82列車 最後には最後なりの
17時00分。東海道本線の乗り場に行く。僕達の乗る列車17時16分発の車両はまだ10番線に来ていない。これからは浜松まで戻るために帰路に就く。ここまで来ると全員の疲れも頂点に達する。全員荷物を置いて体を伸ばしていた。しかし、17時06分。僕達の乗る列車がやってくるとそれまでの休息はうその様に忙しくなる人もいる。そういう人、みんなでその車両の前に押し掛けその車両を写真に収める。来た車両はE231系でも211系でもなかった。E217系という車両である。この車両は横須賀線の方で活躍している車両で東海道線では活躍していない。だが、このように少数ではあるものの東海道線で活躍しているのもある。
E217系に乗ると、
「それじゃあシナ先生。決着をつけましょう。」
第3回鉄道シバリしりとり大会開戦である。しかし、3回目は人の多さに阻まれて速攻で中止になった。それでも、品川までは持った。そして、佐久間達はというと発車間際になって戻ってきた模様で東京を発車してすぐの車内で見ることができた。
この列車の中では全員ばてていた。醒ヶ井はバトルアーマーの本を読みながら眠りに入っている。木ノ本はPFPの電車でGO!を進めている。佐久間と夢前はグリーン車でくつろいでいると言っていたし、箕島も起きていれなくなったようで眠っている。留萌はどこであれを買ったのだろうか。「鉄道ジャーナル」に目を通していた。中学生の方はというと大嵐が運転室の後ろから真剣な目つきで前を見ている以外は席に座って寝ているか、ゲームをしているかのどちらかだった。他にこの車両に乗っているのは北石、潮ノ谷である。OB・OGとハクタカ先輩、楠先輩、柊木、隼、アド先生は隣の2号車にいる。もちろんむこうで何をしているかなんてわからない。そして、僕はというと第3回の続きをシナ先生とやりあっていた。
「永島さん。僕も混ぜてもらえませんか。」
運転室の傍らで前を見続けていた大嵐がいつの間にか僕の前に来ていた。
「いいよ。」
僕は大嵐が座れるようにシナ先生との間を開けた。
大嵐も混ぜてやったしりとりは熱海到着前に終了した。終了といっても決着がついたわけではない。相変わらずよく続くものである。
熱海到着直前6号車付近まで車内をつたっていった。途中の4号車と5号車のグリーン車を拝見して、6号車の方に抜けた。熱海に到着すると片側56枚の扉が一斉に開きホームにどっと人があふれる。その人の間をかいくぐり隣のホームに停まっているJR東海の車両に乗り込む。211系の5000番台。ここまで来ると戻ってきたという感覚がわく。
「永島。シナ先生。いい加減あれの決着付けましょうよ。」
留萌がさっきまでやっていたしりとりの続きをやろうと言った。
「そうですね。永島先輩とは遣り甲斐がありますから。」
北石もそれに乗ってくる。
「僕達も混ぜてよね。」
そう言ったのは柊木だった。
「今度はさっきみたいにパスしないんだから。」
今のっていた列車の中で対策でもしたのだろうか。隼が自信満々(じしんまんまん)で言う。
「私もやるよ。」
木ノ本も話に参加してきた。その後は諫早、空河、朝風も誘い第1回からの参加人数は一人増えたことになった。
しりとりの方式は濁点・半濁点の取り外し可、同じものは2回以上使用してはいけないそして、鉄道に関係すれば建造物であろうとテレビ番組であろうと関係ないというルールに則って行われる。今度のまわり方はさっきよりも早かった。全員対策でもしたのだろう。
「瀬戸大橋線久々原。」
次は木ノ本のターンである。
「「ら」かよ。さっき「雷鳥」は出たし、「ライラック」はもういっちゃったし・・・。」
木ノ本は「ら」の切り返しに困った。困るのは当然だろう。木ノ本にはもう後がないのだ。
「あっ。一ついいの思いつきました。」
大嵐がつぶやいた。木ノ本の次は大嵐である。
「大嵐、何。」
隼が興味を示した。大嵐は隼の右耳に手を当て小声でそれを言った。
「ああ、確かにそうだね。」
自分の頭の中にも浮かんできた。確か、近鉄には「楽」という車両がある。
「こんな簡単なの思いつかないのかな。」
留萌があきれて言う。
「さくら、うるさい。」
両手で頭を抱えているが何も浮かんでこない。
「・・・。だめだ、負けた・・・。パス・・・。」
初めてのスリーパスによる脱落である。
「来たー。」
大嵐が嬉しそうに言う。
「南海電鉄「ラピート」。」
「それかぁ。」
木ノ本は声をあげた。
「だから言ったじゃん。こんな簡単なの分からないのかって。」
「今言われてみればそうかも。一種の簡単すぎて難しい問題ってやつだよ。」
沼津に着く間に、脱落したのは木ノ本だけで他はクリア。いつかは決着がつくはずなのに決着がつかない。どういうしりとりなのだろう。
沼津には19時28分に着いた。ここからは一気に浜松まで帰る。JR東海静岡圏の快速列車「ホームライナー」のお出ましである。その前に夕食である。ほとんどの人は夕食の調達に行ったが、僕は何も食べる気がしなかったため、そのままホームに残った。夕食の調達から戻ってくるとそれをほおばる。もちろん行儀が悪いのなんの言っている場合ではない。夕食を食べ終わった人たちからまた、さっきの続きである。さっきまでの結果は再びリセット。また1からの勝負である。
19時43分。「特急あさぎり7号」沼津行きが入線する。この臨地研修、最後に乗る車両は371系である。371系は東京の新宿と静岡の沼津を結ぶ特急「あさぎり」のために製作された車両で、「カシオペア」のE26系客車と同様1編成しか存在しない。白を基調とした屋根の高い車体が自分の前に横たえられる。
371系のプラグドアが観光バスのドアのように開いた。「あさぎり」にここまで乗ってきた乗客が下車する。乗客全員が降車し終わると次に乗り込むのは清掃員である。車内の清掃がし終わると僕達が乗り込む。座席は発行された切符が指定するところに座った。うまいことにしりとりをやるメンツが固まって座った。こうなれば「ホームライナー浜松5号」が発車するのを待たずして、開戦である。
20時00分。「ホームライナー浜松5号」がカクンと揺れて沼津を発車する。沼津を発車して「ホームライナー」は富士、清水、静岡、藤枝、島田、菊川、掛川、袋井、磐田の順に止まる。1時間39分の最後の旅路である。
静岡でナヨロン先輩と別れる。そしてこちらはまだ先を目指す。
しりとりは当然のことながら続いている。今は大嵐のターンである。
「M車。」
次は諫早の順番である。
「谷地頭。」
「「らうす」。」
北石にはまだラ行の持ちネタがあったらしい。僕も「らうす」という列車は知らなかった。
「鈴鹿。」
空河が木ノ本に順番をまわす。
「神田。」
「玉名。」
隼が柊木にまわす。
「寝台特急の停車駅、強ぇなぁ。「特急南紀」。」
「「き」・・・「き」ねぇ・・・。キハ82。」
立て続けにディーゼルカー関連を使われる。
「柊木も潮ノ谷も俺のジャンル使うなよな。」
北石が文句を言った。
「荷物室。」
朝風が続けた。
「こういうとき自分の名前っていうのは強いですねぇ。「つばめ」。」
今回のしりとりには夢前も参加している。パスは今のところ0回だ。
「目白。」
シナ先生もすぐに自分のターンを終わらせた。
「六甲ライナー。」
留萌もすぐに終わらせる。
最後は僕だ。
「「寝台特急あさかぜ」。」
これでまた大嵐に戻る。
こんなことをしている間にも「ホームライナー」浜松に向けてコマを進めている。21時35分。あと4分ほどで終点浜松に到着する。
「永島さん。このしりとりにふさわしい終わらせ方するから次まわってきたら「し」でまわしてください。」
諫早がそう言うので、
「行くぞ、諫早。高槻市。」
言うには言ったが、このしりとり最高の終わらせ方って何なんだろうか。
「終点。」
しりとりをやっていた人全員が「ああ。なるほどね。」と言った。確かにこれの最後に一番ふさわしい終わらせ方なのかもしれない。
21時39分。予定通り「ホームライナー浜松5号」は終点浜松に到着した。ここから10分くらいを経て僕たちは解散した。今までの中では心の中に残る一番のいい思い出になったかもしれない。
このしりとりで使った「らうす」ですが、北海道を走っていた列車名が乗っている本にぱらぱらめくって乗っていたというだけなので、実際にこの列車が設定されていたというのがこちらでも裏付けられていません。ごめんなさい。