83列車 それぞれどうしてますか
臨地研修から帰ってきて一夜明けた。
今何をしているのかというと、
「こまち。ちょっと来い。」
「何。お兄ちゃん。」
「はい、これ。」
柊木はデジタルカメラの写真を再生して妹に見せた。
「うわぁ。お兄ちゃん撮ってきてくれたんだ。」
「本当はもっときっちり撮るつもりだったんだけど。ごめんな。ちょっとブレちゃって。」
「ううん。お兄ちゃん。ありがとう。」
(よかった。)
柊木は心の中で安心した。
木ノ本は、
「間もなく、1番線に、「寝台特急さくら号」。東京行きが、参ります。黄色い線の、内側までお下がりください。」
8時07分。豊橋寄りに黄色く、目に突き刺さるライトがホームに近づいてくる。
(チャンスは1回。)
「寝台特急さくら」に向けてシャッターをきる。
「よし、これで終わり。さぁて、家に帰って寝るかぁ。」
浜松駅で次の日の朝まで寝台特急を撮影していた。
留萌は、
(またJR東日本は新しい車両作ろうとしてる。なんか不格好だなぁ。なんか電車も最近かわいいの減ってきたなぁ。なんでもっとかわいいの作んないのよ。0系見たいに。)
買ってきた鉄道ジャーナルに目を通していた。
隼は、
「チャラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラン。ラ、ラ、ラ、ラ、ラン。ラン。ご乗車ありがとうございます。今日もJRをご利用いただきまして誠にありがとうございます。この列車は「寝台特急はくつる号」、青森行きです。途中止まります駅と、途中停車予定時刻をお伝えいたします。大宮、22時50分、宇都宮、0時02分、盛岡、5時30分・・・。終点青森には明日の朝8時15分。終点青森には明日の朝8時15分の到着を予定しております。・・・」
録音した「寝台特急はくつる」の車内放送を聞いていた。
そして、僕はというと・・・。次の日は10時ぐらいまで布団にこもっていた。久しぶりに携帯電話の通信ロックをきった。すると携帯が震えた。「誰からだろう。」と思ってメールを開いた。From:坂口萌。送った時間は8月4日22時10分となっていた。
「お疲れ様。臨地研修楽しかった?明日はゆっくり休んでね。もし、疲れてなかったら、行ってきたときに撮った写真や思い出話いっぱいしてね~。」
となっていた。さっそく、言葉の羅列と「寝台特急カシオペア」「北斗星」「はくつる」「ゆうづる」「あけぼの」「スーパー白鳥」の写真を添付して送った。もちろんメールで全部語れるとは思っていない。本当にいい思い出だ。
(ナガシィって本当。いいなぁ・・・。)
携帯電話の端末を見ていると、心の中がそれでいっぱいになる。自分だってこんな風にどこかへ行ってみたい。バイトもしているからいつでも行けるわけではない。そろそろバイトも辞めようかと思っている。必要な金額はすべて揃った。後は機会・・・。
黒崎と薗田は・・・、
「いいか。ここがこうなるから、この答えがこうなるの。分かる。」
「梓。数学分からないのによくそんなにわかるね。」
「うるさい。こんな簡単な問題分からないほうが頭おかしいわよ。」
やっているのは「3x2乗+5xy+2y2乗」。
「これできるのに、何で応用できないの。」
「難しいからよ。」
鳥峨家は・・・、
「くそ。何が何だかまだわからねぇ・・・。」
頭を掻いて天井を見上げてみた。
(坂口ってよく分かるよなぁ。いつあんな知識習得したんだよ。これぐらい簡単じゃないか。なんで俺には習得できないんだよ・・・。)
ウィキペディアを開いて、調べても相変わらずどこがどうなっているのかつかめない。今のところ分かっているのは新幹線の形式。これが分からなかったら話にならない。
「坂口って東海道新幹線の駅くらい全部言えるんだよなぁ・・・。」
つぶやいた。
鷹倉先輩は・・・、
「ふぅ。やっぱ「ひかり」だと速いのに遅かったなぁ・・・。でも、感謝するぜ。300。」
数日前に来た東京に降り立っていた。隣にいる300系にありがとうを言って、ホームを歩きだす。隣のホームには新たに加わったN700系と1999年から東海道新幹線に仲間入りした700系の姿がある。左は東北新幹線。すぐそこにはE4系が止まっている。その向こうに何がいるのか今は分からない。
「さて。もし受かったら、俺はここで・・・。」
新幹線から発せられる音にかき消される声で自分に言い聞かせた。
他はほぼ勉強に追いやられていたと思われる・・・。
そんなこんなで夏休みも終了。9月1日から2学期がスタートする。いつもと同じように6時50分発の普通で涼ノ宮まで乗車。到着したら降りて、学校に行く。
学校では何かパッとしたことはあるわけではない。だから、夏休みに遊びふけっていた時のほうが懐かしい。またすぐにあのようになれるだろうが・・・。
2年生の二学期には体育祭、修学旅行、球技大会の順に行事がある。体育祭は1学期の終わりに選手決めをして、修学旅行は2年生始まってすぐの段階から話が進んでいる。球技大会はまだ全く話が進んでない。
「・・・。」
僕は修学旅行のしおりに目を通していた。どうしても気に食わないことが一つある。はじめてN700系に乗れるということはどうでもいい。問題はその位置だ。僕が座る位置は12号車13番D席。最悪の場所だ。
こんなことにいつまでも考えているわけにもいかない。すぐに部活のほうに回る。2学期の期間中にある展示は10月9~11日にやる篠山図書館での展示。修学旅行は10月11日から15日にかけて。最後の展示に行けないことにも引っかかる。これはどうでもいいか。次が11月7日にある遠州鉄道の遠鉄フェスタでの展示。次が11月20,21日の瀬戸学院大学の文化祭。そして12月の23日から26日にかけて行われる産業展示館キラキラ鉄道博。2学期はいろんな意味で忙しい。
私のほうの2学期は至って暇な時である。ただ、結構いろんなところで展示をやるのでそれには見に行きたい・・・。自分としても今このことはどうでもいい。一つだけどうでもよくないのがある。修学旅行で初めてN700系に乗れるのはいい。だが、問題はその位置。13号車10番C席。最悪の場所だ。通路側でいいことなんて一つもない。
(くそー。綾の独断で決められるとこうなるんだよなぁ・・・。)
なら、そうするなと言えばよかったと思う人もいるだろう。しかし、そんな暇がなかったという結果がこれだったのだ。
9月の終わり。9月29日に予定されていた体育祭は雨で中止、9月30日が予備日だったのだが、これも雨で中止。結局体育祭は行われないまま10月に入った。でも、これは僕にはうれしかった。なぜなら、太陽が照りつけている中外にいる必要がないからだ。
10月に入ったら篠山図書館での展示の準備だ。やる場所は図書館のためうるさくはできない。小声で話す程度ならオーケイだ。
ここに運び込むモジュールを選んで、10月7日に運び込み、8日に設営。9日から展示に入った。
「空河。次これ行くぞ。」
僕はTOMIXのクリアケースを空河に見せた。
「どうぞ。どうぞ。やっちゃってください。」
空河の了承を得て内回りにキハ20形を置く。キハ20形はキハ20系グループの中の一つ。他にも北海道用のキハ22形、郵便車と荷物車と普通車をひとまとめにしたキハユニ26形など多彩な形式が存在する。
「うちがそれですか。だったら中はこれにします。」
北石は車両ケースの中からクリアケースを取り出して、僕に見せる。別に見せる必要な無いのだが・・・。手に取った車両はTOMIXのキハ48形。これにも多彩な形式が存在しており、両開きのドアを備えるキハ47形。これの礎になる気は40形などだ。これらはキハ40系グループの中の数種類だ。
「おい。何走らせてるんだよ。」
それを見るなり柊木が言う。
「これのどこがこいつらに合うんだよ。」
柊木は展示しているモジュールを指差した。展示しているのは都会的なものがほとんど。本当はこんなところ走っているほうがおかしいというのは僕も北石も空河もよく分かっている。
「いいんだよ。模型なんだから。細かいことは気にするな。」
「少しはしろよ。」
こんな話をしながら、僕たちは展示をやった。2日目はシナ先生も手伝いに来てくれて、大助かり、3日目はどうなったのかは当然だが、分からない。
篠山図書館の展示3日目。今日僕たちは九州に旅立つ。
「宿毛。よーす。」
今ここは遠江急行芝本。いつものことでここで宿毛と出会う。
「なんだ。今日は浜松駅まで送ってもらうんじゃなかったのか。」
「うん。そのつもりだったけど、ここまででいいよって言ったから。」
「なるほどなぁ。」
「でも、迎えに来るときは浜松駅まで着てって言った。」
「・・・。」
僕はかぶっていた帽子のつばを少し下げる。結構色あせている。
「お前。それいつの帽子だよ。」
宿毛は汚れた帽子のことが気になったらしい。
「いつのって。中学1年からのだよ。」
「坂口にもらったのか。」
「うん。」
「お前PFPといい帽子といい結構もの大切にするんだな。俺なんかそういうものってほとんど捨てたからなぁ。使えなくなると。」
「これもPFPもあいつからもらったものだし、捨てられないよ。どんなに汚れても。使い物にならなくてもさぁ。」
宿毛と僕はある意味正反対なところもあるのだ。
話がそれるが、今かぶっている帽子は中学1年生の時に萌からもらったもの。その後旅行に行くときはいつもこの帽子をかぶっていっている。もちろん夏の臨地研修にもだ。PFPは小学校5年生の時に萌からもらったもの。普段ゲームはやらない人だが、このときは少しゲームに興味があった。それでどちらが電車でGO!で高得点を出せるか競ったものだ。
たくさんの思い出を詰めて、たくさんの思い出が詰まっている。
今回からの登場人物
柊木こまち 誕生日 2000年3月23日 血液型 B型 身長 127cm
寝台特急と言ったらイコールブルトレなんて言うことはありません。
いい例は「カシオペア」です。あれは寝台特急の仲間ですが、ブルトレの仲間ではありません。その理由は使われているE26系の車体がブルーじゃないからです。同じ理由で「サンライズエクスプレス」もブルトレの仲間じゃありません。
そもそも「ブルトレ」とは「青い客車」のことしかさしてないからです。もちろん、この「青い客車」の中にも例外はあります。