87列車 笑えてくること
10月17日。
「萌準備オーケイ。」
「忘れたものはないよ。」
「あるでしょ。」
答えると磯部がなんか疑るような目になった。何を忘れたのかと聞いてみると、
「何って。とぼけてるんじゃないよ。ナガシィ君だよ。ナガシィ君忘れてるじゃん。」
「案外忘れてるでもないんだなぁ。」
「どういう意味で。」
「ナガシィはもう旅行行ったし、同じ行先じゃあ2回も行きたいなんて思わないんじゃない。」
「成程ねぇ。・・・」
宗谷学園のほうは今日から修学旅行なのだ。
浜松で黒崎、薗田、端岡と落ち合う。グループもこの5人とあとはクラスメイトの稲梓という人が加わる。
「よーす、梓。」
「オース。」
萌は黒崎の顔を見ると少し心配になった。別に自分には何の害もないが、黒崎のほうが大ダメージを受けるからだ。
「どうした。あたしの顔に何かついてる。」
疑問に思ったらしく聞いてきた。
「ううん。そんなことないよ。」
「それよりも梓はさっきから目がいってるのが違うんじゃないかなぁ。」
薗田が冷かすように持ちかける。当然・・・。
「そんなことないってば。」
「ウソ。絶対そう。鳥峨家君の私服姿見るのって小6以来だからねぇ。」
「・・・。」
黒崎たちは黒崎たちで向こうの話に入っていく。
こっちはこっちで置いてけぼりにされたまま。
「にしても、萌は駅のほうから現れると思ってたわ。」
端岡が意外そうな口調で言う。
「なんで。そんなの撮ってる暇ないじゃん。まぁ、やろうと思えばやれますけど。」
「・・・。」
「そういえば、昨日かもめと会ったんだけど。」
「相変わらずだった。」
「うん。こないだなんか東京に行ってカ・・・なんだったっけ。」
何を言いたいのかすぐに分かった。
「「カシオペア」でしょ。」
「そうそれ。」
(やっぱりマニア同士通じるものでもあるのかなぁ・・・。)
「そんなのはなされても分かんないよねぇ。って言っても萌は分かるか。」
「私のほうはそれぐらい分かってふつうですから。」
「・・・。かもめもいろんなところ行ってるよねぇ。東京の前は米原で、その前は名古屋で、その前が大阪だもん。オープンキャンパス行きがてら撮影しに行ってるんだって。」
「やってることが違うよねぇ。」
「まぁ、かもめからしてみてもふつうなんじゃないの。ちょっと前会ったときは浜松に来る列車撮ったら学校に遅刻したって言ってたし。」
(学校に遅刻するようなときに来る列車って・・・。)
頭の中に時刻表を広げる。本屋に行ってよく端岡たちを待っている時に目を通しているため、だいたいの時間は分かる。浜松に学校に遅刻しそうになる時間に来る列車は「寝台特急さくら」ぐらいだろう。
(あれ撮ってたらチャリ飛ばさないと遅刻するよねぇ・・・。)
ちょっと笑えた。
新幹線は8時38分に出る「ひかり461号」これに名古屋まで揺られ、そのあとは「のぞみ」では方まで。この説明で分かるだろう。工程はほぼ岸川と同じである。
「のぞみ」の車内では・・・、
「次梓だよ。」
「分かってるって。」
今やっているのはばばぬき。
「よし、これ。」
「よし。上がった。」
端岡のテンションがちょっとだけ上がる。
「ああ。負けた。」
「こういうのは半分うんだよ。うん。運が悪かったって思いなよ。」
薗田が元気づけるように言うが。
「いいよなぁ。ペアを全部勘でもってける人は。」
僻みにしか聞こえないらしい。
「そういえば坂口さんどうしてるんだろう。さっきトイレに行ってくるって言ったまま、戻ってこないんだけど。」
稲梓は坂口が歩いて行った方向を見て心配する。
「ちょっとあたしもトイレ行ってくる。ちょっと通して。」
黒崎が席を立ち、その方向に歩いて行った。
デッキに行ってみると、
「萌。何してるんだ。」
そこに坂口の姿をとらえる。
「だって。ばばぬき正直言ってつまんないんだもん。」
(子供か。)
「ああ。じゃあ、他の遊びでもするのか・・・。」
そういうとすぐ違うということを悟った。
「成程。トランプよりこっちのほうが楽しいっていうわけね。」
「梓も分かってきたじゃん。」
「・・・。」
目をそらして、
「本当は分かりたくないんだけどねぇ・・・。」
と言った。
「こっちにトイレってある。」
「なんでこっちのトイレ行くのよ。あっちの13号車のトイレ行けばいいじゃん。」
「えっ。そこトイレじゃないの。」
「バカだなぁ。ここは喫煙ルーム。何のための全車禁煙だよ。」
「知るか。あたしは萌みたいに詳しくないの。」
「鳥峨家君の・・・。」
「分かりました。・・・。萌、それ絶対に言ってないよねぇ。」
「言ってないよ。そこまでバカじゃないもん。」
そのあと15号車のトイレに足を延ばして、戻ってくると、
「まだいるの。」
「いちゃ悪い。」
「悪いはないけど、足いたくない。」
「これぐらい耐えられなきゃダメでしょ。これからはずっと立ち業務になるかもしれないんだから。」
「・・・。」
萌はしばらく外を見たままになる。すると客室の自動ドアが開いた。
「なんだよ。トイレじゃないじゃん。」
そう言ってたクラスの男子が客室に戻っていった。
するとその理解の無さにあきれた。
「バカにもほどあるよねぇ。新幹線の奇数号車のトイレがあるっていうのはふつう知ってることでしょ。」
「えっ。」
「梓は知らなくても仕方ないよ。女の子はふつうこういうこと覚えないから。」
「でも、萌は覚えてるんだろ。」
「もちろん。これはどの新幹線でも共通だもん。1個覚えとけばたくさん得することとかあるよ。例えば、席をとるなら何号車がいいと思う。」
いきなり問題を振った。こんなこと聞かれても分かるはずはない。
「えっ。偶数号車。」
「正解。」
この言葉には驚いた。萌には黒崎のポカンとした顔がうつっている。
「簡単に言うと、さっき奇数号車にはトイレがあるって言ったでしょ。偶数号車にはトイレがないから席の数がそのトイレ分多くなる。だから座りやすいのよ。」
「ふぅん。」
「あと新幹線は全部そうっていうのが多いけど、モーターって何号車についてると思う。」
「・・・。先頭車とパンタグラフだっけ。それがついてる車両か。」
「全然違うよ。」
一呼吸おいてから、
「梓ってさぁ、電車の先頭車とパンタがついてる車両に必ずモーターがあるって思ってるでしょ。」
うなずく。
「それは半分当たってて、当たってない間違いよ。先頭車には必ずモーターがついてるなんてことありえないからね。それにパンタついてる車両にモーター付いてるっていうのもあり得ないからね。ここまで言うと混乱するかもしれないけど、パンタが付いててもモーターがついてないってことだってあるし、逆もある。」
「・・・。」
これ以上言うとパンクすると思ったので自制した。
1日目は熊本まで移動したところで終了。2日目は長崎にわたり、3日目はクラスで行きたいところに行って、4日目に自由研修。5日目に帰ってくる。
詳しいことに触れていないが、ナガシィと考えることは同じだったらしく、自由行動中に「かもめ」の写真も撮った。
その帰路だが、ナガシィが見たと思われる100系も見た。
「おっ。ナガシィ君の好きな100系じゃん。取られないように気をつけろよ。」
「これには取られないって。ナガシィ好きだけど、好きじゃないから。」
「・・・。」
この矛盾した意味はこれがまとっている塗装にある。この色はナガシィは好きじゃない。
結構さらっと書いてしまったが、修学旅行はいろいろなことがあって、終了。
そして、この研修から返ってきた今日。新たな進展があった。
今回からの登場人物
宗谷学園
稲梓優貴
引き続き・・・。
留萌さくら。車両鉄。
苗字は北海道にある留萌本線留萌駅から。名前のさくらは寝台特急の話でよく名前が出る東京~長崎・佐世保間の「寝台特急さくら」が由来です。
だから誕生日が3月11日ではないんですよ。