89列車 大阪まで
今携帯電話の端末を見ている。
「一番早くいきそうな日っていつ。」
「あっ。それは聞いてなかった。」
「日にちが重なってたらばれちゃう可能性あるんだからね。」
「いや、今ばれちゃうとか言っても・・・。ばれちゃっても関係ないでしょ。」
メールではそう打ったが、萌には関係あることなのだろう。そこは目をつぶることにした。
端末を閉じる。
(もしナガシィがこの学校に行きたいと思ったら、ここ以外考えない。それでいい。)
10月25日。
「佐久間。昨日のこといくことにしたから。」
そう話しかけた。
「そう。じゃあ、放課後俺も部活いくからその時に登録しといて。」
「お。おお。」
放課後・・・、
「えーとまず、笹子観光って打って。」
「笹子観光。」
復唱して、3を4回×2回。2、5回。順を追って笹子観光と打った。
「登録ってどうすれば。」
木ノ本もそういうことを聞いていた。ということは木ノ本もそのことは知らないのだろう。
「ああ。まずは笹子観光で・・・。」
笹子観光と打つとそれで検索がかけられ、引っかかったものが表示される。
「この中でどれだ。」
「その一番上のやつ。」
そこに動かしていって、決定ボタンを押した。そうすると何やら派手なページが表示される。
「そこにイベント・オープンキャンパス申込みってところがあるだろ。」
ということを言われ、そこに動かしていく。
ここのページはいろんな打つものが表示される。名前、住所、志望学科などだ。それらすべて打って、登録を申請する。すると、すぐにメールが返ってきた。
「よし、これで登録完了だ。」
そのメールに目を通していると、
「10月31日。31日って日曜じゃねぇか。」
「しょうがねぇだろ。そこ以外行くところがないんだから。」
「・・・。でも、次の日学校だぞ。」
「今になってそこ気にするな。」
正直気にしろよと言いたくなった。
これはもう遅いこと。仕方がないので、それで通すことにした。
家に帰って、
「ちょっと大阪までオープンキャンパス聞きに行くことにした。」
とメールを打つ。
「大阪のなんていう学校。」
「笹子観光外国語専門学校。」
「へぇ。ナガシィはそこに行くつもりなのかぁ。」
「ああ。鉄研の人が言うには結構設備がいいらしいけど。」
「なら信じちゃっていいんじゃない。後は見に行けばいいだけなんでしょ。」
「そうだけど。」
「ナガシィちょっと疑ってない。」
「なってるって思った。」
「勘違いかも。じゃあ。」
(勘違いかぁ。確かに。設備がいいなんてこの目で見ない限り信じられない。)
翌日。
「佐久間。行くことは決定したとして、大阪まで何で行く気だよ。」
「えっ。」
佐久間はとぼけたような顔をした。とぼけるなというと、
「大丈夫だよ。ちゃんと考えてる。」
と返答してきた。
「9時50分の特快で大垣まで行くじゃん。そしたら、12時12分の普通で米原まで行って、米原から12時52分の新快速で大阪に14時13分に着く。これでいいだろ。」
なんかおかしいと思った。
「それだけだろ。あれって確か開始が13時からだったぜ。」
「だって最初はこの学校はどうこうこんな感じですって言うだけだぜ。それ聞きたいか。」
「いくらそういうのだって言っても聞いとかなきゃダメだろ。」
「永島の言うとおりだな。ここは永島が正しい。」
箕島が言う。
「旭川が言ってたけど、専門学校とかは遅れてくるやつのことは徹底的にチェックするって。遅れてくと進学の時に不利だぞ。」
「なんであんな奴らの言うこと聞かなきゃいけないんだよ。」
「少なくとも俺たちより長く生きてきた人の言うことは正しい。見習うべきだろ。」
「まぁ、これから時間に遅れちゃいけないやつらが行くところに遅れていくっていうのもダメだな。」
「分かったよ。じゃあ、8時10分の普通で豊橋まで行って、そこから8時49分の特快で米原まで行って、米原から10時52分の新快速で大阪に12時13分。これでいいのか。」
「ああ、それでいい。」
これでいく行き方も決定した。
萌のほうは・・・、
「やっぱり8時10分にここを出て行ったほうがいいよなぁ。」
独り言を言った。時刻表をめくって、調べる。
「えーと、このままいくと8時49分の特快かぁ。これで米原まで行って、米原から223系で飛ばしていくっていうパターンね。」
(大阪の到着時刻12時13分。遅れてなきゃこれでつくね。)
頭の中でどう行けばいいのかを練る。
「萌、そろそろ行くよ。」
黒崎が声をかけてきた。
「・・・。」
声をかけても反応がない。
「萌。」
今度は肩をたたいた。
「えっ。何。」
「どっか行くプランでも立ててたのか。」
「うん。まぁ。」
「早く帰ろう。用は済んだし。」
黒崎は持っている袋を見せる。
「分かった。じゃあ、行こうか。」
歩き始めると、
(いつもはあたしたちに急いで急いでって言うのに、今日は逆とはなぁ・・・。)
萌の姿を見ているとそう思えてくる。
「何。梓。」
「えっ。なんでもないよ。」
「そう。」
頭の中を整理する。
(私が行くのは11月7日。ナガシィたちは31日にいくからバッタリ会っちゃうこともない・・・。)
そうしているうちにその日が来た。
「よーす。永島。」
「おーす。」
木ノ本と改札口の前で会う。
「佐久間のやつ遅いなぁ。」
「まぁ、いいんじゃないの。いつものことだし、俺はもう大阪まで切符買っといたから、木ノ本も買ってくれば。」
「やること早いなぁ。じゃあ、ちょっと荷物見てて。」
木ノ本はそういうと僕にかばんを預けて緑の窓口のほうへ行った。券売機ではここら近隣しか買えないからだ。
戻ってくる間に留萌も姿を見せる。留萌はもうすでに切符を買ってから着た模様で、木ノ本を窓口で見かけたらしい。そのあとに木ノ本が戻ってきて、預かっていたバッグを返す。だが、そうしていても肝心の佐久間が現れない。
(どうしているのかなぁ。)
心配になったので、メールを打ってみる。
「ごめん。寝坊した。」
という文面になっていた。
「ふざけるなぁ。」
このとき全員の声がそろった気がした。
萌のほうは・・・、
(よし。行ってこよう。)
改札を抜けて、ホームに上がる。3番線に止まっていた車両は117系。だんだんと肩が狭くなってきている車両だ。
(おじいちゃんかぁ。時にはお世話になるのもいいよねぇ。よろしく。)
と思って車内に乗り込む。
「この列車はふつう豊橋行きです。終点豊橋まで各駅に止まってまいります。発車まであと5分少々ございます。ご利用されますお客様、発車までご乗車になってお待ちください。」
と車掌のアナウンスがある。
(皮切りが117系。次はふつうに313系。その次はふつうに223系・・・。乗る223系は1000番台のほうがいいなぁ・・・。)
考えを巡らせているとその時間が来て、117系は小さく揺れて浜松を発車していった。
一方・・・、
「佐久間。俺たち先行っちゃうよ。でないと間に合わないし。」
とメールを打つと、
「じゃあ、俺後から追ってくから先行っちゃって。」
と返ってきた。
「だと。先行っちゃうか。」
木ノ本、留萌を促して、改札を通る。ホームに上がっていくと電光掲示板に普通豊橋行き4両の表示がある。
(311系かなぁ・・・。だといいなぁ・・・。)
と思っていたが、そんなに都合よくなっているものではないかぁ。そこにいたのは117系だった。
名古屋まで揺られていって、そこで佐久間が合流。なんと新幹線で先回りしていた。
「新幹線使うくらいなら、早起きする癖つけとかなきゃダメだぞ。」
留萌がそう注意した。
「しょうがねぇだろ。いつもと同じようにいたんだから。」
「そういう認識がダメなの。」
萌は・・・、
(止まっている223系は・・・。)
と思い車体番号に目をやってみる。モハ222-2009。
(2000番台。そう簡単に1000番台は来てくれないかぁ。)
残念に思ったが、ずっとそれにひたっているわけにはいかない。車内に乗り込んだ。
僕たちのほうは・・・、
「さて、止まってるやつは・・・。」
と言って車体番号を見てみる。サハ223-2122。
(やっぱり都合よく1000番台は来てくれないかぁ。)
と思って乗り込んだ。
乗りこんだらこの中間車で止まらないのが鉄則。車内から1号車を目指して歩く。1号車に着いたら4人一気に座れるボックスが開いていたので、そこに腰掛けた。
萌は・・・、
乗っている間琵琶湖側の窓側に座って外を見る。対向車が何かわかるのだ。
「バタバタバタバタ。」
と音がして視界がシルバーの車体に変わる。
(223系。)
後ろに走り去っていく方向に目線を向けると、下にあるテールライトの形のみとらえることができた。
(くそ。動体視力さえよければ・・・。)
今の車両は223系以外見分けることができなかった。
そして、またしばらくたつとまた視界が遮られる。今視界を遮ったのは白の車両だ。下にはブラウンの色が見える。
(221系。)
と思ったすぐ後今度はシルバーに車体の色が変わる。
(6000番台。)
この頃の展示でよく見かける組み合わせだ。
「・・・。」
何か思うものがあったわけではないが・・・。
一方・・・、
「ようやっと大阪に着いた。」
大阪に着いて伸びをする。乗ってきた223系を見送って帰りの時に乗る223系は1000番台のほうがいいと思った。今日見送った223系は後ろも2000番台。臨地研修の時に味わったことは味合わなくて済んだ。
「で、この後どうするんだよ。」
「この後は、地下鉄御堂筋線っていうのに乗って、緑地公園ってところまで行く。」
「ほう。」
佐久間に促される状態で、改札に向かい、御堂筋線に乗り換えた。この後分かったことだが、新大阪から降りたほうが近い。
萌は・・・、
「やっと大阪だ。」
伸びをして、最初のほうに回る。
「お疲れ様。」
と声をかけると、
「トゥン、ティン、トゥン、ティン、トゥン、ティントゥーン。」
と返事が返ってきた。
(あっ。別に鳴らしてっていったわけでもないのに。)
あたりを見回してみると、カメラをホームの床に置いて取っている人がいた。ヤバいと思った。今の言葉をこのカメラが拾っているかもしれないと思ったからだ。でも、済んでしまったことだし、気にしても仕方がないかぁ・・・。
見送っていくと、
「バカ。」
という声が後ろから聞こえてきた。
その意味はすぐに分かった。
(この野郎。一生恨んでやる。)
その答えは後ろが1000番台だったからだ
今回からは元3年生(現在大学1年)の紹介です。
北斎院大智。鉄道研究部部長。
由来は北の大地。さらにいうと「北陸」です。そのままではどうだろうかと思い、難読の中から見つけた北斎院を採用しました。
善知鳥茉衣。鉄道研究部副部長。
由来がありません。
綾瀬健人。鉄研の大工さん(印象)。
由来は鴨宮から綾瀬にかけて敷設された新幹線モデル線の始発です。
名寄真佐哉。鉄研の純鉄道オタ。
由来は宗谷本線名寄駅。詳しいものの中にSLが入っているのは自分にここらへんに機関区があったのではないかという先入観があったからです。