85列車 列車番号と恋話
修学旅行2日目。今日は熊本の水前寺をまわったと長崎にわたる。
「宿毛、今日はどこどう回るの。」
分かってはいるが確認のために宿毛に聞いた。
「今日は水前寺に行って、熊本港に行って、長崎の島原に言ったら水無本陣深江ってところで昼食とって、原爆資料館行って、レストラン行って、ホテルに行く。」
「うーん。飯食べるの。」
「食べなきゃダメだろ。それとも何。食べないつもりでいるのか。」
「うん。」
(否定しないのかよ。)
「まぁ、そんなところ行くんだな。」
「ああ。」
「宿毛、永島。そろそろ集合時間だぞ。」
長浜がそう言って僕たちのほうへ近づいてきた。長浜はすぐに荷物を肩に担ぐ。僕たちも長浜に促される形でバッグを担いだりした。
一階に下りるとバスを待っている他の組の人と会う。だが、だんだんとバスが到着して、ロビーにたまった人を裁いていく。僕たちの乗るバスはすぐに来た。その中に入り込む。バスに乗り込んだら、昨日座った席に行く。ここなら酔わない。
全員集合したところで、鳥栖先生が点呼をとり、全員居ることを再度確認する。それがすんだら、水前寺に向かった。
(そういえば水前寺って確か「有明」の終点だったなぁ。)
ガイドが話していることを聞いていてふと思った。
水前寺に到着。バスの止まっている駐車場からちょっと歩いて水前寺に入っていく。ガイドの説明は前言った通りこの頭が受け付けない。だが、奥にある丘みたいなところがフジサンを模しているということだけはなぜか頭に入った。
水前寺の中を一周し終わると、自由行動に入る。自由行動と言ってもすることがないのには変わりはない。しばらく一人でいた。
(そういえばこの池の中鯉いたなぁ。)
と思い、入り口から一番近くにかかっている橋のところまで行った。
確かにそこには鯉がいるのだ。大きい鯉もいれば小さい鯉もいる。そして、よく分からないが鯉の稚魚らしき魚もうようよしている。いったいこの池には何匹の鯉がいるのだろうか。近くにいる人たちは鯉に餌付けしている。もちろん、ここで売られている餌だ。自分もそれを買って鯉に餌をやる。家にはこういうものがないので、なんか楽しい。変なものにはまるというのが、萌がいう僕の癖らしい。
餌をやり終わっても鯉を見ていることは楽しい。結局自由行動のほとんどの時間は鯉を見ているだけで終わった。
水前寺の次は熊本港。熊本港まで行くバスの中でクラスの人たちがカラオケを始めた。バスのカラオケ機能にはちょっと前の歌謡曲やアニメソングなどが入っていたようで、最近のものは何一つ入っていない。僕だって知っている歌はほとんどないのだが、
(「あずさ2号」。)
この歌だけは目に留まる。これは知っているのだ。ただ、このタイトルがどれほど前の歌であるかを物語っている。みなさん気に留めたことがあるだろうか。
新幹線や特急にはよく「こだま631号」、「のぞみ1号」、「ひかり478号」というように列車名の下に数字が振られている。もちろんこの数字もある一定に規則に基づいてつけられているのだが、これにも意味がある。まず例に挙げた「631」と「1」は下り列車の意味。そして、数字が若ければ若いほど早く発車する。この中では「のぞみ1号」を例にとるが、これは東京~博多間を結んでいる「のぞみ号」の一番列車という意味がある。では「のぞみ2号」はどういう意味があるか。ふつうの考えでいけば、「のぞみ1号」の次に東京を発車する博多行きの「のぞみ」となるだろうが、これの真意は違う。偶数番号は上り列車を表す。すなわち、これは博多発東京行きの「のぞみ号」一番列車を表している。
これをこの歌のタイトルである「あずさ」に置き換えるとこうなる。
「あずさ」は主に新宿~松本間を結んでいる特急。松本行きが下りで、新宿行きが上りになる。つまり、これも前述した考えに基づけば松本発新宿行きの一番列車であるということになる。だが、これの歌詞とこれを照らし合わせると説明がつかなくなってしまう。これの歌詞は遠まわしに「私は東京から離れる」と言っている。そう。東京に近づいてはいけないのだ。なら、なぜ「あずさ1号」ではないのかという疑問がわいて当然だろう。これの答えはこれでも合っていた時代があるだ。
昔この数字は上り・下り関係なく発車する順番で付番されていた。しかしそれでは行先の違う「あずさ1号」が存在することになり、利用する側からすればとても分かりづらい。だから、下りは奇数。上りは偶数という規定が定められたのだ。そう。この歌はそれが施行される前に作られたということだ。
結局僕は何もうたわず熊本港に到着。バスが止まった隣には白の船が停泊している。船の名は「OCEAN ARROW」。
「・・・。」
「おい、「オーシャンアロー」だぜ。」
醒ヶ井が話しかけてきた。これは何の笑い話でもない。
「オーシャンアロー」は京都~新宮間を結んでいる特急の名前。偶然の一致だ。
「「オーシャンアロー」はあいつだけで十分だ。」
「・・・。」
しばらく待っていると僕たちの乗る船が来た。「OCEAN ARROW」とは大きな違いだが、別にいい。これが出向すると船尾にかもめが群がった。ほとんどの人は船と一緒に旅をするかもめに入り浸っている。だが、僕にはそれに入り浸れる余地もなさそうだ。酔わないために座っていないため、ただ船の行く手を見ていただけだ。
島原に到着。ちょっとバスに揺られて、水無本陣に到着。
「ここで昼かぁ。」
ため息が出た。
「おい。そろそろ降参しろよ。」
「分かったよ。」
行ってみると言葉を失った。自分の前に置かれているのは鍋っぽいもの。全員分なため、大きな土鍋が前に置かれているわけではないが・・・。
「これ全部は食べきれないぞ。」
隣に座った坂田が小声でささやいた。
「そうだな。坂田。俺この野菜類はいらないよ。」
「それ言うなよ。俺だっていらねぇよ。」
「うーん。じゃあ・・・。」
僕が考えた策は結局食べる。だが、この前に置かれている量は到底食べきれるわけがないので、自分の腹が受け付けなくなったところで食べるのを辞めた。
昼を食べ終わると近くにある噴火資料館に行った。家が土砂に埋もれている。雲仙普賢岳の噴火による被害だ。もし富士山が噴火したら・・・。自分のところは半分関係ないが、半分関係ある。それだけ思っただけでそれ以後は考えなかった。
そこまで見終わったら次は原爆資料館。この間の道中は全員うるさくない。ほとんどの人が眠りについている。僕だって眠りにつきたいが、この中では眠ることができない。というか、昼寝できないのが僕の体質である。そのため、基本夜以外寝ない。たまにすとんと寝てしまうことはあるが・・・。
諫早湾が見える道路を抜けていったが、どこを走っているのかは検討が付かない。ただ、ここが諫早の近くなのだなぁということは感じだ。それを過ぎてしばらく走ると長崎に到着する。
まずは原爆資料館。原爆資料館到着後は自由行動。中を自由に回ったのち、被爆体験をした人の話を聞く。写真を見ているととてもこの目に入れたいような光景はない。出来れば見たくないというのが本音だ。普段冗談で「核爆弾で何とかする」と言っているがリアリティーがこうなるとは・・・。
話を聞いてから平和記念公園でクラス全員の撮影。これは何に使うのか知らないが、おそらく卒業アルバムにでも使うのだろう。
「卒業アルバムといえばさぁ。」
宿毛が昔の話を引っ張り出そうとする。
「おい。ちょっとそれは。」
僕は止めようとしたが、他の人が興味を持った。
「こいつ。ヘアピンとかつけられて写ってたんだよなぁ。」
「・・・。あれは萌がやったんだろ。」
この話だけには弱い。自分のある意味な弱みである。
ここでの行動がすんだら、次はレストラン。坂の途中にある駐車場にバスを止めて、そこから対岸に渡り、店に入る。テーブルに座るといかにも中華料理という料理が運ばれてくる。テーブルの中心にあるくるくる回る台の上にそれらが置かれていく。別に何の憧れもないが・・・。これも自分の腹が受け付けなくなるまで食べた。
「お前、そんなんで大丈夫か。」
大垣は小食が心配になったらしい。
「大丈夫だよ。これぐらいでも。」
僕はそう答えた。後でガッツリ。どっかで食べればいい。そう思っているからだ。
ここまですんだら、ホテルに直行。自分たちの部屋に入る。
(さてと、ハクタカ先輩ふつうに「かもめ」とかの判断がつくって言ってたけど、どんなふうに見えるのかなぁ。)
旅行に来る前にハクタカ先輩から教えてもらったことが頭の中によぎる。どう見えるのかという一心でしまっているカーテンを開けた。
息を吸い込む。
「何が100万ドルの夜景じゃー。ふざけるなー。」
と叫んだ。前にあったのは教会・・・。
「うわぁ。ほぼ詐欺に近いなぁ。」
「確かに。これはないな。」
後ろで長浜と宿毛の声がする。だが、今の僕にはそんな声は入ってこない。すぐにカーテンを閉めて、2日目の感想を書いた。
その頃坂口は・・・、
(ナガシィ。今長崎にいるんだよなぁ。「かもめ」とか見れたのかなぁ。)
自分の考えていることがそれでいっぱいになる。
(でも、今日は自由行動じゃないって言ってたし、そんなことないか・・・。)
と思ったが、自分の手が携帯に伸びた。
「雷鳥」の始発直後のアナウンスメロディーに設定してある僕の着信音が鳴った。
「・・・。」
端末を開いてみると、萌からだった。
「坂口からか。」
察したみたいで宿毛が声を発する。
「ああ。」
「なんだって。」
「いや、内容は半分どうでもいいよ。」
「好き好きってか。」
「そんな内容じゃないって。まぁ、もし送ってきたとしてもあいつらしくないな。」
「そうだな。」
「なんだよ。こんな時に彼女からメールか。いいなぁ。彼女がいて。」
長浜は嫌そうな目になって僕を見ている。
「別に彼女ってわけじゃないけど、幼馴染だし。」
「・・・。」
言ってなかったが文面は、
「今日「かもめ」とか見た。」
これの返信は当然「見てない」で送った。
「でもいいじゃん。メールする女の子がいて。」
今度は羨ましそうな言い方になった。
「何。長浜彼女いないのか。」
「昔いたんだよなぁ。すっごく好きな人がさぁ。でも、その人俺意外に好きな人がいるって言ってたから、それなら仕方ないなぁって感じで。」
「分かるよ。俺にもそういう人いた。」
今度は宿毛が口を開く。
「まぁ、俺のほうは告れなかったんだけどね。俺が好きだった子さぁ、ほとんど友達と話してたんだよ。時折話もしてたんだけど、どうもいうタイミングっていうのがつかめなくてさぁ。結局そのまま卒業しちゃって。今は時折電車の中で会う程度。その時も「久しぶり」ってこれかけるぐらいしかしてないなぁ・・・。」
「ふぅん。永島はそういう経験ってある。」
話の矛先が僕に向く。
「俺。俺にはそういうことはないよ。」
「そりゃ、そうだろうな。お前の場合は坂口さん一直線だろうから。」
宿毛が付け足す。
「もしかして、さっきメールしてた人か。」
小さくうなづく。左手を頭の後ろに回して、
「でも、宿毛と同じで告るタイミングっていうのがつかめないんだよなぁ。話してる時はそんなこと全く考えないのに・・・。」
(確かに。考える方も考えるほうってなるよなぁ・・・。)
「なぁ、その人って同じ学校の人か。」
「ううん。今は宗谷に行ってる。」
これを聞いた長浜の顔がポカンとする。
「ほとんど終わるっていうのがふつうなんだろうけど、なんかそんな気がしないんだよなぁ。なんかまた同じ場所に行きそうな気がして。」
本音がこぼれる。今まで、萌が自分から離れていくなんて考えたことはない。むしろ、どこかでまた。それとも本当に・・・。そんな気がするのだ。
今回も書くことに困ったので、
坂口萌。1993年生まれ。
本作のヒロイン的存在です。名前の由来として、これは個人的理由からです。
この名前を付けたときは坂口という駅はどこぞにあるかと思っていましたが、実際探してみると無いものなんですねぇ。でも、僕にはこの名前は気に入ったので、彼女には悪いですが、そのままということにしています。
ここで触れるのもなんですが、彼女は基本スカートを身に着けません。
自分の中のイメージこうなんで・・・。