秒。永島君が2分56秒。佐久間君が3分03秒でした。」
と結果を言ってくれた。
萌の結果は2分59秒だった。
「ちなみにこれは注意力を測る注意配分力というテストです。これも適性検査の一種でボーダーは2分30秒です。」
2分30秒ということは僕は26秒ボーダーに届かなかったことになる。
「まぁ、今これでボーダーに届かなかったからって落ち込むことはないです。ここにくれば必ず上がります。」
難波さんはそう言ってくれた。確かに、その通りだ。
「では次にこれをやってってもらいましょう。」
と言って難波さんは長い紙を取り出した。2枚取り出して、1枚は後ろの木ノ本と留萌に。もう1枚は僕と佐久間が見た。
何とも頭が痛くなる紙である。ここには0から9の数字が規則性なく並んでいる。それも逆さまに印刷されているのだ。もらった瞬間に正位置にしようと思うと止められた。
「上下逆さまで何とも気持ち悪いものですけど、ひっくり返してください。これで不通になりましたね。それでは永島君(坂口さん)。そこに書いてある数字を言ってってください。」
そこに書いてある数字を順番に言っていく。
「はい。もういいです。それでは木ノ本さん。この7と8を足してください。」
「15.」
「はい。そうです。次も続けてよろしくお願いします。」
「17、11、4、9、・・・。」
出てくる数字もきれいではない。
「それでは留萌さん。この数字どうすればいいかわかりますか。」
「えーと、確か。一桁目だけ書いてく。」
「正解です。」
そういうと二けたになった数字の1を消していく。
「これがさっき留萌さんが言ってくれたクレペリン検査というものです。これはどこの鉄道会社も共通でやっているもので、これをクリアしないと運転手になることはできません。それも皆さん、全員運転手になって退職までそのままだと思いますから、3年に一回これを受けないといけません。ちなみに私の友達はこれ4回目。12年目で落ちました。」
(シビアだなぁ・・・。)
(ナガシィと同じところに上るためにはこれが必要・・・。)
だが、この後さらに驚くべき事実を突き付けられることになる。
「それでは皆さん。毎年JRは何人ぐらい人をとると思いますか。」
500人、1500人、500人、500人。僕、留萌、木ノ本、坂口の順だ。佐久間はこの事実をもうすでに知っているため、答えていない。
「これは毎年1000人取ります。じゃあ、これに受験しに来る人どれぐらいいると思いますか。」
5000人、10000人、20000人、5000人。僕、留萌、木ノ本、坂口の順だ。
「特に永島君(坂口さん)は甘いなぁ。そんなんじゃこの中はいれないよ。ここには毎年・万人から・万人受けに来ます。」
(ウソ。)
(そんな中に・・・。)
受験者数は最大ぼく(萌)の・・倍だった。
今回からの登場人物
笹子観光外国語専門学校講師
難波佐紀 1970年生まれ
今回は元2年生の紹介です。
鷹倉俊也。鉄研の迷惑な車両鉄。
由来は北陸本線の「特急はくたか」。
楠絢乃。善知鳥先輩のおもちゃ(印象)。
由来は近畿日本鉄道の楠駅ですが、当時この読み方を知らなかったため、こういう結果になってしまいました。