84列車 修学旅行に行ってきます
浜松発車は8時38分「ひかり461号」岡山行き。8時00分にかかっている集合から、一度浜松駅のバスターミナル側に集合する。
「宿毛おはよう。」
クラスメイトの大垣君が宿毛に話しかける。自由行動を共にする班の一人。他に自由行動を共にする人は醒ヶ井と長浜君と坂田君の4人。計6人で行動する。
「お前らも私服かよ。」
坂田君がそう言ってきた。
「えっ。だって私服でもいいって言ってたし。当然私服だろう。」
「まさかとは思うけど制服って俺一人かなぁ・・・。」
坂田はあたりを見回す。時折制服を着ている人も目に入るが全員女子だ。男子で制服というのはいまのところ0だ。
「坂田って私服持ってきてないの。」
と聞いてみる。
「いや、持ってきてはいる。今日は着てないだけ。」
「・・・。」
なら気にする必要もないかと思うが・・・。まぁ、多くの人があることをやっているという状況で一人だけ違うことをするというのは何となく勇気がいる。恐らく坂田の中はいまそのことでいっぱいだろう。
「オース坂田。」
と坂田に声をかける人の声が聞こえる。その方向を見てみると長浜君だ。
「坂田。お前だけだな。制服。」
「・・・。」
「お前、昨日制服で行く。それとも私服って聞いてきたあれはなんなんだよ。」
「・・・。」
どうやらそういうメールのやり取りをやっていたらしい・・・。
「まあまあ。」
宿毛がその中の仲裁に入る。その間僕はずっとそれを見つめていただけだった。
「永島君。」
後ろから声がする。女子の声だった。誰かと思い後ろを見てみる。僕の後ろに立っていたのは永原さんだった。
「永島君。これからのる新幹線って何系かわかる。」
いきなりそんな話をしてきた。答えたところで永原さんが分かるわけはない。恐らく今この話を持ちかけて分かる人は木ノ本と留萌だけだろう。
「高い確率で700系だな。」
と答える。
「700系。」
向こうからはおうむ返しに答えが返ってくる。永原さんにはわかるわけないから当然だろう・・・。
「というか、そんなこと聞いて頭パンクしない。」
答えが返ってきてからすぐにそう言った。
「いや、分かんないけどさぁ・・・。」
と言いかけたところでだれかが永原さんの名前を呼ぶ。その方向から近づいてきたのは玉名さんだった。
「なんだ。なんだ。永島君に告ろうと思ってたのか。」
玉名は永原の耳に手を当て、永島に聞こえないように問う。
「そんなんじゃないってば。」
永原の顔が一瞬赤くなる。
「おいおい。説得力がないぞ。」
「・・・。」
結局その間僕にはすることがない。というのは変わらなかった。木ノ本のほうは何をしているのだろう。もうすぐ集合時間になってしまう。
「なんで8時に集合なんかするのよ。」
ものすごく不機嫌な声が聞こえてきた。これは言うまでもなく・・・。
「木ノ本。お前また寝台特急撮ってたのか。」
近くに来るなりそう言った。
「うん。だって8時までつまんないんだもん。駅にこもらないでどこにこもる。」
「・・・。ていうかお前撮りすぎ。これまで何回「富士」とかの写真撮ってきたんだよ。」
「うーん。ざっと70枚は撮ったかなぁ。」
70枚。恐らく少ないほうだろう。
「その代り「さくら」だけ少ないのよ。到着時刻が8時08分だからさぁ。学校の始まる時間もうちょっとだけ遅くしてくんないかなぁ。8時40分朝礼だったら余裕で間に合う。」
「・・・。」
(蒲谷も同じようなこと言ってたなぁ・・・。)
「・・・。」
この後留萌が木ノ本の姿を見つけてはなしに入っていったので、僕にはまたすることがない状態になった。今僕がするのはただただ待っていること。それだけだ。
8時00分。全員集合しきってない。普段学校に遅れてくるメンツが遅れてくる。
8時20分。ホームに上がる。この列車に乗るのは11号車から13号車にかけて。学年の半分の人数が6番線に押し掛ける。
「新幹線をご利用くださいまして、下りがとうございます。間もなく6番線に8時、30分発。「こだま・・・」・・・。」
6番線のホームには「ひかり461号」の前にくる「こだま631号」のアナウンスが入っている。すぐに東京寄りから黄色いヘッドライトを照らした700系が6番線に入線する。
6番線に「こだま631号」が停車して1分ぐらいたつか経たないかというときにN700系の「のぞみ号」が疾走していく。当然6番線には700系が邪魔してN700系を直接見ることはできない。
「当然だけどN700系だな。」
僕がつぶやいた。
「パンタグラフがくの字になってないんだっけ。」
隣にいた木ノ本が確認してくる。
「ああ。」
どうなっているのかというとまずシングルアームパンタグラフを人の腕全体としよう。N700系のパンタグラフは肘から肩までにかけて、腕がない。ということを想像してもらいたい。それが一番簡単な説明である。
8時30分。「こだま631号」が発車。発車してすぐ。今度は「ひかり461号」のアナウンスが入る。またすぐに東京から黄色いヘッドライトを付けた700系がこちらに入ってくる。
入ってきた700系はピカピカだった。いたるところまで白い。引き戸式のドアは戸袋側や窓下が茶色に汚れているのだが、この700系はそんなところ一つもない。パンタグラフカバーもきれいなグレー。パンタグラフも黒くなかった。これで一つの仮説が僕の頭の中で生まれる。
(全般検査受けたばっかりだな。)
全般検査とは総延長90万kmを走った新幹線車両が受ける検査。他にも2日に1回の割合で行われる仕業検査。1か月単位で行われる交番検査。1年単位で行われる車輪旋盤などがある。ここで各検査内容を言うのはやめとくことにしよう。仕業検査、交番検査はともかく車輪旋盤と全般検査は何をやっているのか見当がつくだろう。
8時38分。浜松を発った「ひかり461号」は9時10分に名古屋に到着。僕たちが下りるのに手間取っている間「ひかり」は1分遅れで名古屋を発車していった。あわただしいことに次に乗る新幹線は3分後に発車する「のぞみ11号」。16番線にはすぐに「のぞみ11号」のN700系が入線。これへの乗車も手間取って「のぞみ」も1分遅れで名古屋を発車した。
名古屋を発車すると新幹線は大きくカーブするところに差し掛かる。ここでN700系の本領が発揮される。
カーブ区間には「カント」といてカーブの内側に向かって角度がつけられている。これは外にかかる遠心力を「カント」の角度で打ち消すため。つまり、新幹線は水平の状態から大きく傾く。だが、N700系はそれだけではない。
「傾いてる。」
心の声ではなく言葉に出した。
カーブに差し掛かった直後「カント」に増してさらに傾いていることを感じる。これが新しくN700系に装備された車体傾斜装置だ。「カント」の角度プラス1度傾斜を加える。これには何の意味があるかというと「カント」と同じくスピードアップのためだ。カーブ内側に車体を傾斜させることによって外にかかる遠心力を車体傾斜ぶん打ち消す。これにより、車体を傾斜することのできない従来の新幹線に比べ、東海道新幹線内の到達時分短縮に貢献しているのだ。
だが、これに入り浸れたものほんのわずかな時間。すぐに傾斜機構にも飽きて、自分の席を立った。
僕の指定席であるあの席は座っていて楽しいというほうがおかしい。座っていてすることがないのかと聞くなら、無いと答える。今は行く時だからほとんどの人が起きている。女子はトランプやウノをやったりしているが、男子はそういうことはしていない。PFPか携帯をいじっているかのどちらか一つ。新幹線に乗ってまでそれをするなんて・・・いじっている人の気がしれない。なら座っているよりこっちの方が楽しい。ここにきてやることはないのかと聞かれて答えるべきは「外を見るため」。それ以外の理由でここに来るとすれば、電話を受けたということぐらいだろう。
「やっぱり考えることは同じなんだな。」
デッキに行くと進行方向右側に留萌の姿があった。
「留萌は座らないのか。」
「座ってどうするのよ。B席だよ。B席。」
B席は新幹線3列席の真ん中。確かに。あの席を座っていて面白いとは言えない。
「なるほどな。座りたくなくなるのも無理ないわ。・・・。木ノ本は何やってるの。」
「寝てた。昨日から徹夜してたみたいだから。」
「よくやるよなぁ。」
「ホントだよ。」
一呼吸おいてから、
「永島。永島って将来運転手になろうって思ってるんだよなぁ。」
いきなりそれた話題を振った。
「思ってるけど、それがどうかしたの。」
今、頭の中は・・・、
「さくら。ちょっと来なさい。」
お父さんに呼ばれて、部屋へ向かう。
お父さんは机から紙を引き出した。これをやれというのだ。0から48まで数字がランダムに埋まっている。何の規則もない。
「それと「クレペリン検査」ができなきゃなれないぞ。」
まだ自分が小学生の時だ。運転手になりたいといった夜彼にそう言い聞かされた。
「・・・。いや、なんでもない。」
(なんでもないのに話すなんて・・・。変なの。)
それからというもの僕たちは反対の景色を見ながらずっとデッキにいた。戻った時は京都、新大阪、新神戸、岡山の停車直前。そのあといらないお昼を食べて、広島からまた復帰する。小倉と停車直前に客室に戻り、博多に停車するアナウンスが始まるところで自分たちの席に戻った。
博多に着いたらここから先は熊本までバスである。熊本到着は16時00分の予定。これでは死ぬ。
バスが止まっていたのは博多まで来た時に乗り込んだ夜行バス乗り場。下に自分たちの大きな荷物を置いて、ポシェットだけを持って乗り込む。だが、僕はバスに弱い。後ろのほうに乗っていて酔ってしまったことがあるからだ。それ以来バスは前のほうに乗ることを心掛けている。僕が座ったのは9番席。当然窓側。
発車してから、この道中を共にするバスガイドの紹介。走っている間もこの近くゆかりの地の説明などいろんなことを話していたが、興味がない。そういう話は一切この頭が受け付けないのだ。
もうすぐ基山サービスエリアに止まるという頃目が覚めた。
(813系。)
走り去っていく赤い車両を見て、心の中でつぶやく。
「あっ。あのKYが。」
木ノ本の声が聞こえた。
「永島。あれなに。」
騒々しい・・・。
「うるせぇ。木ノ本。黙れよ。」
「うるさいわねぇ。私じゃなくて、空気の読めない電車が悪いのよ。」
「・・・。」
「813系だよ。今の。」
「813系・・・。ああ。「赤い子」かぁ。」
どうやら思い出したらしい。
それからというものこのバスの中は静かになった。2時という時間がみんなを眠りに誘っているからだ。確かに僕も眠いのだが、寝ることができない。理由は当然バスのエンジンがうるさいことと縦に横に小刻みに揺れてくれるこの乗り心地のせいだ。この中で寝れる人の気がしれない・・・。
16時少し過ぎたころ。熊本城に到着。ここから1時間30分ここを見学して、その後夕食。夕食はすでにさらにとられた野菜、肉類で焼き肉。だけ終わってホテルに向かった。
「・・・。」
ちょっとホテルの近くの風景に見入る。
「永島どうした。」
宿毛は反応のない僕が気になったようだ。
「えっ。いや、ただ去年来た時にこんなに近くまで来てたんだなぁと思って。」
「あっ。そうか。お前去年ここに来たんだっけなぁ。」
「なら、何で韓国にしなかったんだよ。」
同じ部屋に泊まる長浜が不思議そうに聞いてきた。
「いや、だって俺飛行機嫌いだし。」
「高所恐怖症のなのか。」
「いや、そんなんじゃないぜ。こいつの場合は飛行機がいつ落ちるかわからないから乗りたくないんだよ。」
「・・・。」
長浜からの言葉がなくなる。
「いや。飛行機って400年とかそれぐらいに一回ぐらいしか落ちないっていうことだけど。」
「その割には結構落ちてるじゃないか。」
「・・・。多分それはこの世に存在してる飛行機が多すぎるからだよ。例えば、この世の飛行機があり得ないけど400機いたとして、400年測定したら、ほぼ1年に一回飛行機が落ちる計算になるだろ。」
「でも、結局は落ちるんでしょ。」
「・・・。まぁ、そういうことになるな。」
それから今日の行動を感想にまとめしおりに書いた。
今回からの登場人物
2年6組
大垣隆治 誕生日 1993年5月25日 血液型 O型 身長 162cm
長浜恵 誕生日 1994年3月10日 血液型 AB型 身長 165cm
坂田篤士 誕生日 1993年9月15日 血液型 A型 身長 169cm
今回は後書きで書くことに困ったのでこのストーリー中の人物のことを少し触れたいと思いました。
永島智暉。
本作主人公ですが、名前が主人公らしくないと思ったら負けと思いました。
下の名前は僕の友人で、とても鉄道に詳しい人の名前を付けました。もちろん了解を得ています。その人も独学でいろんな鉄道知識を持っているうえに、言うことがすごいんです。電車好きなはずなのに電車を差別していますからねぇ。